NAKAHARA-LAB.net

2015.12.22 06:56/ Jun

研修とは「教授行動」ではなく「経営行動」である!? : 研修効果を高めるための努力!?

 先だって、あるメガバンクさんの人事部・研修所の方々に、「研修の効果を最大化するために」という内容で、3時間のワークショップをさせていただきました。
 こちらの会社には、去年、今年と、年の瀬のこの時期にお声がけをいただいており、某社・関連グループの研修講師の方々、人材開発の方々110名ほどにお集まりいただいております。お忙しい中、本当にご苦労様です&ありがとうございます。この機会は、テレビ会議をつかって大阪にも中継をされておりました。
  ▼
 さて、このたび扱ったのは「研修転移(Transfer of learning)」という内容です。「研修の効果を高める」というのがあたえられたお題であり、かつ、相手も日々企業内で研修をしているプロの方々ですので、ちょっと渋いいぶし銀?のような内容を扱わせていただくことにしました。
 研修転移とは、ワンセンテンスで申し上げると
「研修で学んだ内容が、現場で活かされ、成果をあげること」
 をいいます。
 組織論、人的資源開発論、応用心理学のTraning and Development研究のうち、「研修」にまつわる研究でもっとも多いのは、この「研修転移」に関するものではないかと思います。一時期ちょっと下火になりましたが、最近、またちょっと元気を取り戻してきた、なかなかホットな分野かな、とも思います。
 研修転移とは2つのレベルでおこります。
 第一のレベルは、研修で学んだ内容を個人がいかに現場で仕事に活かし、成果をあげること。
 第二のレベルは、個々人で学んだことが、組織全体につたわり、組織学習につたわること。
 前者は個人レベルの学習、後者は組織レベルの学習と呼称しますが、研修転移では前者は当然、可能であれば後者までスコープにいれた研究が行われます。
 誤解を恐れずに申し上げますが、
 企業・組織において研修とは「教えること=教授行動」ではありません。「教えること」は手段であって目的ではありません。
 企業・組織において研修とは「教えること」をもって、組織や現場にプラスのインパクトをもたらすことです。
 この意味では、
 研修とは「教授行動」ではなく「経営行動」なのです。
 当日は、そんなお話を下敷きに、最新の研究知見を挟み込みつつ、たまにライザップやアルコール中毒の話?をしながら(秘密です・・・でも、これが研修転移研究につながります)、僕が研修転移のレクチャーをさせていただきました。
 3時間の中では、中盤1時間は、自社における研修転移事例の発表会もさせていただきました。
 若手研修から、部長研修まで、某社においてすでに実施されている「研修転移の促進策」を4名のプレゼンターの方から伺う、ということにしました。
 研修転移研究は、アカデミックではホットだよ
 と申し上げましたが、
 おおよそ学者が思いつくことなんか、
  実務ではすでに実施されている!

 ことが多いものです
 某社の素敵な事例をもとに(ありがとうございました)、少しだけ僕がプチ解説をさせていただきました。
 最後の1時間は、参加なさった方々が、ひとりひとりの研修企画を振り返り、研修転移促進策として何を実行できるかをワークシートを使って考えていただきました。グループでシェア・一歩先行くお手伝いをするというワークをやりました。皆様の御協力もあり、無事終えることができました。本当にありがとうございました。
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 今回はテーマが「研修転移を高める」ということで、僕自身も、なかなか緊張して、研修にあたりました。
 ふだんは管理職や新任マネジャーなどの研修でうかがうことが多いので、「研修開発ネタ」で、企業にお邪魔させていただくことはあまり多くはないのですが、いやはや、このテーマは緊張しました・・・なぜだかわかりますか?
 それは
 研修転移を高めましょう!
   というテメーの研修こそが、転移しないんだよ!

 と言われることだけは、避けたかったからです(自爆)。
(「研修」のことを話している、当の本人の実施する「研修」が、イマイチ・アチャパーというのは、はっきり申しますが、笑えません。他人に対して投げつけたブーメランが、自分に返ってきているのですが、知らないうちにケツに刺さっていて、「カンチョーですが、何か?」という状況です(意味不明)。
このことは「マネジメント」についてもいえますね。マネジメントを饒舌にかたる当の本人のマネジメントが、イマイチ・アチャパーなのは、最高のブラックジョークだと僕は思います。)
 かくして、僕なりにこの日の研修は工夫をしました。事前には「プチ反転学習」と称して事前ビデオをお贈りし、スマホで見て頂いたり、いろいろ工夫をしたつもりです。
 ちなみに、「プチ反転学習」では「目的の打ち込み」と「当日の進行」を説明させていただきましたが、その甲斐?かどうかはわかりませんが、当日の「冒頭の入り」は、かなりやりやすかったです。これは僕だけが感じたことかもしれませんが・・・。
 いや(笑)、研修転移というテーマは、なかなかキビシーですよ。でも、はじめて僕は扱いましたが、僕自身もかなり多くの学びをいただきました。実際のところ、当日の評価は、受講生のみなさまにお任せいたします。本当にお疲れ様でした。
  ▼
 最後になりますが、ご参加いただいた皆様はもちろんのこと、4名のプレゼンターの方々、半年前から企画を立ち上げ、打ち合わせを行い、この日に備えてくださったMさん、Sさん、Mさんに、心より感謝をいたします。ありがとうございました。
 そして人生はつづく
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追伸.
今日のブログ記事に関連する記事です。どうぞあわせてご笑覧ください。研修転移研究のまとめをしております。
「学んだこと」が「現場で活かされるため」には何が必要か?:12の障害、5つの促進要因
http://www.nakahara-lab.net/2014/01/post_2167.html

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