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2017.6.22 06:26/ Jun

「お金の無駄遣い」と罵られ、家族からも反対され、それでも新規事業をつくる人の大研究!:新刊「事業をつくる人の大研究」を編んでいます(田中聡・中原淳共著、クロスメディアパブリッシング)

「事業をつくる人」の大研究
  
 という書籍を、研究室D2の田中聡さんと中原の共著で編んでいます。田中聡さんの修士論文、そして、今年電通育英会様のご支援を受けて行った中原研究室の研究の2つのデータをもとに、
  
 1.事業をつくる人とは、どういう人なのか?
 2.事業をつくる人は、新規事業をおこすとき、どんな経験をするのか?
 3.新規事業をおこす人を、わたしたちは、どのように支援・評価すればいいのか?
  
 を考察する本になっています(電通育英会さまには心より御礼申し上げます)。
  
 こちらの書籍はクロスメディア・パブリッシングさんからの出版で、小早川幸一郎社長、伊賀倫子さん、戸床奈津美さんに編集・構成に入っていただいております(3名も!大変頼もしい!)。先だっても、田中さん、小早川さん、伊賀さん、戸床さん、中原で、ワイワイガヤガヤと編集会議を終えました。
 クロスメディアさんには、このような機会をたまわり本当に感謝しております。ぜひ、よい本にしていきたいな、と思っています。
(はじめてお会いしたのは、実は、山辺恵理子さんにお誘いいただいREFLECTというイベントで、中原と伊賀さんがお会いしたことでした。出会いに感謝いたします)
  
 ▼
  
「事業をつくる人」の大研究の特徴を、ワンセンテンスで述べますと、「新規事業をつくるひと!」に徹底的に寄り添い、フォーカスをあてた本です。
  
 これまで新規事業に関する本というと、
  
 1.いかに新規事業をおこすのか?
 2.どんな戦略や事業をたてるのか?
   
 という本か、ないしは
   
 3.新規事業を興した人の成功談
 4.成功した新規事業の事後分析
   
 がほとんどでした。
   
 本書は、こうした既存の問いではなく、あくまで「ヒト」にフォーカスをあてます。そこが田中聡さんら、我々のこだわりポイントであり、オリジナリティかと思います。
  
 そこでは、既存の研究では、あまり焦点をあてられなかった「非常に生々しい問い」にフォーカスがあたります。たとえば、
  
 新規事業をおこすヒトは、アイデアが生まれないわけではなく、既存事業の人々の協力や巻き込みに失敗しているというデータであったり・・・
  

     
 新規事業をおこすヒトの25%は、「お金の無駄遣い」だと組織内で揶揄されている、という経験を示すデータだったりします。しかも15%は家族からも反対を受けている!
  

   
 こうした定量的データに加え、田中聡さんが修士論文で行った質的研究(田中聡・中原淳 印刷中 新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習に関する実証的研究. 経営行動科学 Vol.30(1))のデータをがしがしと加え、新規事業をおこす人が経験する「リアル」に接していこう、というのが、本書のオリジナリティです。
  
 指導教員のわたしが申し上げるのは何ですが、「新規事業をつくるひとのリアル」なら、田中さんのもっていらっしゃる経験とデータは、非常に興味深いものです。ぜひ、彼には頑張ってもらいたいと願っています。
    
 ▼
  
 先だっても、田中さん、小早川さん、伊賀さん、戸床さん、中原で議論をしていて、「既存事業と新規事業の確執」についてのお話になりました。そこで図工2の中原が描いた絵がこちらです。既存事業と新規事業は、まことに「ソリ」があわないことが多い。それは、ふたつの村に横たわる「死の谷」のごとく。それを図示したのがこちらの絵です。
  
 名付けて「既存事業村と新規事業村の死の谷モデル」!
  

     
 この死の谷モデルの主人公は、新規事業を立ち上げるべく既存事業村を出て、新たな村を立ち上げるひとりの「若人」です。彼 / 彼女は既存事業村で高い業績をあげて、村を出ることになりました。
   
 既存事業村で優秀な成績をあげたひとは、経営者からの薫陶を受け、既存事業村を出て、死の谷を超えます
  
 この世界を牛耳る神=経営者からは、
  
 既存事業村はもう斜陽だ。だから、我が社を救う新規事業村を、ぜひつくってほしい!
  
 と熱い期待を寄せられ、いわば「世界の救世主(メシア)」にでもなったつもりで、彼 / 彼女は、既存事業村の対岸に「新規事業村」をつくります。
  
 しかし、ここからが「悶絶」のはじまりです。
 「組織の救世主」なのですから、当然、彼 / 彼女は自分のつくった新規事業村は「対岸の高地=既存事業よりも高いところにある場所=既存事業を救う立場にある場所」だと思っていたのですが・・・実は、組織的には、低地の低地の、ど低地・・・ほとんど沼地のような場所に、新規事業村をつくることになる、というお話です。
 若人が思っている「新規事業村の主観的な立地」と「実際の立地」には「高低差」が激しくあるのです。
    
 しかも、既存事業の口のわるい人からは、
  
 「まぁ、お手並み拝見だね・・・僕らの稼いだ日銭で、なんか、好き勝手なことやってるんでしょ」
  
 と思われている。
  
 最後の頼みは経営者だと思って、アイデアをもっていったら、
  
 「(つまようじを使いながら)チーッ、こんなありきたりのアイデアかよ。おまえ、これで大丈夫か? クロになるのか? うちの組織、これで、すくえんのか?」
  
 なんて言われちゃう。
  
 この権力の落差、そして、そこに広がる組織内政治。これこそが、これから田中さんら、我々のチームが編んでいく書籍「事業をつくるひとの大研究」の眼目です。
  
  ▼
  
 書籍は11月あたりをめどに、クロスメディアパブリッシングさんから刊行の予定です。新規事業をこれから手がける方、新規事業部門に部下をおくりだす方、そして新規事業において部下を率いる方に、ぜひおよみいただきたい一冊です。
  
 本書が提供したいのは、
  
 新規事業にかかわる人が手にする「一枚の地図」
    
 です。
  
 地図があり、見通しがあれば、無駄な不安や葛藤に苦しむこともない。
 いや、正確にいえば、不安や葛藤が存在しない新規事業は「存在しない」のだけれども、「正しく不安に向き合い」、「正しく葛藤すること」ができる。
  
 本書を通じて、僕らは
  
 挑戦する人
  
 を応援したいと願います。
 どうぞお楽しみに!
  
 そして人生はつづく
  
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フィードバック入門特設サイト
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