NAKAHARA-LAB.net

2016.2.17 06:28/ Jun

OJTは「人材育成課題」の「ゴミ箱」じゃない!

 ちょっと前のことになりますが、人材育成に関するあるフォーラムに登壇させていただいた際、その内容で少し考え込んでしまったことがあります。
 催しは、新人育成ーとりわけOJTに関する内容紹介をするもので、新入社員が入ってくる4月、OJTをどのように運営していけばいいのか、ということに関する内容が主に扱われておりました。
 そのなかで、ある方が、こんなご質問をなさったことを印象深く記憶しています。
 曰く
「最近の新人は、新しい発想でモノを考えられない。これをOJTで何とかできないか?」
 僕は、比較的、「今の若い人達は優秀だな」と思って仕事をしているので、「へー、そんなものかいな」と思って話をうかがっておりましたが、ここで、ハッと思い当たる部分がありました。

 一般に人は、OJTに対して
  どこからどこまでを「期待」しているのだろうか?

 
 ともすれば、OJTは「過剰期待」されていないだろうか?
 
 OJTは「ひとにまつわる課題」のすべてを
 背負わされていないだろうか?

 すなわち、
 OJTに「できること」は何で、
 OJTに「できないこと」は何なのか?

 これを明らかにしつつ物事を思考しないことには、
 OJTは「人にまつわる課題」のゴミ箱
  のようなものになってしまう

 のではないか、と考えてしまいました。
  ▼
 この問題にゆるく関連する内容は、以前、記事にしたことがございます。
OJTはパワフルだけれども、泣き所もある人材開発手法」なのだよ、ということを論じた雑文です。少し長くなりますが、引用しますと、OJTの泣き所は、下記の4点になります。
OJTとは「お前が(O) 自分で(J) トレーニング(T)」!?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160213-00054364/

1)OJTの学習効果は「師」に依存する
OJTは「師- 部下間」において行われるため、外部から第三者が介入を行うことは難しいといわざるをえません。師の思うところによって、そして、師の考えにしたがって、教育が行われます。その学習効果、教育のクオリティは、「師のあり方」に大きく依存します。
2)師の能力を超えることは、学べない
OJTは原則的に「師と部下間」のブラックボックスにおける閉じられた学びです。「師のわからないこと」「師の知らないこと」は、OJTにおいて学ぶことはできません。
OJTとは、そもそも「師の知識・経験がなかなか色褪せてしまわないような安定的な領域」に向いている教育のあり方です。
師や部下の存立している場所が、「不確実性の高い領域」であったりする場合- すなわち、上司にとっても「わからないこと」「知らないこと」が生まれやすい知識流動性の高い場所においては、OJTはあまり向いていません
3)学習の起こるタイミングが「偶然」に依存する
部下が何かのミスをする。そうした「偶発的な教育的瞬間」に、上司と部下がともに居合わせ、さらには上司が適切なフィードバックを行ったときに、OJTが奏功します。
ということは、OJTが奏功するための条件としては、「上司と部下がともにいる時間が長い」ということになります。
伝統工芸の師弟関係を見ればわかるように、ともすれば「生活時間」をともにするような「長時間」の人間関係が、OJTの奏功する条件です。
4)OJTはともすれば「単なる労働」に変わり果てる
OJTのもっとも深刻なことは、それが「単なる労働」になり果ててしまうことです。
メタファを使って言うならば、OJTは「Learningful Work」でなければならないのですが、それが容易に「Learningless job(学びもクソもへったくりもない、単なる労働)」になってしまう、ということです。

  ▼
 今日の話題は、このうちの2番の「泣き所」に関連しているのかなと思います。
 要するに、人材開発手法としてのOJTは、一般に
「師の知識・経験がなかなか色褪せてしまわないような安定的な領域」
 に向いていて
「不確実性の高い領域ー師にとっても「わからないこと」「知らないこと」が生まれやすい知識流動性の高い場所」

 には向かない
 ということです。
 もちろん、これはやり方にもよるかもしれません。
 が、一般には限られた時間のなかで、対人関係を基盤にして実施されるOJTは「社会化(組織に染めること=組織の一員になってもらい、仕事を覚えること)」の手法としてはパワフルであるものの、それ以外の領域には拡張することはなかなか困難に思えます。
 よって、
「最近の新人は、新しい発想でモノを考えられない。これをOJTで何とかできないか?」
 という冒頭の願望は、僕には、少しだけ「過剰期待」に感じられるのですが、いかがでしょうか?気持ちはとてもよくわかりますけれども。
 そもそも、
 OJTを提供する側、管理者側は「新しい発想でものを考えられる」のでしょうか?
  ▼
 今日はOJTに関する「過剰期待」と「泣き所」について考えていました。くどいようですが、運用を間違えなければ
 OJTはまことにパワフルな手法
 であり、かつ、日本型組織の慣行にそれなりに準拠し、フィットしたものであると考えます。
 しかし、拡大に拡大を重ねるとき・・・
 OJTが「ひとにまつわる課題」のゴミ箱
 になってしまわないか、
 あるいは
 OJT指導員が「人にまつわる課題」のゴミ箱の清掃員
 になってしまうことを懸念します。
 ま、これは、机上の空論で、僕の取り越し苦労かもしれませんが(笑)。
 そして人生はつづく
  ーーー
追伸.
 僕は「東京大学・中原研究室メルマガ」というものをもう10年?くらい運営しています。不定期で、中原が関与・登壇・ファシリテートするイベント、ワークショップ、研修、セミナーなどの情報をお届けいたします。1月に1度程度流れるくらいでしょうか。すでに6800名をこえる人事・人材開発ご担当者の方にご登録いただいております。
 大丈夫、このメルマガにご登録いただいても、「怪しいイベント」の情報は流れますが、「怪しい壺」とか「怪しいネックレス」を売ったりはしません。もしよろしければ、どうかご登録いただけますと幸いです。
welcomeirashai.gif
中原淳研究室メルマガ
http://www.nakahara-lab.net/mailmagazine.htm

ブログ一覧に戻る

最新の記事

あなたの組織は「社員の主体性を喪失させる仕組み」が満載になっていませんか?:うちの社員には「主体性」がないと嘆く前にチェックしておきたいこと!?

2024.11.25 08:40/ Jun

あなたの組織は「社員の主体性を喪失させる仕組み」が満載になっていませんか?:うちの社員には「主体性」がないと嘆く前にチェックしておきたいこと!?

2024.11.22 08:33/ Jun

最近、僕は何をやっているのか?そうね、いろいろやってます!?

2024.11.15 15:01/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?