2017.12.5 06:16/ Jun
どうも、この国には「一生食いっぱぐれない幻想」とか「潰しがきく幻想」というものが「蔓延」している気がしてなりません。
ちょっと前のことになりますが、ある若い未来あるビジネスパーソンに、こんな質問をいただきました。
一生、食いっぱぐれないような、潰しがきくスキルを、どこかのスクールかなんかで、身につけたいと思うんですけれども、なんかないですかねぇ? 場合によっては1年間くらい通ってもいいと思っているんです。
「一生、食いっぱぐれない、潰しがきくスキル」ねぇ・・・。
そんなのあるんだったら、僕が知りたいんだけれどもねぇ。
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「つぶしがきく」の「つぶし」とは、もともと「潰し」のことで、金属を「つぶすこと」でしょう。一度できあがった金属製品でも「つぶし」がきくものは、どんな状況にも、かたちをかえて利用できる。だから「つぶしがきく」とは、「どんな状況でも使えること」を意味します。
ですので、「一生、食いっぱぐれない、潰しがきくスキル」とは、
自分の生涯において、どんな状況においても、利用でき、食っていくことのできる仕事のスキル
のことを意味しているんだと思います。
医療・法律などの専門職ならともかく(僕は本心ではそこすらも不可能だと思っています。資格は一生ものかもしれませんが、それと同じスキルで食っていけるかどうかは別物です)、そんなスキルがあるんだったら、僕も身につけたいなと思いつつ、しかしながら、それよりも、一教員としては、先ほどの「発想」の方が、とても「リスキー」に感じます。
一生、食いっぱぐれないような、潰しがきくスキルを、どこかのスクールかなんかで、身につけたいと思うんですけれども、なんかないですかねぇ? 場合によっては1年間くらい通ってもいいと思っているんです。
この言葉の背後にある発想は、
1.どんな状況でも利用可能な「つぶしのきくスキル」というものが、そもそも世界に存在しているのだと仮定していること
2.それが「スクール」と表象される教育機関で、1年間という時間で学び取ることができると考えていること
3.そして、いったんそれを学び取ったら、あとは「つぶしがきく」し、一生食いっぱぐれないので、学び直さなくてはよいと考えている「ふし」があること
僕としては、この3点のどれも怪しいなと感じます。
そして、この中で、個人的にもっとも「リスキー」に感じてしまうのは、3の発想かと思います。
「つぶしがきくスキル」をいったん身につけてしまえば「一生、食いっぱぐれない」という発想は、スクールなどで「学ぶこと」に一時的に接近しつつも、中長期には「遠ざかる」という効果をもっています。
だって、一生食いっぱぐれないんだから、それを手っ取り早く学んでしまえば、あとは生涯OK、別に学び直さなくてもいいや、ということになっちゃうでしょう。
もし仮に、この変化のはやい世の中にあっても、「つぶしがきく」し、「一生、食いっぱぐれない」から学ばなくてよい、と考えてしまうのであれば、その発想自体が「超絶リスキー・自殺もん」であると僕には思えますが、いかがでしょうか。
要するに、必要なことは「一生、食いっぱぐれない幻想」とか「つぶしがきく幻想」を勇気をもってかなぐり捨て、腹をくくって、「生涯、学びつづける覚悟」をもつことかな、と思います。
昨今、「学び直し」が政治の世界で話題になっているようです。「学び直し」も大切なのですが、「学び続け」がより大事なのではないかと感じますが、いかがでしょうか?
そして人生はつづく
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