2017.2.15 06:19/ Jun
「ドナルド・ショーン」といえば、僕の研究領域でいえば、「その名前と業績を知らないことでいることを許されぬ著名研究者」です。
博士論文でジョン・デューイの研究を手がけ、マサチューセッツ工科大学で、クリス・アージリスらとともに「組織学習」の研究に従事し、のちには「専門家とはどのような存在か」という仮説のもとに「省察的実践家(Reflective Practitioner)」という概念を提出しました。
専門家とは「技術的合理性にもとづいて、原理・原則を現場に適用する存在」ではなく、むしろ「現場の状況変化に応じて、そのつどそのつど、リフレクティブに意志決定を行い、行為を決めていく存在」であることを主張しました。
この「専門家像の転換」は、のちの人文社会科学の発展に大きく影響を与えます。いわゆる「ショーン・ショック」というやつです。
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ところで、そのドナルド・ショーンの著作としてもっとも有名なのは、言うまでもなく「省察的実践とは何か?(Reflective Practioner)」です。
そして、その書籍には、それと「対」をなすような、もう一冊の専門書がございます。
それが1987年に出版された「Educating the reflective practitioner」です。この書籍は、長い間、日本語翻訳がございませんでした。
このたび、この書籍の翻訳が出版された、という連絡を東海大学の堀本麻由子先生から得て、先生が、僕にご献本をくださいました。先生におかれましては、この場を借りて御礼を申しあげます。
また、監訳者の方々、訳者の方々におかれましては、素晴らしい本の翻訳をありがとうございました。心より感謝いたします。
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「Educating the reflective practitioner」は、書籍のタイトルどおり、「反省的実践家とよばれる専門家」をプロフェッショナルスクールにおいて、いかに育成すれば良いのかを論じた本です。
前書「Reflective practitioner」が、「Reflective Practice」という概念の抽出に注力していたことを考えると、本書の記述は、それよりも一歩先に進み、それを「いかに育成するか」が論じられているところが最大の特徴です。
考えてみれば、医療にしても、経営にしても、専門家の育成とは、まことに現代的ニーズの高い問題です。
しかし、その育成は「基礎 vs 応用」「科学 vs 実践」というダイコトミー(二律背反)に、これまで大きく呪縛されてきました。
そして、それが「応用のきかない基礎的技術・科学」「基礎に全く根ざさない場当たり的な応用的課題解決」という深刻な状況を生み出していたものと思われます。
ショーンは「反省的実践」という概念をここに適応し、このダイコトミーを、いったんは超越した議論を展開します。
そのうえで、プロフェッショナルスクールにいかにして、反省的実践家を育成するか、その組織的課題について述べる、という展開になっています。
ショーン自身が、MITの都市工学の学科長をつとめていたので、彼自身の煩悶であったのでしょう。
地に足のついた思考を展開できたのは、この問題は、彼の私的経験に根ざしていた、というところが大きいと思います。
思索のうえ、ショーンがたどり着いた結論は、「相互的に、実践を省察する(reflection)広場をつくりだすこと」でした。
相互省察を可能にする「鏡のホール」という概念がとても印象的です。
詳細は・・・本を読んでのお楽しみ。
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本書は、専門家教育が行き詰まりを見せている、という現代において、非常に示唆にとむ問題提起を行っていると思います。
まだ(?)AMAZONなどの書店には展開されておらず(今後も予定があるのかどうかわかりません)、Webでは版元の「鳳書房」さんにFAXで購入することができるのみのようです(たぶんここでよいと思うのですが・・・ちょっと責任は持てません)。
鳳(おおとり)書房
http://ootorishobou.web.fc2.com/
530ページという長大な本なので、なかなかひとりで読むのは覚悟がいりますが、気の置けない仲間とともに春休みなどに読むとよいのではないか、と感じました。
そして人生はつづく
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