2019.3.2 13:17/ Jun
新刊「データから考える 教師の働き方入門」(辻和洋・町支大祐編著、中原淳監修)が発売になりました。教師の働き方を考える一冊。先生方の働き方を「学校ぐるみ」で見直すための一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
「データから考える 教師の働き方入門」
https://amzn.to/2GQKxQT
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1日の労働時間が平均で12時間弱になる先生たち。
世界に冠たるこの国の初等・中等教育は、そうした先生方のご尽力によって支えられてきました。
しかし、社会の高度情報化・グローバル化とともに、子どもたちが学ぶべき内容は、さらに多様に、さらに深くなっています。
これまで以上に、子どもたちの学びを「支えていただく」ためにも、その「働き方」を「持続可能なもの」に見直していく必要があるかもしれない。
そのような思いで、本書は編まれています。
本書のもとになったデータは、横浜市教育委員会と中原淳研究室の共同研究「教員の働き方や意識に関する質問紙調査」です。
この調査は、横浜市の小中学校の先生たち約500名に回答していただき、「働き方の実態」と「その裏に潜む意識や職場状況」を分析しているものです。
このデータをもとに、中原研究室の辻和洋さんと、マナビラボの町支大介さんが、分析・執筆を繰り返して編み上げたのが本書です。中原は、監修や対談をつとめました。
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本書では、横浜市の先生方の「働く」にまつわるデータを余すところなく分析・紹介し、ともすれば「わたしの教育論」「わたしの残業論」に堕してしまいがちな言説に、ピリリとしたスパイスを加えています。
もちろん、データといっても「冷たいもの」ではありませんし「難しいこと」ではありません。一部の専門家が読み解くような難しい分析はほとんどなく、誰が見てもぱっとみて実態がわかるよう、グラフなどを作成しています。
本書で紹介されているデータは「学校現場で何となく感じていたこと」や「言葉に出せなかったこと」を具体的な数値として表現しています。「残業(長時間労働是正)」を問題を、このように「地に足のついたデータ」をもって論じた事例は、これまであまり存在しなかったのではないでしょうか。
また、本書では、中原研究室が、ある学校の先生方をご支援し、組織開発・サーベイフィードバックを通して働き方を見直していただくお手伝いをした事例が掲載されています。組織開発の結果、先生方が自主的に様々な取り組みをなさったおかげで、大きな成果が得られました。下記のように、事前と事後では、大きく長時間労働が是正されます。わたしどもが関わらせていただいたA小学校では、事前と事後で、労働時間が減少する効果が得られています。
本書は、学校のみならず、組織ぐるみで「働き方」を見直す「組織開発」に興味をお持ちの方にも、ぜひ手にとっていただきたい内容です。また、医療や福祉などの、他の専門職組織で働き方改革を進めなければならない方にとっても、多くのヒントを得られるのではないかと思います。
本書は、
・働き方を改善したいけど、どうしていいかわからない先生
・働き方改革についてモヤモヤしている先生
・教師を目指していて、働き方を考えたい方
・先生の働き方について知りたい方
・組織開発やサーベイフィードバックで働き方を見直す手法を知りたい方
・専門職組織で働き方改革を進めなければならない方
にお読みいただけるよう、構成しております。
構成は下記のようになっています。
序章 「忙しい先生」たちの毎日
第1章 なぜ今働き方を考えるのか
第2章 数字で描く教員のリアル
第3章 データから考える働き方改善
第4章 働き方を見直すアイデアとポイント
第5章 対談〜現場から見た教員の働き方〜
どうぞご高覧くださいませ。
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さて、下記に、より詳細に「データから考える 教師の働き方入門」をご紹介させていただきます。
まず本書のウリは、何度も申し上げておりますとおり「データ」です。
2章・3章などでは、主に、先生の残業にまつわる実態や、長時間労働を生み出してしまう理由を、データをもとに考察しました。
たとえば、下記の図は「時間外業務」、いわゆる一般企業で言う「残業」に対する先生方の意識です。
学校の先生は、時間外業務の削減をするのに、実は罪悪感やためらいを感じている人が全体で36.6%いるということがわかりました。
さらに、この罪悪感について、在校時間の長い先生(高群)、中程度の先生(中群)、比較的短い先生(低群)の3グループに分けて分析すると、どのような結果が得られるでしょうか。
すると、長く働いている先生のグループほど、罪悪感を抱いている割合が高まっていくということがわかりました。こうした先生の潜在的な罪悪感の意識が、長時間労働に結びついている可能性があるといえます。働き方の改善を進めていく上では、このような先生の意識を理解していかなければ、本質的な解決は難しいのです。
しかし、一方で、現在の働き方を続けた場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
本書がもっとも強調したいのは、先生方の「学び直しの時間」が少ないことです。
「社会の高度情報化・グローバル化とともに、子どもたちが学ぶべき内容は、さらに多様に、さらに深くなっている」にもかかわらず、先生自身が「学び直し」の時間がない状況が、現在、生まれています。
また近い将来、教壇にたつ先生方も少なくなってしまうことも、中長期には問題です。
実際に、先生方は、自分の仕事にやりがいを感じていつつも・・・
一方で、若い人にはすすめられない、とおっしゃっているのです。
将来の教育現場を安定的に維持するためにも、働き方を見直すことが必要だと思われます。
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本書のもう1つのオリジナリティは「物語」にあります。
実は、辻和洋さんは、大学院にこられる前は、筋金入りの新聞記者で、丹念な取材を通して、様々な記事をかかれていました。また町支大介さんは、元・横浜市の教員で、先生方の気持ちを痛いほど理解なさっています。
本書では、先生方の働く様子を描いた「物語」を掲載させていただいております。こうした先生の日常を、自分と重ね合わせ、自己の働き方を振り返ってもらえればと思います。
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本書の3つめのオリジナリティは「対談」です。
最終章では、学校現場で積極的に働き方について考え、発信をされている先生と中原が対談をさせていただきました。僕が対談をさせていただいたのは、
・岩瀬直樹先生(一般財団法人 「軽井沢風越学園設立準備財団」副理事長 )
・杉本直樹先生(大阪市立上町中学校国語科教諭)
・住田昌治先生(横浜市立日枝小学校校長)
のそうそうたる先生方です。
日々、どのように働けばいいのか。
部活動と働き方をいかに両立させていくのか。
そして、管理職はいかに学校をマネジメントすればいいのか。
先生方の珠玉の言葉が掲載されています。
また、特別対談として、横浜市教育委員会の島谷千春課長・立田順一課長にも、教育行政の視点から、働き方改革について語っていただきました。行政も現場もALLでこの問題に取り組もうという本書のスタンスを示しています。
また、文章中には、具体的な長時間労働是正のアイデアも満載です。
事例集としてもお読みいただけます。
また職場を見直せば、いかに長時間労働を削減できるのかも、データで論じています。
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このように本書は
「データ」ありーの
「物語」ありーの
「対談」ありーの
「事例」ありーの
の一冊です。
「教師の働き方」にまつわる知見を、これでもか、これでもか、と1冊に詰めこまさせていただきました。
どうぞご笑覧くださいませ!
最後になりますが、この場を借りて、プロジェクトにご協力いただいた横浜市教育委員会・教職員育成課の立田順一さん、柳澤尚利さん、外山英理さん、松原雅俊さん、根本勝弘さん、飯島靖敬さん、野口久美子さん、サポートをいただいた飯村春薫さん、編集の久保田章子さんに心より御礼を申し上げます。
ありがとうございました!
「データから考える教師の働き方入門」、どうぞご高覧くださいませ!
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以下は中原の監修者の言葉の全文です。
ご笑覧くださいませ
監修者からのご挨拶「データに基づけ、しかし、リアルな物語を編め」
中原 淳(立教大学 経営学部 教授)
本書「データで考える教員の働き方改革入門」は、1)小学校・中学校・高校の教育現場につとめる現場の先生方が、2)子どもたちの未来に備える学びを準備するため、3)これまでの働き方を見直し、「持続可能な働き方」を転換していくための具体的な方法を、4)データに基づいてリアルに論じた書籍です。
本邦の教員が半世紀以上悩まされてきた「長時間労働」の問題。本書は、この難問と「真正面」に向き合い、これを「データ」の力をもって変革するお手伝いをしようとしていることに、最大の特徴があります。
本書が掲げるデータは、横浜市教育委員会と立教大学経営学部 中原淳研究室の3年間にわたる共同研究の成果です。立教大学経営学部 中原淳研究室は、人材マネジメント・人材開発・組織開発を専門にする研究室です。これまで多くの組織に対する調査を行い、これを現場の方々にお還し、現場の変革を導くアクションリサーチを志してきました。
中原研究室にとって、研究とは「現場の変革を志すひとびとにとっての応援歌」のようなものです。本書においても、研究で取得した様々なデータは、横浜の先生方、教育委員会の方々にしっかりとお返しをしてきたつもりです。この研究では、横浜市の30校の小中学校の教員の皆様に、大規模な質問紙調査を行わせていただきました。ご回答いただきました先生方に、心より感謝をいたしますとともに、このたび成果として本書を刊行できますことを監修者として非常に嬉しく思います。先生方にご回答いただいた「データ」こそが力です。本書の主張は、そのデータをもとに、すべて編まれています。
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ひるがえってみれば、世間には、いわゆる教員の働き方改革の書籍は、すでに多くのものが出版されています。そのような現状にあって、わたしたちは、なぜ、新たな書籍を、ふたたび編まなければならないのでしょうか。それを読み解く鍵は、既存の書籍に対する、わたしたちが感じた欠乏感にあります。
既存の書籍の多くは、1)教育行政の施策を代弁するだけの書籍か、ないしは、2)教育現場の実状や、長時間労働がうまれる経緯や背景をまったく無視して、西欧諸国並みの労働時間を実現することだけを声高に主張するもの、3)教育行政を仮想敵にして、現場が長時間労働に陥っている状況を嘆くもの、4)学校経営の「わたしの経営論」を絶対の基準にして、長時間労働是正のマネジメントを論じるもの、のいずれかだと、わたしたちは認識しています。もちろん、そうした書籍も有用な知見を提供していることは言うまでもありません。しかし、一方で、ここに、わたしたちなりの強みを活かすことにいたしました。
それが、本書が掲げる特徴である「データに基づく」という部分です。そして、それらのデータが、教育委員会との共同研究によって取得できた、実際の教育現場からもたらされたものである、という点において、本書は、類書との大きな差異をもつものと思われます。
しかし、「データに基づく」ということであれば、監修者として本書を読者の皆様に自信をもって推薦することができないのかもしれません。データは「数字」です。物事を変革することに「数字」は有用ですが、しかし、それだけではやはり欠乏感を感じざるを得ません。そこにもうひとつ必要なものとは何か。
それは「物語」です。
本書の特徴のひとつは、「データの背後」に「リアルな物語」をもつということです。
編集者の辻和洋さんは、もともと読売新聞者で記者をしていました。切った張ったの取材で培った辻さんの丹念な取材、現場を見つめる目は、本書にもおいてもいかんなく発揮されています。またもうひとりの研究者である町支大介さんは、研究者になる前は、横浜市の中学校で現場の教員をなさっていました。教育現場で培った子どもや教師をみつめる、町支さんの温かい目は、本書にいかんなく発揮されています。本書冒頭で編まれているルポルタージュ、また、調査報告の段において時折差し挟まれている「現場の先生方の生の声」から編著者が編んだ「リアルな物語」をみてとることができます。
データに基づけ、しかし、リアルな物語を編め
これが、横浜市教育委員会と中原研究室が取り組んだ共同研究の特徴であり、また、本書をつらぬく本当の特徴なのかも知れません。
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最後になりますが、本プロジェクトを遂行プロセスでは、著者リストに名前は連ねてはいないものの、多くの皆さんのご尽力とご協力をいただきました。横浜市教育委員会・教職員育成課の立田順一さん、柳澤尚利さん、外山英理さん、根本勝弘さん、松原雅俊さん、飯島靖敬さん。大学側は、辻和洋さん、町支大介さん、飯村春薫さん、本当にお疲れ様でございました。
対談章では、軽井沢風越学園設立準備財団の岩瀬直樹先生、大阪市立上町中学校の杉本直樹先生、横浜市立日枝小学校の住田昌治先生、横浜市教育委員会の立田順一さん、島谷千春さんにもご登場いただく機会をえました。ありがとうございます。また質問紙調査にご回答いただいた横浜市の先生方に心より感謝いたします。
毎日新聞社の編集者、久保田章子さんには、辻和洋さんと町支大祐さんという若い二人の編著者との伴走をいただきました。あわせて心より感謝いたします。ありがとうございました。
「生き生きと働くことのできる先生方」の「すぐその先」には、「未来を担う子どもたち」がいます。
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