NAKAHARA-LAB.net

2017.10.30 06:33/ Jun

「長時間労働を評価する職場」と「順位のつかない徒競走」の「ゆるいつながり」とは「何」か?

 短距離走は、足がもつれて、ちょうちょう結びになってしまうので「苦手」。
 運動会の徒競走は、毎年「ビリ」でした。
   
 我が家が「清水の舞台」から飛び降りる覚悟で購入したビデオカメラでは、いつも、ズームを最大にして、僕だけひとりが「フレーム」の中心に位置するように撮影されていました。

 一度くらいは、「広角」で撮影させてあげたかったな、と思うのですが、こればっかりはしょうがありません(笑)。
  
 おやじ、おふくろ、ごめんよ。
  
  ・
  ・
  ・
    
 最近「プロセスの評価」と「アウトプットの評価」ということについて考えさせられます。
  
 といいますのも、パーソル総合研究所さんや横浜市教育委員会との共同研究で「長時間労働の是正 × 人材開発」に関する研究をやらせていただいているからです。
「長時間労働がなぜ起こってしまうのか」ということに関する規定要因を探究をしていくと、実は、この問題が、実は「評価のあり方」にも、密接に関連してきます。
  
 質問では「あなたの職場では、長時間労働が評価される傾向がありますか?」といったような類いのことを、数千名をこえる回答者の皆様にうかがっております(心より感謝です)。

 こうした群の質問に対する回答が「高い」ようであれば、当然のことながら、その職場での長時間労働は長くなることが予想されます。
 だって「長時間、職場にいのこって働くことが、仕事に熱心だ」とラヴェリングされて「評価」に反映されるのですから、そうした職場で「長時間労働が常態化すること」は目に見えています。
   
 ここで興味深いのは、そうした「長時間労働を礼賛(評価)する職場」では、「成果に関する評価」はどのようになされているか、ということです。ここには端的に「4つの可能性」がひらかれます。
    
 1.成果を評価する+長時間労働を評価する
 2.成果を評価する+長時間労働を評価しない
 3.成果を評価しない+長時間労働を評価する
 4.成果を評価しない+長時間労働を評価しない
   
 まず4は「評価がまったく機能していない」状況ですので、ここではあまり問題にしません。
  
 問題は、
  
 1.成果を残し、かつ、長時間労働をすることを「よし」とする
   
 のか、それとも
   
 2.成果のみを評価し、長時間労働などは評価しない

 のか、それとも
  
 3.成果についてはあまり曖昧にされており、長時間労働をすることが評価されている
  
 のかです。
    
 敢えて極端に描き出すとすると、端的に上記のような整理ができるのですが、どうでしょうか。
   
 これは邪推でしかないのかもしれませんが、「成果に関する評価が曖昧」だったり、「成果に関する面談がおざなり」だったり(成果に関する定義は難しいものです)した場合に、やむをえず、評価の手段として、もっとも目につきやすい「長時間労働」が使われている可能性もあるだろうな、と僕個人は思っています。

 あるいは、「成果」をなかなか個人の努力だけに帰属できない仕事をしている職場で、しかし、成果に関する面談が、上司・部下のあいだで、あまりなされていない場合に、成果はなかなか評価できないので、長時間労働が評価されるといった可能性もあるだろうな、と思います。
   
 要するに、もっともありえるのは「3」の場合、すなわち「成果を評価しない+長時間労働を評価する」の状況です。
   
 より抽象的に述べるのだとすると、
     
「アウトプットの評価」があまりなされず、「プロセスの評価」が重視される
   
 という事態です。
   
 ▼
   
 ちなみに、なぜ、僕が冒頭で、自らの運動会トラウマを、公衆の面前で、「ゲロ」じゃなかった「吐露」したのか。
 それは、どうやら、この「運動会・徒競走の順位」というものが、「アウトプット」と「プロセス」の評価の問題にゆるく関係しているような気がするからです。
   
 35年前の小学校の現場では、運動会では「徒競走の順位」がつけられるのがあたりまえでした。すなわち、僕はいつも「ビリ」と言われていました。我が子の運動会の様子を見ていると、現在でも、それが「あたりまえ」のようです。
   
 が、今から10年から20年くらい前なのでしょうか、
    
 「みんな頑張っているのだから、運動会・徒競走の順位をつけない」
   
 という学校があらわれて、それが人々の話題になったことがあります。
    
 僕などは、この話題をはじめて耳にしたときに、幼い頃の思い出がフラッシュバックしてきました。そして、
    
 「なぜ、運動会・徒競走の順位をつけない時代」になぜ、自分が生まれなかったのか?
    
 を煩悶し、周囲に呪詛の言葉を撒き散らしていましたが、今、そんなことはどうでもよいことです(笑)。
    
 ここで興味深いのは、「みんな頑張っているのだから、運動会・徒競走の順位をつけない」というのは、先の整理を敷衍いたしますと、
  
 「プロセスを重視して、アウトプットを曖昧にする」
   
 ということに他なりません。「みんな頑張っている」という「プロセス」を評価するのであって、「順位」という「アウトプット」などは二の次だ。そんなものを明示するのは「野暮」だし「可哀想」だ。だから「アウトプット」に関しては、あまり重視しない姿勢をとる。
   
 そもそも、こうした考え方が、なぜ生まれてきたのか。それも、保護者側、学校側どちらかから生まれてきたのかは、わかりませんが、僕は、ここに、どうしても「妄想」を働かせてしまいます。
  
 それは
  
 「プロセスを重視して、アウトプットを曖昧にすること」を「よし」としてしまうような「メンタリティ」は、私たちのなかに、ひそかに刻み込まれているのではないか
 
 という仮説です。
   
 その仮説のもとに、「成果よりは長時間労働を重視する職場」と「徒競走で順位をつけない運動会」はゆるくつながっているような気がするのですが、これは邪推でしょうか?
   
  ▼
    
 今日は週の頭から、なかなかヘビーなことを考えました。
 もう疲れてしまったので、はやく来週にならないかなと思っていますが、たぶん、無理です(笑)。
    
 予感でしかないのですが、
    
 「プロセスを重視して、アウトプットを曖昧にするメンタリティ」
   
 は、世の中の様々な場面に、他にも現れているような気がしています。
 少しそういう目で、世の中を見渡してみたいと思います。
   
 あなたの組織では、プロセスとアウトプットはどのように「評価」されていませんか?
   
 そして人生はつづく
    
  ーーー
  
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