NAKAHARA-LAB.net

2006.11.21 05:00/ Jun

大学院で成功する方法?

 吉原真里著「アメリカの大学院で成功する方法」(中公新書)を読んだ。

 アイビーリーグのひとつブラウン大学にて博士号を取得、ハワイ大学にてテニュア(終身雇用権)を取得した筆者が、これからアメリカの大学院で学びたい人に向けて書いた具体的なアドバイスをまとめた本。留学からテニュア取得までのプロセスが詳細に書かれていて、非常に興味深い。
 アメリカと日本の大学院では、授業の仕組みも、教授の働き方も、学会のあり方も、教授と生徒の関係性も、全く異なっている。
 が、ここで吉原氏が指摘している「米国大学院で成功するための具体的アドバイス」は、日本の大学院に進学したいと願う人にとっても、当てはまることが多い、と感じた。
 たとえば、
 —
(エッセイ≒研究計画書執筆のときに)まず、これからその学部に入って、どんな内容を専門にし、どんな内容の研究をしていきたいと思っているのか、具体的で焦点をしぼった説明をすること。
 これには、いくつかの目的がある。1つには、自分がこれからしようとする研究について真剣かつ具体的に考えており、それについて明瞭に述べる能力があることを示すこと。2つには、自分がその分野の基礎知識をある程度もっていることを示すこと。
 —
 という指摘は、別にアメリカだから言えることではなく、日本の大学院についても同じである。
 仕事柄、年間数十本の研究計画書を読むことが多いが、「抽象的で、本当に、そんなんできるのかなぁ」と首をかしげたくなるものが、結構多い。
 たとえば、僕の専門で仮に書くとすれば、
「将来必要となるeラーニングシステムの可能性を模索し、それを開発する」
「情報通信技術を活用した学習環境における評価手法、脳科学の知見を活かしながら新たに提案する」
 といった「研究計画?」が本当に多い。
 こういう研究計画は、具体性がないばかりか、実現性に乏しいため、苦戦を強いられることが予想される。
 —
 吉原氏の指摘には、こんなものもあった。
 学者として大変不真面目なアドバイスをするようだが、博士論文を仕上げるためには、いつまでのリサーチしないことが、とても重要だ。(中略)リサーチには罠がある。(中略)アメリカの学界で流布している言い回しに A good dissertation is a done dissertationというのがある。文字通り、「よい論文とは終わった論文」ということである。
 という指摘は、博士論文を書き上げた人ならば、皆うなずくことであろうと思う。別にいい加減に博士論文を書け、ということでは断じてない。それがどういうことかは、近くに博士号を持っている人がいたら、聞いてみてください。
 —
 また、本書は米国大学院の教育・研究事情を解説する本として、あるいは、若い駆け出しの研究者のための指南書としても読むことができる。
 大学、そして短い研究生活を、いかにサバイブするか。僕としても、非常に考えさせられた。
 まぁ、大学院に少しでも関連のあるところで生活なさっている人は、読んでみるとオモシロイと思いますけれど。

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