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2018.6.14 05:35/ Jun

仕事人生の「ピーク」の「あと」をいかに生きるのか?! : 山田ルイ53世(著)「一発屋芸人列伝」書評

「一発屋芸」・・・瞬く間にスターダムにのしあがり、多くのひとびとに真似され、その年の「流行語大賞」にノミネートされるような「瞬間芸」のこと。
    
 話題になっている(!?)書籍を書店で、ふと手にとり、読んだ。
 山田ルイ53世(著)「一発屋芸人列伝」である。
      
 
    
 本書のコンセプトは極めて明快。
   
 自ら「一発屋」と自嘲する著者「山田ルイ53世」の目を通して、あまたいる「一発屋」の芸人たちの「その後」を描く。具体的には、下記の芸人たちの「一発芸のその後の人生」を描きだすことが、本書の目的だ。
   
 レイザーラモンHG── 一発屋を変えた男
 コウメ太夫──“出来ない”から面白い
 テツ and トモ──この違和感なんでだろう
 ジョイマン──「ここにいるよ」
 ムーディ勝山と天津・木村──バスジャック事件
 波田陽区── 一発屋故郷へ帰る
 ハローケイスケ──不遇の“0.5″発屋
 とにかく明るい安村──裸の再スタート
 キンタロー。──女一発屋
 髭男爵──落ちこぼれのルネッサンス
   
 一般に、「一発屋芸」は、またたくまに消費される。かつての「一発屋」に浴びせられていた輝かしいばかりのスポットライトは、「次の一発屋」にとってかわられる。
  
 しかし、
    
 一発屋は、一発芸のあとも、人生はつづく
  
 一発屋芸人たちは、スポットライトが自らに当たらなくなったあとにでも、自分の「その後の人生」を生きることに迫られる。
   
 しかし、この「その後の人生」というものが「曲者」だ。
 当然のことながら、「ウケた瞬間芸」のあいだに稼いだ莫大なお金は、とうに失われている。当然、「末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし」にはならない。一発屋の「その後の人生の物語」は、まことに香ばしく、まことに興味深い。
   
 ある知り合いのメディアのプロデューサーは、こういう。
   
 業界にとって「世間に知られすぎること」はリスクだ。
 賢明な業界人のなかには、ウケすぎないように、
 出過ぎないように、露出をおさえるということをするひとがいる
 自分の芸や企画が、瞬間的に、消費されないようにするためだ
  
 しかし、一発屋が、スターダムにのし上がる早さは尋常ではなかった。もちろん、露出はおさえられなかった。瞬間最大風速の猛烈な風が吹いた後は、以前とは全く異なる「その後の人生の物語」がつづく
   

  
   ▼
  
 本書を読むときに、2つの読み方があると思う。
 まずは「他人行儀な読み方」だ。
  
「やっぱりさ、芸人ってのは大変だね。売れるときはいいけどさ、売れなくなったら、シオシオのパーだもんね。あー怖い、怖い。やっぱり普通がいいよ、普通が。ほら、見てみろよ。この大変さ。やっぱり普通の生活が一番」
  
 つまり、「他人行儀な読み方」とは、この本を「第三者の立場」から見つめ、「溜飲を下げる」ために読む。
  
 一方、「自分にひきつけた読み方」というものがある。
 こちらの読み方では、「一発芸(瞬間芸)=ピーク」、「芸=自分の仕事」と読者があえて文章を読み換えて、読者自らが「自分のキャリア」を妄想しながら読む。
  
 キャリアの観点からすれば、
  
 仕事人生にも、必ず「ピーク」がある。
   
 もちろん、程度の差こそはあれど、という但し書きつきだ。
 そして、「ピーク」を終えたあとにも、多くのひとびとの仕事人生はつづく。とりわけ、健康寿命や平均寿命が長くなっている現在ならば、なおさらだ。
 多くのひとびとの仕事人生は「右肩あがりの登山」ではない。「ピーク」をすぎて、山の山頂にのぼったあとでも、いったん「下山」したり、「再登山」したりする人生になる。
  
 ピークのあとをいかに生きるのか?
  
 妄想が過ぎるとお叱りをうけるかもしれないが(!?)、なかなか興味深い読み方も可能になるのではないか、と思う。
   
 ピークのあとには、「次の山」がある
 ピークを過ぎても、「明日」がある
  
 そして
  
 ピークのあと「その後の人生の物語」は、ピークのときより、ずっと長い。
 ピーク後をいかに生きるのか?
  
 これが、第二の読み方につきつけられた「難問」である。
  
  ▼
   
 ちなみに著者である「山田ルイ53世」は、本書で自ら「一発屋」を自嘲している。しかし、本書の文体の巧みさは、一発芸を自嘲する彼の「その後の人生」の可能性を示唆しているようでもある。
    
 本書の存在をもって、著者は、自らが「一発屋」ではないこと
 自らは「一発屋」には終わらないこと
   
 を提示している。
 本書は、著者から世間に向けた「第二の人生のはじまり」の宣言文のようにも読める。

 著者の「その後の人生の物語」を、一読者として「祝福」させてもらいたい。
 その人生は長い。
      

  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
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