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2016.12.26 06:42/ Jun

「お金」や「コスト」のことは決して語らない「ロマンチック教育論」!?

「質のよいもの」が「高価」であるように、「丁寧な教育」にもお金がかかります。
  
 まぁ、イコール「お金」じゃなくてもいいけど、要するに「人々を魅了するような学び」を引き起こそうとするなら「手間暇」と「コスト」がかかる。
  
 私たちは、高い理想をめざしつつも、そうした現実から目を背けたり、逃げたりせず、向き合わなければならない、ということです。
  
  ▼
    
 例えば、世界でもっとも有名な哲学者のひとりであるジョン・デューイが、シカゴ大学につくったといわれている先駆的学校に、いわゆる「シカゴ大学実験学校」があります。
  
 こちらのシカゴ大学実験学校では、ジョンデューイの唱える「経験主義的思想」をもとに、学習者の興味関心に応じた、しかも、社会と学校を接続した学びが志されました。それ自体は大変素晴らしいことであり、今なお、私たちは、そこから学ぶべきものが多々あります。
  
 しかし、後世の歴史家があきらかにしたところによりますと、実験学校に集まった人々や環境は、非常に「特異なもの」であったことが知られています。
  
1.生徒の親は全員が白人で、収入は高く、職業は専門職であったそうです
 生徒の経済資本、文化資本は高かったことが予想されます
  
2.子ども140人に対して教師23人、アシスタント10名が一時つきました。
 大人につき4名ー5名の子どもという非常に恵まれた環境でした。
  
 一般に「経験主義的な教育」には、「手間暇」と「コスト」がかかることが知られています。
  
 そりゃそうだよね・・・個に応じて、経験させながら学ばせるというのは、言うのは簡単だけど、難しい。一斉講義で公式・原理・原則を記憶してもらうことが「教えること」として認められるなら、よっぽど効率がよくて、コストがかからない。
 シャバで、そろばんをはじいている人なら、すぐにそのことくらいは想像できます。
  
 かくして、学習者の興味関心に応じた経験主義的教育は、そうした環境で実現がめざされたということです(ちなみに、小生はジョン・デューイ、心から尊敬しています。でも、そのこととコストの話は別の話)。
  
 なかなか味わい深い事例です。
 
  ▼
  
 今日は「学び」と「コスト」のお話をしました。
 
 たいてい、こういう話をしますと、「教育や学びにロマンチックさを感じておられる方々」は眉をひそめます。
  
 さすがに「この守銭奴!」と罵られることは現代ではないとは思いますが、かつての時代には、余裕しゃきしゃき火がボーボーくらいありました(笑)。
「教育や学びのことを語る」ときに、お金やコストのお話をするのは「品がない」と思われている節は今でもあります。
   
 一般に、教育の世界では「手間暇」や「コスト」のことは「タブー」とされている傾向があるように思います。
「お金の問題」には目をつむって、「やったらよい教育」の素晴らしさを語る傾向は今でもあるような気がします。
  
「どんなにお金がかかった」としても、「かくかくしかじかの理論」に照らして、これはよいからやるべし
  
「お金のこと」はさておき、「ほげほげちょめちょめの哲学」に照らして、これはフィットしているからやるべき
  
 今なお、こういうニュアンスが蔓延しているように感じます。あるいは、「どんなにお金がかかったとしても」や「お金のことはさておき」の前段部分にさえ、まったく目配りがない議論が横行しているように感じます。

 これをさらに補強するのが「子どものため」とか「学習者のため」という一文です。
 子どものため、学習者のために「やったらよいこと」をとにかく採算度外視で求めることが「よし」とされます。
  
 しかし、お金の問題を「度外視」してよいのなら、いくらでも「やったらよい教育」はロマンチックに語ることができます。僕は、こういう教育論のことを「ロマンチック教育論」と呼んでいます。
  
 しかし、現実はそう甘くはありません。
  
 私たちは
   
「質のよいもの」が「高価」であるように、「丁寧な教育」にもお金がかかります。
「質のよいもの」が「高価」であるように、「よき学び」にもお金がかかる
   
 ことをまずは受け入れ、その上で、「高い理想」を目指さなくてはならないように思います。
 「お金のこと」ばかり語っているのも困りますが、「高い理想」だけを語っているのも、「絵に描いた餅」でしょう。
  
 実現することをめざしたいのなら、両者への目配りが必要なのではないでしょうか。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   
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