2017.9.7 06:14/ Jun
私たちは、自分が「教え手」の立場にいるとき、ついつい「前もって、前もって」、学び手が「コケ」ないように、失敗しないように、あれこれと研修やらワークショップやらを準備をしがちです。「教え手」の多くが罹患してやまない、この愛すべき病を「前もってのお節介病」と呼びましょう(笑)。
しかし、ここには「ディレンマ」が生じがちです。
相手のために「よかれ」と思って準備した研修やらワークショップが、学び手側には「1ミリも刺さらない」といったことが起きがちです(泣)。なぜなら、相手にとってみれば「前もって、前もって」とせかされても、「学ぶ必然性」「吸収しなければならない必要性」が、なかなか見いだせないからです。
教える側にとってみれば、この状況はヤキモキする状況です。教える側には、相手が今後たどるであろう「全体像」が見えています。だからと思って「前もって、前もって」準備させたいわけです。
しかし、相手には、それが「見えていません」。なぜなら、相手は、これからはじめて物事にチャレンジするからです。彼・彼女の視点は「今現在」にあります。
結局、せっかく、相手のために「よかれ」と思ってやったことなのに、相手はまったく学ばない。むしろ、「必要性の見えないお節介」くらいに思っている、ということが起きがちです。
「前もってのお節介病」の論理的帰結は、「パターナリズム」を地で行くような言葉で結ばれます。
なんで、わかんないの! あんたのためでしょ!
あんたのためにやってるのに、なんで、あんたはやらないの!
おまえのためだろう! つべこべいわず、さっさと学べ!
「前もって、前もって」の背後には、「パターナリズム(paternalism)」が駆動しがちです。
パターナリズムとは「権力のある側が、権力のない側のためだとして、本人のためを思ってなす介入」のことをいいます。
そして、パターナリズムは、ときに「象徴的暴力=暴力すら暴力にみえないように覆い隠してしまうような権力」そのものにとして駆動してしまうから注意が必要です。
「どんなに暴力的な介入であっても、あなたのためを思ってやっていることなのだから、暴力的な介入ではない」と意味づけられるわけですね。
学び手側からすれば「大きなお世話じゃい!」と悪態をつきたくなる事態。
教える側にとってみれば、ため息をつきたくなる事態ですね。
嗚呼、両者はすれ違い。
ここに「前もって準備をする研修や教材」の提示の難しさがあります。
それでは、これを防止するためには、どうするか?
もっとも簡便で重要なことは「学ぶことの意味づけ」です。相手に学ぶ必然性や必要性が理解されていなければ、それは学んでもらうことすらできません。つまり、「前もって、前もって」を行うときは、文字通り、事前の「前もって行われる学ぶ意味づけ=学ぶことの意味の打ち込み」が極めて重要なのです。
あるいは、研修を行うタイミングを「前もって」から「うつす」ということです。
優れた実務家は、このことを熟知していて、さまざまなメタファで語ります。
ヤフー人事の本間浩輔さんは
「研修は、乾いたときにやる」
とおっしゃります。
元ソフトバンク人事の島村さんは、「息をはくー息をすう」のメタファで説明なさいます。学習コンテンツを吸収する(息をすう)ためには、そのまえに十分「息をはく=アクションしていること」が重要だということかと思います。
ともかく・・・
「前もって、前もって、よかれと思って教える」ときには注意が必要です。
「よかれ」と思って為したことが「パターナリズム」に陥らないためにも。
そして人生はつづく
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