NAKAHARA-LAB.net

2017.5.24 05:51/ Jun

「研修で学んだこと」を綺麗さっぱり無意味化してしまう「3つの壁」とは何か!?

「研修転移(Transfer of Training)」とは
    
 1.研修の中で学んだ知識やスキル」を仕事の現場で実践し、
 2.成果をだすことができ
 3.かつ、その効果が持続すること
  
 をいいます。
   
 研修転移は、人材育成にとって、その根幹に関わる問題です。
 研修で学んだことが仕事に役立てられないのだとしたら、研修のレゾンデートル(存在証明)を疑われます。もし、学んだことが全く仕事に役立てられないのであれば、そもそも研修をする意味がありません。
   
 かくして「研修転移を高めるための要因(促進要因)」、あるいは、「研修転移の障害になるような要因(阻害要因)」に関する研究が、これまで過去30年にわたって行われてきました。
 我が国では、先般出版させていただきました「人材開発研究大全」において、関根雅泰さん(中原研OB)が論じているくらいで、あまり研究がなされていません。しかし、研修転移の規定要因探求に関する研究は、この領域の「オハコ」のようなものです。
 
(人材開発研究大全は全900ページで、あまりに分厚く、一部では「凶器」とか「防具」と言われているようです・・・すみません)
  

     
 一般に、研修で学んだことが実践されるためには、下記のように3つの壁があると思います。
  
 1.「記憶の壁」
 2.「実践の壁」
 3.「継続の壁」
  
 第一の「記憶の壁」は、端的に申し上げますと、「研修で学んだことが、なにひとつ記憶されてすらいない」ということにまつわる壁です。
 この壁は、あなたが、研修をする側からすると「ウソー!あんだけ言ったじゃん」と言いたくなるかもしれません。
   
 しかし、もしあなたが「学ぶ側」ならどうでしょう。
 あなたは、過去に研修で学んだ内容を、どれだけ記憶していますか?
 100回研修を受けていたとして、そのうち、どの程度を記憶しているでしょうか?

 おそらく5%以下なのではないか、と思います。
 これが「記憶の壁」です。人は、信じられないほど、忘れっぽい生き物なんですよ。
  
 だから研修転移を高めるためには、「事後のリマインド」が必須だと思います。
  
  ▼
  
 第二の「実践の壁」は、「研修で学んだことを、本当にやってみるか、どうか」という壁です。
「やってみるか、どうか」というのは2つの意味があります。
「自らやってみようと思うか、どうか」という「参加者のモティべーションの問題」と、「やってみる機会があるか、どうか」という「機会の問題」です。
  
 前者を高めるためには、研修の最後に「自己効力感」を高めることが重要です。別の言葉で申し上げますと、
   
 研修室のドアを出るときには、人は、やってみようという気持ちがあふれるかたちで出なくてはなりません
  
 あー、研修の最後に説教くらったよ。あー、ようやく終わった。これで、シャバに帰れる!
  
 じゃ、ダメなんです(笑)
  
 後者の「機会の問題」に関しては、参加者の上司への通知や巻き込みなどを行う必要があります。よく知られているように、研修の転移にもっとも影響を与える要因のひとつは、参加者の上司や同僚の態度やサポートであったりします。
  
  ▼
  
 第三の「継続の壁」は、「実践を継続できるか、どうか」ということです。
 わたしも、そして、あなたも、人は「か弱き存在」です。一度はじめたことでも、実践し続けることができるのは、強い意志が必要です。
  
 これを高めるためには、研修を2段構えにして、インターバルをもうけて、実践後の成果を、2度目の研修に持ち寄るなどの工夫が行われます。要するに、「やらなくてはならない状況」を社会的につくるということですね。
  
  ▼
  
 今日は研修転移のお話をいたしました。
  
 研修転移に関しましては、この夏頃に、「研修開発入門ー行動変容のセオリーと実践(仮称)」というかたちで、ダイヤモンド社さんから書籍を出させていただくことになっております。
  
 中原が編著者をつとめ、著者に関根雅泰さん、鈴木英智佳さん、島村公俊さんらを迎え、ともに執筆させていただきます。編集者は、間杉俊彦さんです。研修転移の3つの壁を乗り越える、さまざまな理論と企業実践事例がご紹介できる書籍になる予定です。
   
 どうぞお楽しみに!
 そして人生はつづく
  
  ーーー
     
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