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2018.11.12 06:36/ Jun

あなたの会社には「フィードバック文化」がありますか?:フィードバックは「ごちそう」!?

 フィードバックは「ごちそう」!
   
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 先日、あるとても元気で優秀なビジネスパーソンの方がおっしゃっていた一言です。その方の会社では、会社の掲示物?か何かに、上記のスローガンが書かれてあったそうです。
  
 フィードバックは「ごちそう」!(笑)
  
 ここでフィードバックとは「たとえ耳の痛いことであっても、部下などの相手に現在の状況を通知し、その後、行動を立て直すお手伝いをするような成長支援法」とします。
 一般に、フィードバックは、たまに「相手のプレゼント」とか「相手の成長をうつしだす鏡」のようなものに喩えられます。「ごちそう」は、これまた面白い喩えですね。
   
 よほど、会社のなかで、フィードバックを相互に行う文化ーいわゆる「フィードバック文化」が浸透しているのでしょうね。まことに興味深いことです。
  
  ▼
  
 フィードバックを、組織ぐるみで、どの程度推進しているか。
 フィードバックを相互に行うことが、どの程度、組織に浸透しているか。
  
 こういうことが組織的に浸透・推進されている程度のことを、「フィードバック文化」と掲揚することも可能です。そして、社会には、ごくごく自然にフィードバックがなされる組織ーすなわち「フィードバック文化」が強い組織と、そうでない組織があります(Sully de Luque, M. and Sommer, S, M. 2000 Academy of Management Journal. Vol.25 No.4)。
  
 それを考えていく上で、重要なのは「フィードハックのためのコスト面」に関する考察です。
 フィードバックとは、パワフルな部下育成の手法ですが、それを組織ぐるみで推進していくためには、様々なコストがかかります。
  
 ひとつめは「エフォートコスト(Effort cost)」です。。
 そもそも、フィードバックを受けるためには、誰かがフィードバックをおこなわなければなりませんが、たいがいは耳の痛いことを言う必要がありますから、好き好んでやる人はほとんどいません。
 耳の痛いことでもしっかり言ってくれる人が、その組織にいるのかどうかで、フィードバックの有無が決まってきます。そうした人材を確保するコストのことです。
  
 ふたつめは「フェイスコスト(Face cost)」です。
 フィードバックは生身の二人以上が相対して、耳の痛いことを伝えなければならないので、それなりの時間をかけて話し合わなければなりません。このような、フィードバックのために、実際に他者と対面するコストを積極的に払ってくれるかどうかは、組織によって大きく差があります。
   
 みっつめはのコストは、「インファランスコスト(Inference cost)」です。
「大人の学び」には痛みが伴うものであり、せっかく得られたフィードバックを解釈し、実行するためには、それなりの負荷がかかります。しかし、時間的・精神的余裕がなければ、フィードバックを正しく受け止め、実行するのは困難です。個々人がその余裕をどの程度持てるかは、個人よりも、組織がそのコストを払うかどうかという問題になります。
  
 組織においてフィードバックが浸透し、相互に行われるためには、これらの3つのコストに対して、組織ぐるみで「それでもやっていくのだ」という答えをだして、地道に実践を積み重ねる必要があります。
  
 逆に・・・フィードバック文化が低い会社とは
  
 ・フィードバックという考え方を知り、実践できる人材がそもそもいない
 ・フィードバックを行うための面談コストを支払っていない
 ・フィードバックを腹におとすための時間的コストを払っていない
  
 ということです。
  
 すなわち、これは「経営の意思決定」の問題でもあるのですね。
 いくらフィードバックが大切だ、重要だ、といっても、経営としてそこにコストをかける意思決定を行っていなければ、組織のなかのフィードバック文化は浸透しません。
  
 ・フィードバックをやれる人もいない
 ・フィードバックをする時間もない
 ・フィードバックを腹におとす時間も余裕もない

 のに、フィードバックが組織において浸透するわけがございません。
  
  ▼
  
 ちなみに、、、お恥ずかしながら、僕は「フィードバック入門」や「実践!フィードバック」という本の著者ですし(笑)、そうしたことを重要だと思っている方が周囲に多いので、僕がおつきあいさせていただく会社は、比較的、フィードバック文化が強い組織が多いような気がします。
  
 また、ふだんの仕事で深く関係している立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラムも、比較的、「フィードバック文化」が強い組織ではないか、と推察します。
 同校のビジネスリーダーシッププログラムでは、授業のなかで「フィードバック」や「リフレクション」の重要性はくどいほど、学生に周知徹底されています。立教経営の学生たちは、1年生・2年生のビジネスリーダーシッププログラムのなかで、当然のように360度フィードバックを受けておりますし、授業内で、相互フィードバックをしあう機会もございます。
 
 そんなわけかどうかは知りませんが、学生も、フィードバックには慣れているような気がします。
 学生は、ごくごく自然に「先生、フィードバックをいただけませんか?」と言ってきます。
  
 あなたの組織は、フィードバック文化が根付いていますか?
 フィードバック文化が根付かせることが必要なら、何から手をつけますか?
   
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   
新刊「実践!フィードバック」が重版3刷決定、前書「フィードバック入門」は11刷、もうすこしで4万部にいたる勢いです。耳の痛いことをいかに部下に通知し、そこから立て直しをはかることができるか。全国各所の管理職研修で用いられています。はじめてリーダーになる方、管理職になる方におすすめの2冊です。どうぞご笑覧くださいませ!
      
 
    
DVD『フィードバック入門』
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/
   
 最近、「フィードバック入門」のオーディオブックも発売になりました。オトバンクaudiobook.jpで音声をご購入いただくことができます。どうぞご利用くださいませ。
  
オトバンク「フィードバック入門」
  
  ーーー
    
【ぜひご覧ください!:立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラムの新紹介動画が公開されました!】
  

  
 立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラムで学ぶ学生たちの表情や、ビジネスリーダーシッププログラムに多大なる貢献をいただいている先生方、スチューデント・アシスタント、コース・アシスタントの皆さんの奮闘する姿を、どううかご覧ください。一言でいいます。立教経営、楽しいよ。ぜひご覧ください。
 編集を担当してくださった、経営学部3年生の尾花俊弥さんには、この場を借りて、御礼を申し上げます。ありがとうございました!
  
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