2017.2.23 06:57/ Jun
「基礎を積み重ねたら、いつか、応用になるという神話を疑え。現場をもつ社会科学の研究領域では、基礎を積み重ねても、なかなか応用にはならないんだ」
「社会科学の領域では、応用を考えるのなら、最初から、応用することを考えて、しこたま考えて、研究を組みたてることだ。基礎をやっていれば、いつか応用になるはずだ、と考えること自体が甘い。現場をなめるな」
「現場に還る研究がしたければ、最初から現場に還ることを想定して、方法を選べ。あとから現場に還ることを考えても、おそいんだ」
「あとから何とかなると思った研究は、もれなく、何ともならん。何とかなる、と思ってはじめた時点で、もう勝負がついてるんだよ。さて、おぬしはどうする?どうしたいんだ?」
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もう20年以上も前のことなので、僕も記憶が定かではないのですが、これらの言葉は、僕が指導教員に言われ、心に残っている教えのひとつです。
安い居酒屋で、先生は、酔っぱらい、饒舌になりながらも、「基礎と応用の関係とは何か?」「現場に還る研究とは何か?」について、僕にいろいろ教えてくれました。
その言葉は20年たっても、脳裏にこびりついています。
基礎と応用
現場に還る研究
先生がここで語られているのは、社会科学の研究領域における、両者の「抜き差しならない関係」です。
要するに、ここで、先生がおっしゃりたかったことは、
1.基礎を積み重ねれば、応用になるというのは幻想だ
2.現場に還る研究をしたければ、最初から戦略をたてろ
3.後から何とかなると思った研究は、たいてい、何ともならん
ということです。
理系の領域ーたとえば、薬学とか、医学とか、そういう風に物質を扱うような領域ですと、基礎的研究を積み重ねていけば、応用・実用になるというのは、想像がつきやすいものです。
しかし、現場をもつ社会科学の研究領域で、さらにヒトにまつわる研究ということになると、研究の諸前提や文脈が、研究と現場では異なるため、必ずしも、基礎的な研究を積み重ねても、応用問題を解けるとは限りません。
この意見、賛否両論はございましょうが、先生がここでおっしゃっていたことは、「現場をもつ社会科学の研究領域では、それは難しいよ」ということですね。
僕も、そう思います。そして、実際、過去20年弱、そうした思いで研究をしてきました。
もちろん、すべての研究が、応用につながったり、現場に還る必要はありません。
しかし、もし、そうしたことをめざすのであれば、きちんとした戦略や方向性を、「最初」から見定めていかなければならないと思うのです。
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嗚呼、この問題を脳裏に思い浮かべるとき、ドナルド・ショーンの問題提起を思い出します。
「沼沢の多い低地の問題」では「技術的な解法」は否定される。皮肉なことに「高地での問題」は、それが「技術的にいかに興味深い」としても、個人や社会にとっては重要ではないという傾向があり、逆に人々の大きな関心を集める問題は「低地の沼沢地帯」に存在する /
実際に問題に当たる実践家は、ここで選択しなければならない。
「高地」にとどまって、「厳密性をもった巧みなやり方」で、相対的に「重要ではない問題」をとくのか?それとも、重要な問題が存在する「沼沢」まで下がって、あまり「厳密ではない方法」で「問題」を解くのか?
(ショーン 1987)
さて、ここで選択です。
あなたは「沼沢」を生きますか?
それとも「高地」にとどまりますか?
あなたは「有用性のない厳密さ」をめざしますか?
それとも「有用性のある曖昧さ」をめざしますか?
そして人生はつづく
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