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2017.9.20 06:05/ Jun

自分の抱える「問題」を「自分事」として引き受ける「素人さんたちの大研究」!?

 専門家の知恵とは「頼りになること」が多いものです。
  
 専門家は、一般の人々とは違う角度から「世界」を見つめ、「秀逸な方法論」を駆使して、迅速に問題解決を行います。
 専門家のもつ「まなざしの特殊性」と「切れ味の鋭い課題解決」こそが、「専門家を専門家たらしめている所以」です。かくして、専門家の知恵は、「頼りになるもの」と考えられがちです。
  
 しかし、近年、この「専門家の知恵」に安易に頼り切ることに、疑義が提示されている領域もあります。
 「専門家の課題解決」は、たしかに鋭い。
  
 しかしながら、一方で、「専門家が登場すると、それへの依存がはじまる」
 すなわち「専門家の課題解決」が「現場の人々の課題解決力」を「疎外」してしまう、という事態が生まれる、ということです。
  
 あるいは、さらに踏み込むならば、こうもいえます。
 「専門家の課題解決」はたしかに鋭い。 
 しかし、ともすれば、専門家は、自分のもっている「ものの見方」や「方法論」にしたがって「問題を切り取ろう」とする。逆にいうと、専門家は自分のもっている理論や方法論を「超える」現象については「素通り」する。
 専門家は、現場の人々が真に抱える深い課題を「素通り」し、「かりそめの対処療法」に陥っていないだろうか、という疑義です。
  
 この疑義を耳にするとき、僕は、かつて、ドナルド・ショーンが行った問題提起を思い出します。ショーンは実践家の行う問題解決について「沼沢の多い低地」と「高地の問題」という2つのメタファを用いて、わたしたちに、「いかにありたいか」を問いました。下記の記述でショーンがいう「技術的な解法」とは、専門家が行うような高度な問題解決に置き換えてよむとよいのかと思います。
     
「沼沢の多い低地の問題」では「技術的な解法」は否定される。皮肉なことに「高地での問題」は、それが「技術的にいかに興味深い」としても、「個人や社会にとってはさして重要ではない」という傾向があり、逆に人々の大きな関心を集める問題は「低地の沼沢地帯」に存在する /
    
 実際に問題に当たる実践家は、ここで選択しなければならない。
    
「高地」にとどまって、「厳密性をもった巧みなやり方」で、相対的に「重要ではない問題」をとくのか?それとも、重要な問題が存在する「沼沢」まで下がって、あまり「厳密ではない方法」で「問題」を解くのか?
   
(ショーン 1987)

  
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   ・
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 かくして、こうした一連の疑義の蓄積から、もう一度、「専門家に依存していた課題解決のあり方」を見直す動きがでてきている領域もあります。
 課題解決を「専門家任せ」にしてしまうのではなく、「課題を抱える当事者が自分事として引き受けるもの」とする営みが注目されているのです。
  
 そのひとつが、精神医療の領域で注目されている「当事者研究」です。
  
 当事者研究とは、僕の言葉でいえば、
  
1.精神医療の範疇にある「問題を抱える当事者」たちが、
2.自分の抱える「困難」や「苦労」が生じるメカニズムを分析し、
3.その問題を「解消」する方法を、ともに考え
4.解決していくプロセス
  
 であるといえると思います。下記のような書籍があいついで出版されているので、ご存じの方も多いかもしれません。
  
  
  
 もともと、当事者研究は、北海道の浦河にある「べてるの家」と「浦河赤十字病院精神科」ではじまった患者と患者の家族を対象にしたリハビリテーションプログラムです。
 その背景には「精神医療」を「医者任せ」にはしない。むしろ、どんなに困難な状況であっても、その解決策は「問題を抱える側の経験のなかにある」という信念が見え隠れしています。
  
 手続きとしての当事者研究は、僕の言葉で表現するなら下記のようなプロセスをとります。
  
1.「問題の対象化」
 まず「当人が抱えている課題」をあえて「他人事」のように記述したり、「対象化」したりするところから話がはじまります。
 この対象化は、ときにユーモラスに行われます。世の中で考えられている価値を逆転させ、「問題を解消したいが、しかし、つきあっていかざるをえないもの」とする態度から、物事を眺めることからはじまります。
  
 たとえば、これに類するワークショップの冒頭で、よく発せされる言葉
  
 あなたの「苦労」は何ですか?
   
 という会話は、当事者研究ならば、
  
 あなたは、どういう苦労が「得意」ですか?
 あなたの「苦労の専門分野」は何ですか?
  
 と問われます。
 価値反転した基準を最初に採用することで、苦労がより述べられやすくする効果をもちます。
  
 「当人の抱える課題」を「ちょめちょめ病」と名付ける(Name it)してしまうのは、自分と問題を「切断」し、問題に焦点をあてて、この後の議論を行うための操作かと思われます。
 これはよくビジネスのワークショップでも用いられます。ナラティブセラピーならば「問題の外在化」とも表現するべき操作は、いわば、対象と自己との距離を一時的に遠ざける効果を持ちます。
  
2.分析フェイズ
 つぎに行うのは、「分析」です。抱えた課題が、どのようなメカニズムで起こっているのか、をみなで議論しながら、図示したり、関係図を書いたりします。当事者の抱える課題に関して、みなでよってたかって、いわゆる「研究」をするのです。
 人は、「自らの課題」を、これまで何度も何度も「パターン」のように繰り返しているものです。分析フェイズでは、このパターンをみなで議論して、見いだしていきます。
  
 大切なのは、この場合の研究は、必ずしも「ひとつの原因」を探求して、それを「つぶす」ことをめざす、いわゆる「課題解決」にならなくてもよいということです。
 むしろ、問題に向き合う「自分の態度」や「自分のものの見方」を「変更」したりして、「問題が感じられないようになる」ならば、それはそれでOKぢゃないかということになります。
  
3.解決策フェイズ
 分析フェイズで可視化された問題の諸相に対して、自分としては、どのような対策をとっていくのか。どのような対処がありうるのかを考えるフェイズです。
  
 以上は、あくまで書籍や映像を通じた知識で書いたものであり、僕自身は、当事者研究の実践を知っているわけではありません。詳細は、ぜひ上記の専門書などにあたっていただければと思います。
  
 しかし、これに類するワークショップの一部は、ビジネスの領域では、すでに実践してきたことがあります。
 たとえば、課題を抱えるマネジャー、リーダーに、自分の課題を外在化させ、みなでフィードバックをする実践などです。
 なんとなくですが、どのような進行をたどるのかは、少なくとも一般のビジネスパーソンに関してなら、予想はできます。
  
 ▼
  
 冒頭、僕は
  
 専門家の課題解決は、ときに、「現場の人々の課題解決力」を疎外すること
 ないしは
 専門家の課題解決は、専門家の眼鏡にあったものを「問題として切り取りがち」であること
  
 を述べました。
 もちろん、専門家への安易な非依存・不信の態度は、ともすれば「反知性」の方向に傾きがちです。
 しかし、世の中に専門家の知恵が広まれば広まるほど、それとは異なる課題解決のあり方ー「野生の課題解決」が生まれ、実践されていくものなのかな、とも思います。
 「あんちょこな二分法」を用いるならば、たしかに、彼らは、厳密な研究方法論も視座ももたない「素人」なのかもしれません。彼らは「専門家」ではない。しかし、「課題解決の当事者」であるという態度は、こうした二分法を「無化」します。
  
 結局、あまりに月並みですが、専門家による問題解決でも、当事者研究でも、大切なことは、
  
 自分の抱える「課題」を、まるっきり「人任せ」にしない
  
 につきることなのかな、とも思います。
  
 自分の抱える「課題」を解決する「主人公」になりなさい
  
 ということなのかな、と。
  
 そして人生はつづく
  
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