2018.7.14 07:18/ Jun
「明日の自分」は「他人」である。
だから、僕は、昨日自分が学んだことを、このブログに記し、「明日の他人」に残そうと思う。
「明日の他人」は、おそらく、このブログを検索し、今日の日の記憶をたどるだろう。本当に「今の自分は、他人だわ」と感心しながら、きっと下記を読むに違いない。
下記は「明日の自分」へのメモである。
忘れるな、、、君は、すこぶる忘れっぽい(笑)。
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この週末、金曜日から日曜日までは、南山大学で開催されている組織開発の公開研究会、ワークショップに参加している。
カナダ・サイモンフレーザー大学のジャルヴァース・ブッシュ教授が、南山大学の中村和彦先生の招聘により来日し、一連のワークショップをしてくださっているのだ。
まずは、このような会を開催してくれた、中村和彦先生に心より御礼を申し上げる。かつて僕も経験があるが、海外からの招聘は、本当に気をつかう。本当にありがとうございました。
下記は、まず金曜日の公開研究会についての、個人メモである。
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この日の公開研究会(ブッシュ教授の講演)は、まず、対話型組織開発の説明からはじまった。
対話型組織開発とは、誤解を恐れず要約すれば、
1.社会構成主義やナラティブアプローチなど、ポストモダン型の認識論(哲学)を背景にもつ組織開発の形態であり
(この組織開発を志す人々は、ポストモダン型の認識論を共有している。組織における現実とは、人々が、組織内の現象をいかに意味づけるか、によって構成されていると考える)
2.人々の語り方や会話のパターンを「変革すること」を通して、組織をも「変革すること」ができるものだという考え方に基づいている組織開発である
(人々は、みな集団で意味づけを行い、またストーリーを構成し、それに基づき行動していると考える。対話型組織開発は、これを変える。会話の発言権をもっている主体を変える、会話の意味づけやストーリーをかえる、人々のストーリーを変える・・・などのことをめざす。すなわち、対話型組織開発とは、「語り方・意味づけの変革にもとづく組織変革論」なのである)
ということになる。
中村先生が、会の最後にワンセンテンスでおっしゃったひとこと
「どんな意味づけをするかで組織は変わる、と考えるのが対話型組織開発」
というのが、もっともシンプルでいてパワフルな「対話型組織開発の要約」かな、と思われる。
まさに「慧眼」である。
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それでは、対話型組織開発は、どのように、それを行うのか?
ここではブッシュ先生の持論である「生成的リーダー論」もまじえながら、下記を記す(おそらく対話型組織開発の主導者全員が下記を支持するわけではない)。
ブッシュ先生によれば、対話型組織開発では、特有のいくつかの「手段」が提案される。
1.サーベイなどを多用した伝統的ODとは異なり「科学的な手法」を用いないし、「組織内診断」も行わない。むしろ、大規模にステークホルダー全員が集まるようなカンファレンスで、メンバーが共有している「意味づけ」の変革をめざす
(人は小集団に別れていると、自分勝手にストーリーや意味づけをつくりあげる。たいてい、そのストーリーは「悲観的」なものだ。だから、対話型組織開発では、関係者一同を集め、意味づけの変革をめざす)
2.「計画主義」にもとづきプロセスが定められていた「伝統的OD」とは異なり、対話型組織開発は、変革を「不断のプロセス」とみなす
(端的にいえば、対話型組織開発とは「終わりがない」ということである。「終わりがない」ということは、外部からの介入に限界があるということだ。最終的には組織内部の人がそれを担う必要がある)
3.対話型組織開発では、(多様な関心をもつ)関係者一同が同時に集まり、対話を行うことのできる「コンテナ(対話の機会)」をつくることがめざされる。ここでコンテナとは、1)多様性のあるメンバーが、2)心理的安全を確保されつつ、3)何かを成し遂げようと、4)新たな物事をつくるような対話の機会である。わたしたちは、こうしたコンテナの中で「計画された創発(計画はするものの、何がおこるかわからない創造の賭け)」を達成することができる。
4.対話型組織開発では、ひとびとの対話を通して、会話を変えること、人々が支配的に囚われているストーリーの書き換えを行うことをめざす。
5.組織を変革するときには「生成的イメージ(Generative image)」を用いて、人々の関心をひき、立場や党派制を超えた会話をうながす。「生成的イメージ」を用い、変革を志すひとのことを「生成的リーダー(generative leader)」とよぶ。
6.組織を変革するときには、「生成的リーダー」は、集団に対するコントロールを「手放す」必要がある。生成的リーダーは、その場の進行(プロセス)はリードしつつも、変革をいかに行うかはメンバーに委任する
7.メンバーは「生成的イメージ(Generative image)」のもとで、対話を試み、場合によってはメンバー同士で集まり、さまざまな「パイロットプロジェクト(実験)」を試みる。この不断のプロジェクト進行によって、徐々に組織を変革していく
ということになるのかな、と思う。
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ここでもっとも重要なのが、言うまでもなく「生成的イメージ(Generative image)」である。
ブッシュ教授によれば「生成的イメージ(Generative image)」とは
1.日常的ではない言葉の組み合わせからなる標語であり
2.人々をひきつけ、将来を指し示すひと言
であるという。
例にだしておられたのは、1980年代、カナダ国内を二分し激しい対立を繰り返していた「環境保護派」と「ビジネス推進派」のもとに突如としてあらわれた「標語」である「持続的な開発(Sustainable Development)」という言葉だ。
ブッシュ教授によれば、「持続的な開発」という概念が提案されてからというもの、「環境保護派」と「ビジネス推進派」のあいだには対話が生まれたという。
「持続的な開発(Sustainable Development)」をより詳細に分析すれば、生成的イメージについてより詳細なことがわかる。
まず、第一に、この言葉は「オキシモロン(形容矛盾)」である。
それまでの社会通念では「開発」は、もともと「unsustainable」なものとされてきた。そして、「Sustainableなものは、反開発である」とされてきた。だから「持続的な開発」とは、「Sustainableなunsustainable」といっているに、実は等しい。要するに一語において2つの相反する要素が入り込む、典型的な「形容矛盾」である。しかし、この「形容矛盾」の提示こそが、相反する2つのグループを「統合」する
次に「持続的な開発」は「曖昧性」をもつことばである。この言葉のもとで、何をしていいかは、この言葉をきいた人々が対話を行い、決めていくことができる。こうした「スキ」や「ツッコミどころ」がある言葉こそが、「生成的イメージ」として機能する、ということになるのだろう、と思う。
ま、昨日までの学習は、こんなところであった。
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今日明日と「修行」はつづく。
家族に無理をいって、今回の学びの機会をつくった。カミサンには心より感謝している。せっかくつくった機会である。しっかり学ぼうと思う。
そして人生はつづく
(上記の文章ではわかりやすさを考え、対話型組織開発の思想的基盤を「社会構成主義」と「一刀両断」してしまいましたが、ここには個人的には「違和感」も感じています。
といいますのは、対話型組織開発のルーツをたどっていけば、もっともっと「広いアカデミックワールド」が広がるように思うのです。思想的にいえば、まず、それは、おそらく「社会科学における解釈的アプローチ」ともいわれるべき知的潮流の流れに属するような気がします。
「解釈的アプローチ」は、ドイツ観念論を体系化したフッサールを起源にした知的アプローチで、端的にいってしまえば「現実」は外界にそれ自体存在しているわけではなく、人間の意識によって構成されることを主張するアプローチかと思います(このワンセンテンスは、フッサールに便所スリッパで殴られると思う)。
「解釈的アプローチ」は人間のもつ主観的意味づけや、主観的な現実の構成を重視します。それものちの解釈的アプローチは、個人による主観的な現実構成を相手にするだけでなく、現実構築における社会的な側面を重視しました。すなわち、「ひと」ではなく「ひとびと」が「現実を秩序だてていく」ような社会的プロセスに着目したのです。
これが、のちに社会科学として展開していったのが、バーガー&ルックマンの「現実の社会的構成」であり、ガーフィンケルの「エスノメソドロジー」であり、ブルーマーのシンボリック相互作用論であり、ガダマーの解釈学ではないかと思うのですが・・・社会的構成主義は、このあとのあとくらいにでてくる話かな。
まぁ、細かい話なんで、いいですけど。マニアックトークやめ。いずれにしても、まだ整理がついていません。修行します)
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■関連記事
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