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2006.8.19 09:51/ Jun

学会の魅力

 日本科学教育学会2日目。僕は「おやこdeサイエンス」の発表をした。
 僕の発表したセッションは、同志社女子大学の余田先生、大分大学の竹中さん、多摩美術大学の楠さんが、プレゼンテーションを行い、メディア教育開発センターの堀田先生が指定討論にたった。
 他の方々のご発表は、どれも実践的で非常に面白かった。
 特に興味をもったのは、楠さんの「博物館のテクノロジ支援」の研究。帽子にRFIDのパッシブタグを埋め込み、展示を巡回させる。展示の前では指向性スピーカを使い、インストラクションを行ったりする、というシステムであった。「子どもに無駄なものは持たせたくない」という主張は非常に共感できた。センシング技術はこの問題の解決には非常に効果的なのではないか、と思った。
 あと、楠さんの発表の中で非常に興味深かった指摘は、「コンテンツつくりこみすぎると、本物から目をそらしてしまう」「イケてないコンテンツが実物をよく見ることを促す」ということである。
 要するに、PDAにしても、指向性スピーカにしても、オプショナルな情報提供手段で、リッチな情報を流してしまうと、目の前にある実物の展示物は忘れ去られる、という逆説的な指摘が面白かった。「どんな情報を、どのように流すのか」・・・目の前にリアルなモノがあるだけに、この切り分けは難しいと感じた。
 —
 最後に堀田先生が総括を行った。
 情報通信機器の教育利用に関しては、通常、下記のようなプロセスをとる。現在、m-learning(モバイル)に関しては2の段階に入ったというご指摘だった。これは僕も同感である。この段階では、どのような教材・システムを開発したにせよ、しっかりと評価をして、その効果をアカウントしていくことが重要だと考える。
1. Technology pushによる導入と影響を観察する時期
  ↓
2. Demand pullによる活用と有効な運用メソッド
  ↓
3. より有用なシステムへの提言
 (ユーザ側からTechnologyへのリクエスト)
horitan.jpg
 —
 帰りは、つくば駅で堀田先生とランチをとり、一緒に東京へ。その間、研究のこと、人生設計のこと、久しぶりにいろいろお話をさせていただいた。
 僕が堀田先生と出会ったのは、僕が修士課程の学生のころ。堀田先生が、今の僕の年齢プラス1か2あたりの頃であった、という。それから随分長い時間がたったなぁ・・・と、二人で「しみじみ」としていた。それから、本当に矢のように時が流れた。少なくとも僕は、一度も後ろを振り返えらなかった。
 だけれども、「あの頃の堀田先生の年齢」に自分が、もう少しで到達しようとしているといわれると、なんだかとても不安になる。僕は、あの頃の堀田先生のように、「一人前の研究者」として振舞えているのだろうか。
 —
 堀田先生とは、本当にいろいろな話をした。特に印象に残っているのは「研究成果をあげるモデル(いわゆる研究者にとってのビジネスモデルのこと。アクターネットワークといってもよい)をどのように維持していくか」ということである。
 一度モデルを築いたとしても、常に安泰なわけではない。研究のメンバーは年をとり、社会的立場も変わってくる。また社会の要請も毎年毎年変わる。
 その状況に応じて、いったん自分の築いたモデルを変容させることができることが重要である。モデルにstableな状態はない。つまりは、一生安泰なアクターネットワークはこの世には存在しない。このことは、よく頭にいれておかなければならぬと思った。
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 思うに、先輩研究者に「研究のこと」「人生のこと」などを相談できるのも、学会の魅力ではないかと思う。今回、科学教育学会に行ってよかった、と思った。

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