2017.9.4 06:16/ Jun
衝撃的な映画を見ました。「ダンサー:セルゲイ・ポールニン 世界一優雅な野獣」です。以下、感想を書きます。【プチネタバレ】になる可能性があるので、ご注意ください。
セルゲイ・ポールニンは、「バレエ界きっての異端児」です。
比較的貧しい家庭に生まれましたが、才能をあらわし、バレエの英才教育を受けます。彼の飛ぶジャンプは、幼い頃から、誰よりも高く、誰よりも優雅でした。
わずか19歳で英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに就任。そのキャリアは順風満帆かと思われましたが、彼は次第に、ドラック、パーティ、タトゥ・・というバレエとは正反対のものにおぼれ、精神を崩していきます。
バレエ界における、彼の【立身出世】は、家族がバラバラになることと無縁ではありませんでした。ひとりぼっちで来る日も来る日も飛ぶ毎日。
紆余曲折をへて、彼は、ロイヤルバレエ団を電撃退団。
自分の道を歩み始めるのですが・・・。
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この映画、なんといっても印象的だったのは、この世のものとは思えない、ポールニンの「優雅な演技」と、その背後で蠢く「孤独」でした。
映画では「家族との離縁による孤独」がモティーフになっていましたが、僕は「別の孤独」も感じていました。
ポールニンは、今日も高く高く、優雅に「跳躍」します。
一瞬、時を止めたかのように感じる高いジャンプ。それは、誰も真似できない、彼だけの世界です。
しかし、それは「犠牲」あってのことです。
彼は、自らの「子ども時代」を完全にバレエに捧げました。
彼は、「バレエ以外」は何も知らないのです。
だから、バレエを辞めるといっても、結局は、バレエに戻ってきます。
度重なる演技で、身体が軋み、悲鳴をあげたとしても、結局、彼は舞うことしか覚えていないのです。
どんなにバレエで傷ついたとしても、バレエしかない、という事実。
これが彼の支払った大きな犠牲です。
「孤独」はここに忍び寄ります。
彼の優雅な「跳躍」は、人々を魅了してやまない、という事実です。
私たちは、この映画を通して、彼を知り、彼に共感します。
演技を行うことで、彼の身体や精神がどんなに追い詰められているかをわたしたちは、知っています。
頭のなかでは、「もう飛ばなくていい」「もう普通の人生に戻ればいい」とわたしたちは願います。
しかし、同時に、心の中のわたしたちの声は、それとは反対のことをいいます。悪魔の声とはまさにこのことです。
そう、彼の高い優雅な跳躍を、心の奥底では、ひと目、この目で見て見たいと思わざるを得ないのです。わたしたちは「嘘」をいう。
跳躍せざるを得ないパフォーマーを前に、もう飛ばなくていいと願いながら、さらなる跳躍を心の奥底で願い、彼をせき立てる
ここにポールニンとわたしたちのあいだの断絶があるように感じました。これが僕の感じた「もうひとつの孤独」でした。
かくして、結局、彼は舞うことになるんだろう、と思いました。
彼はバレエ以外は覚えていないのですから。
しかし、同時に、そのことは、彼にとっての「希望」でもあるんだろうな、とも同時に思います。なぜなら、バレエを舞うという一点において、わたしたちは彼と「断絶」しつつも、「接続」しているからであり、そのことによって、彼がもう一度、新たな目標を見いだすことができるからです。
一時は引退を決意した彼は、ネット上の様々なファンの声や反響をもとに、もう一度立ち上がります。ロイヤルバレエ団を退団し、引退を決意しても、また彼は立ち上がろうとします。
そこには「孤独の中に希望がある」「断絶しつつも、接続する」という、まことに倒錯した世界が広がっています。
が、この倒錯こそも、また、世の中の常なのでしょう。
世界はいつだって「わり切れない」ものなのですから。
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個人的には、この映画、今年、自分が見たなかで、もっとも心を動かされました。
映画中に紹介されている、ホージアの楽曲「Take me to the church」にのせて、高く跳躍するポールニンの演技が、心に響きます。
「ダンサー:セルゲイ・ポールニン」を公開している映画館は、下記の公式Webサイトにあるようようです。
「ダンサー:セルゲイ・ポールニン」
http://www.uplink.co.jp/dancer/
今週も一週間頑張りましょう!
そして人生はつづく
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