2018.1.16 06:31/ Jun
「視察」を僕はあまり信じません
視察もたくさんあるんでしょうから、十把一絡げにできないのは重々承知しているのですが、ここではあえて一般化してお話をすすめます。
僕があまり信じていない「視察」は、「視察をする側」が「視察の主導権」を放棄してしまった視察です(一般的な視察はそんな感じです)。僕が、そんな「視察」をあまり信じていない理由は、視察で拾い上げることのできるリアリティは、たかが知れているから、ということです。
一般的な視察は、たいてい、現地のキーインフォーマンツに視察先をお膳立てしてもらい、そこに短期間出向き、見聞をひろめていきます。
当然、視察先に選ばれるのは「視察に向いている場所」が多いものです。それはたいていの場合、その国のなかで「見応えのあるもの」「視察団のおめがね」にかないそうなものが選ばれます。
もっというと、おそらくは「のちに視察団の報告書に掲載されて、文書化されても、差し支えのないもの」が選ばれるはずです。
だから、こうした視察は、どこか「リアリティ」が抜け落ちる傾向があります。
視察団の報告書には「A国では・・・」と一般化したかたちで見聞した内容が報告されることになりますが、そこですくい取ったリアリティが、どの程度「A国の現実を反映しているか」と問われると、疑問符が立つことが多いものです。
たとえば、ある国で教育システムを明らかにしようとして、「豪華絢爛、ここはリゾートホテルかよ的なプライベートスクール」を訪問するといったことは、一般的な視察ではよくおこります。しかし、その国で、もっとも一般的だと思われる、「窓に鉄格子のついた学校」を見に行く視察団を、僕は、知りません。
自分で情報をとり、自分で現地に出向き、自分で収集する視察なら、こうしたことは起こらないのかも知れません。要するに、視察のイニシアチブ(主導権)を、現地に手渡してしまった視察 ー これが一般的には非常に多いのでしょうけれども ー 視察に適したものを報告してしまう、という問題を抱えてしまうような気がします。
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前振りが長くなりましたが、最近読んだ本の中で、興味深かった研究手法をとった本を紹介します。
ルーシー・クレハン (著)、橋川史 (訳)「日本の15歳はなぜ学力が高いのか? 5つの教育大国に学ぶ成功の秘密」という本です。
本書は、イギリスの中学校で数学を教えている女性の先生が、ある問いをもったところから話がはじまります。彼女はいわゆる学者ではありません。しかし、それがよいのです。
その問いとは、
PISA(国際学力調査)で、高得点をだしている国には、どんな秘密があるのか?
です。
この問いに取り付かれた著者のルーシー・クレハンは、仲間内から「イカれた休暇」とよばれる旅にでていきます。その旅とは、国際学力調査で高得点を出している、日本、シンガポール、上海、フィンランド、カナダを、自分の足で直接訪問して、自ら調査を行うことです。イカれてる(笑)。
そこでルーシーが採用した方法が、非常にユニークでした。
彼女は、インターネットで、その国につとめている教員にメールをかき、現地の先生の仕事を手伝いながら、現地で2−3週間滞在させてもらう許可をえます。訪問するのは、現地のまったく普通の学校であり、視察向けにおあつらえの場所ではまったくありません。
2ー3週間の滞在中、しだいに彼女は人脈を広げていきますが、そこで話をきくのは、現地の普通の人々です。視察向けに適当な「すごいことをなしとげた先生」でもなければ、「理解のある保護者」でもない。ふつうの人々に話を聞きます。
かくして、彼女は、クラウドファンディングを駆使して、上記のような「イカれた休暇」を続け、無事、本書を執筆するのです。
このブログでは、本書の内容面にはあまり触れませんが、彼女のしるした文章からは、
ほほー、なるほど、外の目から日本の教育も、真逆に見えるのか・・・・
とか
すごい教育システムと言われているXX国の教育も、こんな側面があるのか・・・
と新鮮な気づきを提供してくれます。きっと、この本を読み終わる頃には、日本の教育を見る目、世界の教育を見る目が、少しだけ変化するはずです。内容面に関しては、ぜひ、同書を手にとって、ご覧ください。
ちなみに、本書の解説を書いておられるのは、僕が学部時代、大変お世話になった現・オックスフォード大学教授(元・東大教授)の苅谷剛彦先生(コースも違うくせに、他コースの授業にもぐり、勝手に尊敬・私淑しておりました)です。先生、お久しぶりです(笑)。
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今日は「視察」ということをキーワードにしつつ、「日本の15歳はなぜ学力が高いのか? 5つの教育大国に学ぶ成功の秘密」という書籍の紹介をしました。クラウドファンディングで実現した「イカれた休暇」。最近読んだ、教育関係の本では、抜群に面白く読むことができました。
厳密であるかもしれないけれど、さっぱりとリアリティをすくえない調査手法や、現地にイニシアチブを手渡してしまった視察をするくらいなら、「イカれた旅」に、僕は、興味をもってしまいます。
そして人生はつづく
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