2016.3.25 06:37/ Jun
先だって、僕は、このブログで、「研修」やら「ワークショップ」やらに登壇したあとは、もれなく「廃人」になってしまう理由のひとつに「ステータスのマネジメント」がありますよ、というお話しをしました。
研修講師やファシリテータの「密められた仕事」とは何か?(前編):ステータスのマネジメント
http://www.nakahara-lab.net/blog/2016/03/post_2581.html
「ステータスのマネジメント」というのは、研修講師やファシリテータが、
「自分のポジション・身分(ステータス)を、集団の垂直的な権力関係のどこに位置づけるのか? それをどのように上下移動させるのか?」
ということです。
研修講師やファシリテータは、会の間中、ステータスを上下にびゅんびゅんと移動させながら、会を進行させていくので、シンドイのかもしれません、ということをいくつかの例を出してお話しました。
今日は、この問題の、もうひとつの理由「バウンダリーのマネジメント」について書かせて頂きます。
研修講師やワークショップのファシリテータをなす人は、会の進行中、「ステータスのマネジメント」に加えて、「バウンダリーのマネジメント」を行っています。
▼
まず、「バウンダリーのマネジメント」の「バウンダリー」とは「境界(boundary)」のことです。
バウンダリーのマネジメントとは、
研修講師やファシリテータが、「自分のポジションを、ある特定の集団の内外のどこに布置するか? 自分の立ち位置を、集団の内部におくのか、外におくのか?」
ということです。
具体的に申しますと、ワークショップの冒頭部では、研修講師は、まず自分を信頼してもらい、集団内に「心理的安全(何かをいっても刺されない雰囲気)」や「集団効力感(このグループでなら何かできそうな雰囲気)を確保しなくてはなりません。
そんなときに、彼らがよく用いるのは、バウンダリーのマネジメントを駆使して、その集団「内部」に自分を溶け込ませることです。
曰く
「今日は・・・私たち、一緒に学んでいきましょう」
「今日は、私たちは・・・の課題に直面しているわけですが・・・」
大切なのは、ここで「私たち」「一緒に」という用語が用いられていることです。冷静になって考えてみれば、研修講師やファシリテータのこの発話は、少しだけ「奇妙」です。
敢えて二分法的に明瞭に描き出すのであれば、「学ぶのは学習者」であり、「教えるのは研修講師」です。それなのに、ここで用いられているのは「私たち」「一緒に」です。
つまり、このとき、研修講師やファシリテータは、学ぶ人の内部に自分を定位して、安心感、効力感を高めようとしているのですね。
先だって、あるコンサルタントの方とお話した際に、その方は、自分のクライアントのことを決して「御社」とは呼ばない、とおっしゃっていました。クライアントとともに問題解決をするのだから「当社」とよびたいよね。
これも、自分が支援しようとしている集団の「内部」に自分を定位している例です。
しかし、これで済むのなら、研修講師やファシリテータに「気疲れ」はありません。みんなで仲良く、お手てつないで、チーパッパと学び、行進をしていけばいいのです。
ただ事態はそのようにはすすみません。
たいてい、研修講師やファシリテータは、どこかの段階で、参加者や学習者に「スパイシーなフィードバック」や「ソルティな問いかけ」を行う必要がでてきます。そのとき、彼らは、自分の立ち位置をズラす必要がでてきます。
「皆さんは・・・であるようにわたしには見えます。それで本当によろしいのですか?」
「皆さんは、この局面でどうなさいますか?」
あれっ、さっきまで「わたしたち」「一緒に」といっていたはずなのに、上記のセンテンスの「皆さん」に、もう研修講師やファシリテータは含まれていません。つまり、ここでバウンダリーマネジメントが起こったのです。
研修講師は、ここで集団の「外部」ー外側ーに自分を定位し、「客観的」で「俯瞰的」だだと思われる立ち位置から「スパイシーなフィードバック」や「ソルティな問いかけ」を行いました。
ところが!こればかりを続けていると、場や集団が持ちません。というわけで、またまたバウンダリーをもとに戻して、最後には
「今日はいろんなことがありましたが、また明日から、私たち、一緒に学んでいきましょう」
となるわけです。
このように、研修講師やファシリテータは、会の間中、バウンダリーをえっちらおっちら移動させながら、自分の立ち位置を変えて仕事をしています。
これは簡単なようでいて、大変センシティビティを必要とする作業です。感情も押し殺しながら、物事をすすめなくてはなりません。だから、気疲れすんですよ、きっと。
皆様、今週も、まことにお疲れ様でした!
▼
今日は「研修」やら「ワークショップ」やらに登壇したあとは、もれなく「廃人」になってしまう理由のひとつとして「バウンダリーのマネジメント」について書きました。ステータスのマネジメントにくわえて、これも頻繁に用いられるものです。
これらは人材開発の世界では、「科学的な知」というよりも、「実践知」として伝えられるテクニックですが、いかがでしたでしょうか?
仕事柄よく研修や人材育成の現場に居合わせますが、経験の浅い講演者、ファシリテータは、たいていステータスやバウンダリーのマネジメントにミスってしまっているものです。自戒をこめて注意したいものです。
ちなみに、本当に本当のことをいうと、研修講師やファシリテータのみならず、現場のマネジャーでピープルマネジメントのうまい人は、ステータスやバウンダリーのマネジメントが非常に巧妙です。ぜひ、そういう視点から、御社のマネジャーを見つめてみるとよいかもしれません。
あなたは、今、集団の内部にいますか?それとも外部ですか?
使っているのは「わたしたち」ですか「皆さん」ですか?
そして人生はつづく
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