NAKAHARA-LAB.net

2016.3.31 05:50/ Jun

「アクティブラーニングの育成論」と「アクティブラーニングの組織論」を追い求めて!?

 高校におけるアクティブラーニングの取り組みが、進み始めてきています。
 中原研究室でも、社会貢献・研究開発事業として、「高校」に着目し、昨年来からマナビラボの取り組みをはじめています。
 このプロジェクトに際しての、中原含め研究員たちの思いは、こちらにございますので、ぜひご覧下さい。

マナビラボとは

http://manabilab.jp/aboutus
  ▼
 ところで、志あふれる研究員たち、日本教育研究イノベーションセンターの皆さんと、この1年間、「高校のアクティブラーニングの研究」で走り続けていて、最近、とみに思うことがあります。
 それは、
 アクティブ・ラーニングの「事例」は、世の中に溢れはじめているけれど、
 しかし、徹底的に不足しているのは
 アクティブラーニングの「育成論」であり、
 アクティブラーニングの「組織論」である
 ということです。
 こんなことを最近よく思います。
 以下、このことを論じてみましょう。
  ▼
 
「アクティブラーニングの育成論」という用語で僕が意味したいものは、
 アクティブラーニングを実践したいと思う先生が、自分の授業をどのように変化させ、どのように熟達していくか
 ということです。
 これは必ずしも教員養成大学(学部生相手の教師教育)の問題だけではありません。
 むしろ、
 
 最大の課題は、すでに自分の授業スタイルを確立し、慣れ親しんだ教え方で日々を過ごしておられる先生方が、どのような支援やタイミングをもって、自分の授業スタイルを振り返り、愉しみながら「考えさせる授業」を実践していくのか

 ということです。
 最大の課題は「日常」「職場」にあります。
 この問題は、学問領域的に申しますと、教師教育(Teacher education)という領域になるとは思うのですが、わたしの目には、この領域の知見が「アクティブラーニングの言説空間」とはかなり距離があるように感じます。
 アクティブラーニングの事例は世の中にあふれています。
 しかし、いくら事例を知ったところで、それを実践できるかどうかは別の問題です。そこには、どのようなタイミングで、どのような「支援」を為すべきか、ということに関する視座・分析が必要であるように思います。
  ▼
 もうひとつはせんだってのブログで書きましたとおり、「アクティブラーニングの組織論」です。
 よく、巷では、アクティブ・ラーニングといいますと、
 いかに授業をするか?
 どんな話しあいをさせるか?
 いかにファシリテーションをさせるか?
 ということが問題になりますが、これを僕は「アクティブラーニングの教育論」と呼んでいます。
「アクティブラーニングの教育論」は「アクティブラーニングの事例集」とともに世の中にあふれています。
 しかし、一方、決定的に不足しているのは、
 アクティブラーニングを実施できている「学校」とはどんな組織か?
 という組織的課題に対するアプローチであると思います。
 「アクティブラーニングの事例集」や
 「アクティブラーニングの教育論」は世の中に溢れていますが、
 今後は、
 「アクティブラーニングの組織論」
 を論じることが重要だと思っています。
 わたしどものプロジェクトでは、全国の高等学校約3983校のうち、62%にあたる2414校を対象にした全国調査の結果、アクティブラーニングと学校の関係は下記のようなことがわかりました。
infographics_06.png
引用:木村充, 山辺恵理子, 中原淳 (2015). 東京大学−日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究 高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査: 第二次報告書.
マナビラボ:全国調査分析結果 第二報
http://manabilab.jp/article/1158/6
 要約すれば、アクティブラーニング(参加型学習)を実施している学校は、実施していない学校と比べて、目標意識、教員間の仕組みなどに違いがあるということでしょうか。
「学校全体」で、教えるべき内容や方法について目標を決めたり、評価改善をしたり、そうしたものに一致団結したり、校長先生がそういう仕組みをつくるかどうかに、違いがあるということです。
 こうした分析は緒についたばかりですが、今後は、こうした組織的課題を明らかにしつつ、この解決に至るまでの書籍を編みたいと思っています。
  ▼
 マナビラボプロジェクトは、本日をもちまして1年が終了しました。
 マナビラボ研究員にも入れ替わりがあり、堤君が上武大学へご就職、松尾君がご卒業となります。おめでとうございます。
 なお、研究の成果は、山辺さん、木村君、中原、日本教育研究イノベーションセンターで話し合いつつ、北大路書房さんから書籍を今年度中に出版させて頂く予定です(編集者は奥野さんです)。
 個人的な思いとしては、アクティブラーニングの育成論、そしてアクティブラーニングの組織論を加味した、オリジナリティ溢れる研究にしたいなと思っております。
 どうぞお楽しみに!
 そして人生はつづく
 ーーー
追伸.
 8年にわたって長年僕の仕事を支えてくれた、アシスタントの阿部樹子さんが、本日をもちまして東京大学を「卒業」なさいます。
 ついにこの日が来てしまったのかと思う一方、阿部さんの門出を応援したいと思います。この1か月は、よく阿部さんと研究室で昔話をしておりました。
 僕のアシスタント業務(なにせ靴下ポイポイです)、研究部門の事務統括というのは、本当に大変な仕事です。この8年、僕が前線で戦ってこられたのは、阿部さんが背後を守って下さっていたからだと思っています。僕は安心して、活動を為すことができました。
 阿部樹子さんには心より感謝をいたします。
 本当にありがとうございました。
 学び多き人生の旅を!
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