NAKAHARA-LAB.net

2017.6.23 06:15/ Jun

リーダーシップ開発プログラムは「組織開発」たりえるか?:次世代幹部研修の「同じ釜の飯効果」を検証する!?

 リーダーシップ開発プログラムは「参加者のソーシャルキャピタル」を高めるか?
  
   ・
   ・
   ・
  
 先日、大学院のゼミで、吉村さんが、このような問いを掲げた英語研究論文の報告をしてくれました(Roberts, C. 2013・・・お疲れ様です)。
  
 ここで、リーダーシップ開発プログラムとは、参加者がグループワークなどで話し合いながら、何らかの組織経営課題の解決をめざすような「アクションラーニング」をさしています。
 また、ソーシャルキャピタル(社会関係資本:Social Capital)とは、ワンセンテンスでいえば、「個人間のつながりー社会的ネットワークと、そこから生じる相互依存と信頼の規範」(Putnum 2001)のことをいいます。
  
 これらを踏まえ、先ほどの冒頭のセンテンスを、もう少し平たく言うと、
  
 この論文では、
  
 1.次世代リーダーの育成をめざしたアクションラーニングで
 2.グループワークなどを行うことで
 3.次世代リーダー同士の個人的なつながりは増すのか、どうか
  
 を検証している、ということですね。
  
  ▼
  
 よく知られているように、幹部育成研修、次世代リーダー研修は、そこで扱われている「内容」について学んだり、議論すること「だけ」をめざしていません。それはリーダー同士の「つながり」を強め、組織を強化するための「組織開発」であったりすることが、まま、あります。
  
 次世代リーダーと目されている人が、仕事を離れて、「同じ釜の飯」を食べながら、喧々がくがくと議論をして、課題解決を行う。そうした課題解決のプロセスでは、当然、リーダー同士のつながりは強化されることが予想されます。
  
 論文は、この「同じ釜の飯効果」によって、リーダー同士のチームワークがどのように変化するかを考察していました。定性的な分析の結果、調査結果は、「リーダーシップ開発プログラムは、参加者のソーシャルキャピタルを高めること」に肯定的である、という結論を得ました。
 リーダーシップ開発プログラム内の相互作用は、リーダー同士に信頼を蓄積させたり、コミュニケーションを増すことに寄与する、ということです。
  
 世の中には、様々なリーダーシップ開発プログラムがあります。
  
 会社によっては、次世代リーダーと目される人々が、無人島で課題解決を行ったりします。自社が位置する地方公共団体の課題を分析し、提案する会社もあります。
  
 こうしたプログラムは、一見、リーダーシップとは何ら関係がないように思われるかもしれません。しかし、それは副次的効果として、リーダー間のソーシャルキャピタルを高めることを狙っている場合もあるような気がします。もちろん、ソーシャルキャピタルという言葉や概念は、プログラム内では用いられていない、とは思いますが。
  
  ▼
  
 今日はリーダーシップ開発プログラムとソーシャルキャピタルの関係について書きました。
 実は、この研究領域は、まだまだ未開拓の領域で、今回読んだ論文とは正反対の結果を示しているものもあります。Valk & Constas(2011)によれば「リーダーシップ開発プログラムがソーシャルキャピタルの向上をもたらすとの因果関係は先行研究から示されているとは言えない」という結論でした。
  
 リーダーシップ開発プログラムは、組織開発たりえるか?
 次世代リーダー研修の「同じ釜の飯効果」は本当か?
   
 この問いは、実は古くて、新しい問いであるように思います。
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
【注目!:研究室のLINEはじめました!】   
 中原研究室のLINEを仮運用することにしました。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
      
友だち追加
    

  
 ーーー 
   
先だって、NHKおはようニッポンで「育児は仕事の役に立つ」(浜屋祐子・中原淳著)を、ライフネット生命保険株式会社・出口治明会長ご紹介いただけました。出口さんにはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
   
おすすめBizBook 少子高齢化時代の働き方
https://www.nhk.or.jp/ohayou/biz/20170619/index.html
   
新刊「育児は仕事の役に立つーワンオペ育児からチーム育児へ」(浜屋祐子、中原淳著 光文社新書)は育児と仕事の良好な関係、ワンオペ育児を乗り越え、チーム育児に転換していくヒントがあふれる書籍です。浜屋祐子さんの修士論文の知見をモティーフにした、育児の科学。どうぞご笑覧くださいませ。すでにAMAZONカテゴリー1位(光文社新書)、経営学カテゴリー1位を記録しています!
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.11.22 08:33/ Jun

最近、僕は何をやっているのか?そうね、いろいろやってます!?

2024.11.15 15:01/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)