2018.12.10 06:52/ Jun
「先生、人事のビックデータを分析したんですけどね。そしたら、「離職の可能性の高い従業員」を予測することができるようになったんです。離職する可能性のある従業員は、欠勤が多いんですよ。ま・・・だよねって、感じですけど。これで、自信をもって離職予測ができますよ」
「先生、うちでもAIを使って、売り上げを増やす方法を分析してもらったんですよ。店のトイレの方の角のところに、食べ物の売り場を移した方がいいっていうんですよ。なんでって? いや、理由は、よく、わかんないんですけれどね。AIは理由はわからないらしいんですよ。でも、困っちゃいますよね。食べ物をね、便所の近くに置けないじゃないですか・・・」
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クリスチャン・マスビアウ著「センスメイキング」を読みました。
本書「センスメイキング」は、端的に申し上げれば、
昨今の世の中が、
1.アルゴリズム至上主義
2.STEM至上主義(Science, Technology, Engineering and Mathematics:科学・技術・工学・数学)
3.データ至上主義
に陥っていることに警鐘をならす本です。
反対に、本書が復権をとなえる知は「意味」や「文脈」や「関係」を取り扱う「人文科学の知」。そのことは、「センスメイキング(Sense making : 意味づけ)」という本のタイトルからも類推できるのかな、とも思います。ビジネスの文脈や事例をとおして、構造主義や現象学といった人文科学の知を概観することができる書籍かと思います。
著者も再三にさたって述べておりますが、昨今は、とにかく
1.人間は分がわるい
2.人文科学がやり玉にあげられる
世の中なのかな、と思います。
コンピュータやAIに比べて、ヒューマンファクターをあわせもつ人間とは、どうにも非効率で、移り気で、根性がない(笑)。また、哲学、文学などの人文科学は、「役に立たないもの」として大学などの教育機関から「排除」しようという機運も感じないわけではありません。
著者同様、僕も、こうした世の中の風潮に非常に「危機感」を感じます。冒頭にだした2つの事例は、僕の抱える危機感を典型的に物語っています。
前者の「離職のお話」は「畳が増えれば、坪数が増えます」的な自明な結果なのにもかかわらず、コンピュータやAIがはじきだした、というだけで価値をもってしまう事例です。
後者の「店のレイアウト」変更は、「意味や理由はわからないのだけれども、コンピュータやAIがはじきだした相関関係だけで、アクションが決められてしまう事例」です。
いずれの事例も、わからないように一部加筆・修正はしておりますが、本当にあった事例です。たったこの2つの事例からも、アルゴリズム至上主義、STEM至上主義、データ至上主義化する現代社会を感じてしまうのは、僕だけでしょうか。
誰も言わないのです。
欠勤が増えたら、離職するの、あたりまえじゃねーか、このタコ!
トイレの近くに、食べ物の売り場をうつしてどうする?このアホンダラ!
とはね(笑)
ビックデータやらAIが分析したってだけで、アリガタがっちゃってるから(笑)。
こうしたことに問題関心をもつ方には、本書はおすすめです。本書を読めば、人文科学の知を学ぶことの意義を、再確認できるのではないでしょうか。
このブログでは、再三にわたって申し上げてきております。
データそのものは「現実」を変えませんよ、と。
データは「意味づけられて」こそ、現実を変える、のですよ、と。
「現場の変革」を導く「組織調査」はいかに行われるべきなのか?:組織のなかの「対話のデザイン」!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9615
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週の最初は、書籍の紹介からはじまりました。
皆さん、今週は、年のくれが迫り、お忙しくしていらっしゃるのでしょうかね。ひとによっては、忘年会や会食つづきかな。
今週も頑張りましょう。
そして人生はつづく
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