NAKAHARA-LAB.net

2017.12.1 06:00/ Jun

早く帰宅するときに「すみません」と口にしてしまう職場!?ーあなたの職場には「長時間労働のピア効果」が蠢いていませんか?

「すいません、今日は、もう、あがります。お疲れさまでーす!」
「おっ、今日は、珍しく早いねー。ほい、お疲れー」
     
  ・
  ・
  ・
   
 なんてことはない、どこにでもある「職場での会話」です。
 このやりとりは、今、誰かが職場から帰宅しようとしているときになされたものです。早く帰る人が、まだ残って仕事をしているメンバーに向けて発したひと言から、とりとめもない会話がなされました。
 極めて凡庸で、ありふれている、陳腐な会話。
   
 ただ1点。
 この会話が、「就業時間後2時間後」くらいに発せされたものであるという「隠されたコンテキスト」が明るみになるのだとすれば、この会話の「おかしさ」が、突然、ハイライトしてくるはずです。
  
 この人は、「就業時間後2時間後」に帰宅するのに、「すいません」とメンバーに謝罪して帰宅しているのです。
 就業時間後なのだから、謝罪することなく挨拶だけして帰ればいいのに、どこか、気が引けるところがあるのでしょうか。「すみません」という言葉を、何気なく使っています。
  
 そして「今日は、もうあがります」ー「今日は、珍しく早いね」という会話のペアからは、今日の帰宅が「特別の出来事」であることが読み取れます。いつもはそうではない。「今日は(特別に)早く、あがること」がわかります。
   
 そうです。
 この職場は、メンバー全員で長時間労働が「常態化」している職場なのです。みなが、就業時間など考えずに、仕事をしつづけている職場。
 そして、就業時間を過ぎていても「早く帰ること」にどこか後ろめたさを感じてしまう職場。
 専門用語でいえば、同僚メンバーの「ピア効果」によって、「早く帰ることができない職場」
   
 だからこそ、今日は特別にその規範を犯してしまった人=早く帰った人が、「すみません」という言葉を、何の気なしに、口にしてしまったのですね。
  
 「ピア効果」というものは一般の方には、やや抽象的すぎる概念かもしれません。しかし、早く帰宅するときに、思わずメンバーに「すみません」と口にしてみたくなるかどうか、ということに喩えて考えてみますと、抽象的なその概念の存在を「感じる」ことができるのかもしれません。
    
 あなたの職場では、就業時間を過ぎて帰宅する人が「すみません」と思わず、口にしていませんか?
 あなたは職場から、早く帰るときに「すみません」と言っていませんか?
   
 あなたの職場には「長時間労働のピア効果」が蠢いていませんか?
  
  ▼
  
 今日は、長時間労働に影響を与えてしまう「同僚メンバーのピア効果」について、「すみません」という言葉をキーワードにして考えてみました。
 この話題は、先だって、PHP研究所・THE21の三輪奈央さん、フィードバック入門の編集者・宮脇崇広さん、オフィス解体新書の杉山直隆さんと話していて、皆で盛り上がっていた内容です。
  
 なぜ、職場から早くかえるとき、
 就業時間が過ぎていても、
 「すみません」と言ってしまうんだろうね・・・と(笑) 
  
 小生、来年から「働くこと」に関する1ページものの連載をTHE21で担当することになりそうです(オファーをありがとうございます)。
 この連載では、こんな何気ないひと言から、働くことに関する時事問題を、ゆるゆると論じていきたいなと感じています。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
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