2017.8.28 06:54/ Jun
先だって、東大の研究室で、館野さん(研究室OB)、木村さん(研究室OB)、立教大学の松井さんとで、「大学におけるリーダーシップ教育」の基礎論文を読み込む研究会をいたしました(皆さん、お疲れさまでした&ありがとうございました)。
研究会は、来年度から本格化する「大学におけるリーダーシップ教育の効果性測定にまつわる縦断研究(今年は準備期間)」のための基礎知識をつけておきましょう、という趣旨で、館野さんが中心になって企画していただいたものです(ありがとうございます!)。
「いつも背中に出刃包丁を突きつけられ、日々、ひーひー、雑事に追われて生きているわたくし」ですが、何とか暇を見つけて文献を2個担当させてもらい、この日は一日「研究者の頭」で過ごすことができました。まことにありがたいことです。
研究会で最も僕が気になったのは、
「大学におけるリーダーシップ教育」と「企業におけるリーダーシップ開発」は何が違うのか?
というところです。
まだ実証研究の文献を読み込めていないので、なんともいえないのですが、朧気ながら、この問いに対する自分なりの答えが見えてきたことは、収穫でした。
端的にその違いを書くのだとすると、「大学のリーダーシップ教育」と、一般的なリーダーシップ開発の違いは、下記のようになるのかな、と思います。
大学におけるリーダーシップ教育は、
1.社会変革・市民性の獲得などもめざされる
つまり、既存の社会を「所与」のものとするのではなく、それらを疑問視し、変革を志すよき市民としての教育である、という性格をもっているということです。フレイレやデューイなどの文献が引用されていることからも、この性質を認めることができます。
要するに、既存の組織に適応するための行動を前倒して学んでおくのが、大学におけるリーダーシップ教育なのか、はたまた、既存の組織を疑問視し、変革していく主体を育成するのが大学におけるリーダーシップ教育なのか・・・このあたりは議論が必要です)
2.共通善・社会的望ましさ、といったような「価値の実現」を背景にもった教育実践」として把握されやすい
一般的なリーダーシップ行動の研究は、リーダーシップ行動が発揮される「文脈・組織」の特性をあまり問うことはしません。それらとは独立して行動を測定します。しかし、大学におけるリーダーシップ教育は、教育現場で行われるものであるため、共通善・社会的望ましさの方向性にむけて、リーダーシップが発揮されることをめざします)
3.大学生のアイデンティティの確立をめざすことが多い
大学生は人格として未発達である傾向が強いため、リーダーシップ教育のプロセスの中で、自らのアイデンティティを確立することがめざされます。
4.影響力の増加をめざすことが多い
大学生には「職位」も「ポジション」もありません。よって、「職位」の基づくリーダーシップよりは、リーダーシップそのものを「影響力」ととらえる傾向が傾向があります。
5.リーダーシップのみならず、フォロワーシップを志向することもある
大学生同士には権力関係は存在しません。よって、そこで行われるリーダーシップ教育は、「あるときはリーダーであり、あるときはフォロワーである」ようなチームを前提にしています。
6.リーダーシップ教育の成果が超長期的に把握される傾向がある
教育には一般に「遅効性効果」があります。要するに、教育の効果とは、かなり遅れて明瞭になってくるものもあるということです。企業などの一般的なリーダーシップ開発プログラムでは、その成果を短期的に測定する傾向がありますが、大学生の効果の測定は、長期的視点のもとでなされる傾向があります。
といった感じでしょうか。これ以外にもあるとは思いますが、気のついたところはこんなところです。
もちろん、企業のリーダーシップ教育と、大学のそれが、全く「違うもの」ではないのです。それはいわば「家族的類似(family resemblance)」とでも形容できるものです。つまり「共通点」もものすごく多い。しかし、違ったところもかなりある。同じ部分はそれでもいいけど、だからといって「味噌糞一緒にしちゃいけないよ!」ということになるのかな、と思います(すみません・・・品がなくて・・・)。
くどいですが、「大学におけるリーダーシップ教育」と「企業におけるリーダーシップ開発」は、まったく同じというわけではありません。2つは、いわば「家族の成員」に似ているとも言えます。
ある部分は、共通性をもっているけれど、完全に同じではない。家族の成員ごとに、それぞれ違う性格をもつように、両者の間には「家族的類似性」が認められると思いました。
また、リーダーシップ教育が1や2といった特徴をもつということになってきますと、「サービスラーニング」や「シチズンシップ教育」とよばれる研究領域も、かなり近くなってきます。また、6の観点を拡張していきますと、「大学の達成度研究」とかなり近くなってきます。
図工2的に表現をすると、こんな感じかなぁ・・・。
先だっては、なかなか深掘りができませんでしたが、このあたりの議論をより文献で詳細に当たっていきたいものだと感じました。あと、実証研究をきちんと把握しなきゃね、ということを全員で確認し合い、文献を取り寄せることにいたしました。
まだはじまったばかり。
これからです。
▼
今日は、大学におけるリーダーシップ教育について書きました。
リーダーシップ教育ということになりますと、その中心的存在のコミベズさんらの文献を、この分野の第一人者であられる日向野幹也先生(早稲田大学)が翻訳なさり、このほど出版されたそうです(おめでとうございます!)。
このような文献が多々生まれることにより、大学におけるリーダーシップ教育、そしてリーダーシップの効果性にまつわる研究がさらに発展していくことを願っています。
そして人生はつづく
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