2018.5.15 05:58/ Jun
※2018年5月16日(水曜日)は所用のため、ブログ記事更新をおやすみします。昨日の「先生方の学び直し」の記事には、反響を多方面からいただきました。ありがとうございました。引き続き、横浜市教育委員会のみなさま、現場の皆様と、「現場にお返しできる研究」を続けて行きたいと願っております。どうぞよろしくお願いいたします。
「われわれの仕事って、割り切れないところがあるんですよ。すべては、子どものために、と思ってやってるんです。教材研究にしても、終わりがないから」
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昨年度から、中原研究室では、横浜市教育委員会と、いわゆる「教員のみなさまの働き方」に関する共同研究(調査研究)を開始させていただいておりました。
研究の目的は、横浜市の教員の皆様を対象とした質問紙調査を実施し、
1.今、現在、横浜市の教員のみなさまの労働時間は、どのようになっているのか?を明らかにすること
2.どのような要因が「労働時間の長さ」につながっているのかを探索すること
3.労働時間の長さが、いかなるメリット / デメリットを教員個人や現場にもたらすのかを考察すること
になります。
このたび、横浜市教育委員会様から機会を賜り、この3つの観点から、「教員の労働時間」という、極めて「ホットイシュー」に切り込む調査研究をさせていただくことになりました。
もちろん、この調査研究の実施に際しましては、現場から「様々なご意見」が生まれることを承知しております。この「クソ忙しい」ときに、「こうした調査こそが、労働時間の長さにつながる」、という「お叱り」をうけることは、もちろん承知しておりました。
しかし、
「現状を見える化できていないものは、適切かつ効果的な課題解決は行えないこと」
も、また事実です。
ここで得られた知見を分析し、「根本原因」を探求したうえで、しっかりと現場にお返ししていくことをめざし、このプロジェクトは実施されました。
僕は研究者のひとりとして、
「調査」とは「現場の時間を奪う罪深いものである」
ことを自戒をこめて深く認識しています。
まずは、本調査研究にご協力いただいたみなさまにお詫びするとともに、この場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
貴重な先生方のお時間を、今後、いかにして現場におかえしさせていただくか
しっかり考え、実践していく所存です。
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管見ながら、「教員の働き方」の問題は、「労働時間の長さ / 長い・短い」だけをあげつらって、論じたり、糾弾しても、あまり「生産的な議論」にはなりません。
巷では、そのような「短絡的な議論」が横行していますが、「民間企業における同様のプロジェクト(希望の残業学プロジェクト)」をパーソル総合研究所様と推進している身として、また、「現場での改革」をいくつも目の当たりにしていて、そのことをさらに痛感します。
もっとも「ドサイアク」なのは、
1.「労働時間の長さ」を生み出している「根本原因」にまったく手が打たれないままに
2.「労働時間を一律で短くすること」だけを現場に強制し
3.「現場のやる気」をそいで、しかも「教育の質」さえも落としてしまうような
4.きわめて「短期的な処方箋」を「よし」としてしまう
ことです。
対して、本研究において、我々がなすべきことは、まず第一に「現状」を把握すること。次に、そうした「労働時間の長さ」について、その規定要因を考察することだと考えます。とりわけ、「なぜ、現状がうまれているのか?」を考察することを行わなければ、そもそも「労働の量」は変わりません。
第三になすべきことは、「働き方を変えたあとに / 変えなかったあとに、どのような未来が立ち上がるのか?」という「未来」を論じることだとわたしたちは感じています。
教員の皆様の働き方の先には、「子どもたちの未来」があります
教員の皆様が元気に明るく働くことができる先には、「次世代」があります
そこで得られた知見をしっかりと研修やワークショップ、さまざまな打ち手で現場にお返しすることが重要です。
このプロジェクトでは、この3点を重視し、調査が実施されました。
このたび、このプロジェクトの一次成果(中間的な集計結果)をまとめたサイトを横浜市教育委員会さんがおつくりいただいたので、この場でご紹介させていただきます。調査結果の集計をまとめたショートレポート(PDF)をダウンロードできますので、どうかご笑覧ください。
横浜市教育委員会 × 立教大学 中原淳研究室 共同研究のページ(この後さらに整備がすすむ予定です)
http://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/nakahara-lab/
教員の「働き方」や「意識」に関する質問紙調査の結果(PDFへの直接リンクです)
http://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/nakahara-lab/txt/180514_hatarakikata.pdf
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調査結果によりますと・・・
・教員の労働時間は、直近3日間の平均で1日当たり11時間42分であるること。
・1日当たりの労働時間が12時間以上の教員は、全体の42.0%であること
・仕事を行う上でストレスを感じている人の割合は 78.7%、健康に不安のある教員の割合は 51.1%となっており、長時間労働を行っている教員の方がその傾向が強いこと
・また「教材研究の時間が足りていない」と感じている教員が7割を超えていること(75.7%)、また「新学習指導要領について理解するための時間が確保できていない」と感じている教員の割合は65.5%となっており、「学び直し」に対する時間的余裕(学習資源)が圧倒的に不足していること
・「仕事にやりがいを感じている」という教員は 78.2%いる反面、その一方で「教員を志す若い人にこの仕事を勧めたい」と考えている教員は34.0%にとどまっていること。中長期には、働き方の問題の放置は、教員採用に悪影響をもたらしかねないこと(教員のなり手が減ると言うことです)
。
・「時間外業務を減らしたい」と思っている割合は、教員では82.9%、校長では79.3%になっているものの、「時間外業務を減らすことに罪悪感やためらい」を感じている割合は、教員が36.6%、校長が28.5%にたっしていること。教員は「時間外業務を減らしたい」と思う一方で、ジレンマに陥っていること
・自分の働き方について「最も影響を受けた時期」は「初任~3年目」と答えた教員が約5割(51.3%)であり、「最も影響を与えた人物」については、「先輩」が8割を超えること(87.8%)
といったことがなどが、わかりました。
もちろん、これらのデータは「調査の一部」であり、先ほどの3つの要因をすべて網羅しているわけではありません。これ以外のデータに関しても、今後、横浜市教育委員会さんから「すべて」公開を行っていく予定です。
これらのデータのなかで、とりわけ、わたしたちが危機的だと思っておりますのは「教材研究の時間が足りていない」とか「新学習指導要領について理解するための時間が確保できていない」という、いわゆる「教員の学び直しの時間が不足していること」です
。また教員の仕事にやりがいを感じつつも、次の世代に「教員の仕事を薦められない」と考えている先生方が多いことも、極めて重大に受け止めています。
これらのデータは「教育のこれから」や「教育の未来」にリスクが生じつつあること
を示唆しています。
しかし、一方で、先生方は「時間外業務を減らすことに罪悪感やためらい」を感じてもおられます。先生方の真面目さ、献身さをここから感じます。このあたりの複雑な心境をくみ取らせていただき、何ができるのか。ここがわたしたちの挑戦です。
冒頭申し上げましたように、教員の労働時間の問題は「労働時間の長さ」だけを問題視しても、生産的な議論にはつながりません。それにまつわる諸要因を加味して、しかしながら、実践につなげていくことがきわめて重要です。
くどいようですが、
わたしたちは「現場に還元できない研究」は行いません。
これらの知見は、6月18日に横浜市の教員の有志の皆様に行わせていただくワークショップを皮切りに、サーベイフィードバックのかたちで、さまざまな研修・ワークショップ、さまざまなツールのかたちで、現場にお返しできるようにしていきたいと考えております。
▼
なお、本プロジェクトは、横浜市教育委員会・教職員育成課の志あふれる皆さまとの強力なタッグ、そして、現場の多くの管理職のみなさまのご理解、現場の先生方のご協力によって生まれました。
昨年度までの第一期を支えてくださった横浜市教育委員会・教職員育成課の立田順一さん、柳澤尚利さん、外山英理さん、根本勝弘さん、松原雅俊さん、大学側は辻和洋さん、町支大介さん、飯村春薫さんに心より感謝いたします。今年度は体制が一部入れ替わり(ほぼ第一期メンバーは継続です)、新たなメンバー飯島靖敬さんを迎えることができました。
なお、この調査研究の成果に関しましては、毎日新聞出版様から、今年度中に「出版」させていただくことが決まっております。編集者には同社の久保田章子さんにおたちいただくことになりました。心より感謝いたします。
著者・編者としてこちらの陣頭指揮をとるのは、辻和洋さん、町支大介さんになります。わたしは「監修」としてかかわらせていただきます。
横浜市教育委員会様との共同研究は、実は、これが二期目です。過去には、脇本健弘さん(横浜市国立大学)、町支大介さん(立教大学)らが中心となり、「教師の学びを科学する」という書籍を編ませていただいたことがあります。こちらは、若年層の離職抑制・育成にかかわるプロジェクトでした。その後、「教師の学びを科学する」は重版を重ね、より多くの自治体の方々にお読みいただいていると聞いております。
横浜市のデータ、そして、それに基づき実施されるフィードバック型の研修の成果が、横浜市以外の多くの地方公共団体、市町村にお役に立つことを願っております。
そして人生はつづく
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