NAKAHARA-LAB.net

2017.3.22 06:19/ Jun

共感とは「相手と同じ感情になること」ではない!?:杉原保史(著)「プロカウンセラーの共感の技術」読了

 先だって、杉原保史(著)「プロカウンセラーの共感の技術」読了しました。
  

  
 著者の杉原先生は心理カウンセリングをご専門になさっている京都大学におつとめの先生です。先だって、僕は先生の前著「技芸としてのカウンセリング」に大変興味をもち、さらに先生の著作を読み進めたことになります。大変よい勉強をさせていただいております。ありがとうございます。
  

  
 その書評はブログにも書かせていただきました。
  
ありのままを「聴く」、頑張らないで「聴く」とは何か?:杉原保史「技芸としてのカウンセリング入門」書評
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7377
  
  ▼

 ところで、今回のテーマは「共感」です。
  
 この本を手に取った理由は「共感」というものが学術的にどのように位置づけられているかを知りたいと思う気持ちもありました。が、「共感」は、おそらく僕が、自分の「人間的課題」として抱えていることのひとつなので(泣)、読んでみたい気持ちが高まりました。
  
 著者は、本書の冒頭、こう切り出します。共感とは「個人と個人の境界にかかわること」である、という前提をおくのです。
 共感という概念は、近代以降、個が独立の存在としてとらえられるようになったことに対する、いわゆるアンチテーゼとして、立ち上ってきた概念であるとも解釈できそうです。共感とは、「個人が個人がそれぞれ別個の存在であること」をまずは受け入れつつも、その個人間の「つながりを模索する行為」なのかな、とも思います。
  
 共感が「個人と個人の境界にかかわること」であるという前提をおいたうえで、本書では、著者が「共感とは何か?」をさまざまな事例や角度から論じていきます。
 本書は、「共感」にまつわる、様々な角度からの考察や、ストーリーや事例をとおして、共感がなんたるものかを、読者の内部に「浮かび上がらせる」というやり方で書かれているように感じます。こうした記述の仕方も、興味深いなと思いました。
  
 本書の記述には首肯できるところが多くありましたが、個人的には、共感とは「相手のために時間をつかうこと」「相手と一緒にいながら感じられることに注意を向けること」「受容の先に変化の促進を願うこと」という記述が刺さりました。
 特に「受容の先に変化の促進を願う」というのは、僕の専門である「学習」「学習の促進」にかなり近い概念のように感じます。まことに興味深いものです。
  
 共感に関して一般には、本書よりも浅薄な理解が広がっているような気がします。
 
 世の中的には、
   
 「共感=相手と同じ気持ちになること」
 「共感=かわいそうだと思うこと」
  
 という認識が多いと思うのですが、本書は、見事にそうした一般通念を裏切り、ひとつの哲学的前提をおいた上で、さまざまな角度から「共感がなんたるか」を浮かび上がらせていました。面白く読ませていただきました。
  
  ▼
  
 「受容の先に変化の促進を願うこと」が共感のひとつであるならば、共感は「学習のためのリソース」としても解釈できそうです。
  
 他者に学んでほしい、変化してほしい・・・そうしたことを仕事としてなす方々には、おすすめの一冊です。共感が苦手な僕が、このようにいうのは、大変おこがましいですけれども(笑)。「共感とは、ともにあり、感じること」・・・人生の課題です。
    
 そして人生はつづく

 ーーー

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