NAKAHARA-LAB.net

2016.4.1 06:44/ Jun

新年度初日、「ビジョン」をメンバーに伝えるときの3つのポイント!?

 ビジネスの現場でよく用いられる言葉のひとつに「ビジョン」という言葉があります。
「うちの組織には、ビジョンがない」
「うちの課長は、ビジョンをもってない」
 のように・・・。
 たいていは、あまり望ましくない事態が生じたときに、この言葉が用いられます。しかし、一般に広く用いられている、この言葉も非常に曖昧に用いられています。
 先ほど、
「うちの組織には、ビジョンがない」
「うちの課長は、ビジョンをもってない」
 という2つのセンテンスを出しましたが、これはニアリーイコール「ビジョンがない=イケてない」くらいの意味しかないような気もするのです。
 つまり、
「うちの組織は、イケてない=ビジョンがない」
「うちの課長は、イケてない=ビジョンをもってない」
 ということですね。
この場合、「ビジョンそのものについては、まーよくわかんないんだけど、ダメ出しワードとして用いてみよか」くらいの意味しかないようにも思えます。
 ところで、皆さん、そもそも、「ビジョン」とは何ですか?
 皆さんだったら、ビジョンという言葉の意味するところを、どのように説明なさいますか?
 今日は新年度、様々な場所で、今年度のビジョンが語られることと思います。
 
 ビジョンって、そもそも何?
 今日はそのことについて考えてみましょう。
   ▼
 このことを考えるとき、最も僕にしっくりくる答えをいただけたのはサイバーエージェント人事の曽山哲人さんのお言葉です。曽山さんは、講義の中でビジョンのことをこう定義なさっていました。
 ビジョンとは「映像(ビジュアル)をみせること」なんです。
 ビジョンを「未来をみんなの目の前にビジュアライズすること」と考えたら、わかりやすいのではないでしょうか?
 おっしゃるとおり、ビジョンの語源とは「Vision : 見ること」であり、そこから派生して、ビジョンには「視野」とか「先見」とかいう意味が存在します。
 要するに、ビジョンの本質とは「見ること」であり「見せること」です。つまり「目に見えること」「可視できること」。
 こう考えると、「ビジョンを示す」とは
「メンバーの心に、未来の映像を見せること」
 と考えることもできそうです。
 さすがは曽山さんです。いつもご指導をありがとうございます。
  ▼
 ところで、それでは次に、わたしたちはどのようにビジョンを描けば良いのでしょうか。
 メンバーを巻き込むビジョンとは、どのようなものなのでしょうか。
 メンバーを巻き込むという観点からすれば、ビジョンには僕は3つの点が必要なのかなと思います。
 ひとつめは「ゴールが明確であること」
 すなわち「未来の映像で描き出される到達点が明確だ」ということです。
 
 映像とは、そもそも「時間軸」が存在します。それは「現在ある場所」から、「将来到達する地平」までの時間軸が、描き出されるはずです。
 いわゆる単館映画で上映されるような「到達点がない映像=ハッピーエンドが描けない映像」というのはポストモダン的でシュールなのかもしれませんが、多くの人々を巻き込むという点では、難しい点もあるようです。
  ▼
 
 ふたつめは「映像にメンバーが登場すること」です。
 ビジョンとは「メンバーの心に、未来の映像を見せること」なのですが、ここで描き出した未来の映像に、「明晰さ」にメンバーが登場人物として描かれているのか、どうかということが、メンバーを巻き込む上では大切かなと思います。
 いくら明瞭に描き出されたビジョン映像であっても、「そこに自分がいない」「自分が登場しない」というのでは、ビジョンはうまく機能しません。
「あのー、ビジョンは明確なのでしょうけれども、、、あのー、わたくしめがおりませんが・・・」
 というビジョンは、人をモティベートするどころか、3週間分のモティベーションを失わせるでしょう。
  ▼
 最後みっつめは、ここが前段2つと矛盾するのですが
 「描き出された映像そのものにスキがある」
 ということです。
 ここで「スキ」とは、描き出された映像に対して、メンバーが意見を述べたりしながら、自分自身が「映像づくりに荷担できる余地がある」ということです。
 人は、いくら明瞭なビジョンを示されても、
 「はい、どうだー!」
 と提示されるだけではなかなか気乗りしません。
 描き出す映像づくりそのものに加わること、そこに意見したり、コメントしたりして、若干の軌道修正を行えることが、ビジョンには必要です。
 要するに、
 自分もビジョンづくりに関与したんだ
 あのときに、自分もビジョンづくりに関わったのだ
 スキだらけのビジョンを提示しやがって、オレが、書きたしてやったがな、しゃーないヤツやな
 という感覚をもってもらうことが重要であるということです。
 こういう感覚をもってもらえれば、人は自分が関与したビジョンに、おいそれと反論はしにくいものです。
 この意味では、
 ビジョンとは「明瞭であること」を一方で求められ、
 一方で「スキがあること=ある程度曖昧であること」が求められる、
 ということですね。
 嗚呼、矛盾だらけですね。
 でも、人の世そのものが矛盾だらけです。
 ビジョンも矛盾だらけなのは、やむをえません。
  ▼
 今日はビジョン構築について書きました。
 新年度、今日はさまざまなところでビジョンが語られることと思います。
 自戒をこめて申し上げますが、どうか人を巻き込めるよきビジョンが世の中に多数生まれることを願っております。
 そして人生はつづく

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.10.14 19:54/ Jun

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.9.28 17:02/ Jun

サーベイを用いた組織開発が「対話」につながらない理由とは何か?:忘れ去られた「今、ここ」の共有!?

2024.9.2 12:20/ Jun

【参加者募集中】研修開発ラボで「研修開発・評価の基礎」をすべて学びませんか?