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2018.7.13 05:32/ Jun

「業務削減」に失敗してしまう「本当の理由」は何か?:「どんな仕事でも尊いものだ」という台詞がでてきたらご用心!

 長時間労働を是正するためには、これまでやってきた業務を見直し、場合によっては「仕事のダイエット」をしなくてはならない。
   
 長時間労働の是正は、「組織の体質改善」からはじまる。そのためには、業務のあり方を見直し、「業務削減」につとめなければならない
  
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 最近、そんなことがまことしやかに語られます。
「仕事のダイエット」「業務削減」・・・要するに、主張されていることは「不要だと考えられる仕事をあぶり出し、減らすこと」です。
  
 しかし、これは「言うは易く行うは難し」の典型のようなものです。「かけ声通り」や「スローガン」どおりに、思ったように、仕事の削減は進みませんし、ダイエットもうまくいかないことの方がほとんどです。
 研究の都合上、これまでいろいろな組織で、長時間労働是正の実態の話を伺ってきましたが、「仕事のダイエット」「業務削減」に関しては、うまくいっているところを探す方が難しいくらいです。
  
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 それでは、なぜ「仕事のダイエット」「業務削減」は難しいのか。
  
「ダイエット」や「削減」そのものが難しいわけでは、ありません。ダイエットや削減自体は、「えいやっ」と決めてしまえば、あとは実行するだけです。もちろん、実行には痛みを伴いますし、それには定着まで長い時間がかかることも事実です。しかしながら、「ダイエット」や「削減」そのこと自体に大きな課題があるわけではありません。
 といいましょうか、しょっぱなでは、もっと別なところで「ダイエット」や「削減」は「つまづく」のです。
  
 実際に、様々なお話をうかがうと、「仕事のダイエット」「業務削減」の難しさは、
  
 「(管理職が)判断の軸を持てていないこと」
  
 にあるとおっしゃる方が、少なくないことに気づかされます。
  
 すなわち、削減やダイエットを行うためには、「過去の因習」をいったん括弧にくくったうえで、「やらなければならない仕事」と「不要な仕事」を峻別しなければならないのですが、そのための「判断(意思決定)の軸が持てない」。
  
 すなわち、
  
 1.自分の職場の戦略を新たに描く必要がある
  
 2.自分の職場メンバーが相対する市場(外部環境)を知る必要がある
  
 3.何が「もっとも譲れないのか=削減せずに続けなければならないのか」を決める必要がある
  
 これら一連の作業により、「判断の軸=意思決定の公準」を持たなくてはならないのですが、これが持てません。
  
「判断の軸」が持てないのですから、目の前に「必要な業務」がこようが、「不必要な業務」がこようが、それらを峻別する目を持ち得ません。よって「削減」がそもそも難しい、ということになります。
 敢えて出席しなくてもいいような会議、そこまで過剰にコンタクト頻度をあげなくてもいいような客先周り・・・そういうものが「すべて等価」に並んでしまい、決められないのです。
  
 次に出てくる台詞は、これです。
  
「どんな仕事でも尊いものだ。すべての業務が必要だ。削減できる業務なんてない」
  
(そりゃそうだと思うのですが、こう言い切ってしまっては、削減も、ダイエットも最初から不可能です)
  
 かくして「仕事のダイエット」「業務削減」は、しょっぱなから出鼻をくじかれて、頓挫してしまうのです。
 みなさんの職場では、上記のような台詞は聞かれませんか?
  
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 今日は「仕事のダイエット」「業務削減」について書きました。
「仕事のダイエット」「業務削減」を行うためには「判断の軸」を持たなければならない。もうすこし別の言葉を使うのならば、
  
 1.職場を動かす「戦略」を持たなければならない
 
 2.職場が相対している外部環境を知らなければならない
  
 3.そして「譲れないもの」を決めなければならない
   
 ということになります。こう書いてしまえば、アタリマエダのクラッカーですが、本当なのだから仕方がありません。
  
 要するにですね・・・
  
 一般的なマネジメント能力がないひとは、「仕事のダイエット」「業務削減」もできないよ
  
 ということです。「判断の軸」が持てない職場は、過去の因習やしがらみから、どんどんと業務がふくれあがり、ブクブクになっていきます。
  
 「どんな仕事でも尊いものだ。すべての業務が必要だ。削減できる業務なんてない」
  
 みなさんの職場や、皆さんの管理職の方々は、こんな台詞を発していませんか?
  
 そして人生はつづく
  
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