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2015.10.30 07:07/ Jun

フィードバックとは「傷口に塩を塗り込むこと」ではない!?

 フィードバックとは、「ほらよ、と結果を通知すること」とか「傷口に塩を塗り込むこと」だと思っている方がいらっしゃるんですよね・・・
 
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 先だって、東京大学で、中原研OBの関根さん・舘野さんが中心になり、フィードバックに関する英語文献購読会が開催されました。購読会には15名程度の方々にもご参加いただき、大変盛り上がりました。
 主催してくださったみなさま、ご参加いただいたみなさまに、この場を借りて感謝をいたします。
 フィードバックとは、さまざまな定義がございますが、要するに、要素にわけますと下記の2点です。
 1.パフォーマンスに対する結果の通知を行うこと
   (スパイシーメッセージング)
 2.パフォーマンスの立て直し、学び直しを支援すること
   (ラーニングサポート)
 世の中的にはフィードバックと申しますと、1の要素、すなわち評価面談での「結果の通知」というイメージが強く、あまり2の側面には焦点があたりません。
 正しく言えば、フィードバックが何かという定義すら浸透せず、フィードバックの2要素のうち1が何となく行われている、というのが現状のようにも感じます。
 しかし、個人的には、重要なのは2の要素であり、むしろ研究の本丸はそちらの部分なのかなという気すらしてきます。
 といいますのは、今回もさまざまなレビュー論文、メタ分析露文を目を通しましたが、1のメッセージング「パフォーマンスに対する結果の通知を行うこと」に関しましては、
 どのようなメッセージングを行ったらよいかは、タスクや本人の習熟度など、状況による
 どのようなメッセージングを行ったらよいかに関しては、さまざまな結果がでており、決定的に支持する科学的証拠はない
 
 というのが定説なのかなと思います。
 フィードバック研究と申しますと、よく「否定的フィードバック」がよい、いやいや「肯定的フィードバック」がよい、という研究がなされるのですが、少なくとも今回読んだレビュー論文等では、決定的証拠と考えられるものはありません。両者それぞれを支持する膨大な論文が併置しているというのが現状です。
(一般的状況で安定した結論が得られないのなら、特定場面を想定してフィードバック研究をなすこともできます。これは研究会参加なさっていたMさんが提案していたことです。そのとおりだと感じました)
 ワンセンテンスで申し上げますと、
 否定的なフィードバックがよいのか
 肯定的なフィードバックがよいのかは
 時と場合による
 Thats’ all
 です。
 このことは、田中聡さんを中心とした中原研の有志グループが某社の多大なる御協力で行わせていただいているデータでも支持する結論がでています。
 要するに、どんな言い方をしようが、パフォーマンスを通告するときは、ショックはショックなのです。
 昨日読んだ論文では(この論文は極めて引用回数の多いものです)、むしろ、
 Disるな
 ほめるな
 
 とすらありました(論文にdisるなとあったわけではありませんよ・・・)。
 なぜなら、そのようなフィードバックを行ってしまいますと、感情に焦点があわされ、タスクに注意資源が向かないからです。
 ここからは個人的な意見ですが、おそらくこのような現状下において為しうることは、あたかも「鏡」のように結果をそのまま忠実にかえす知的態度でしょう・・・時にスイートに、ときにスパイシーに。
 むしろ、わたしたちは、
 「魔法」のように効くフィードバックのかえしかたが、どこかにあるのではないか
 と考えるパラダイムから「抜け出さなくてはならない」のではないかとすら思います。
 先ほど述べましたが、僕は「学習」という観点から「企業・組織のひとにまつわる問題」を研究してますので、注目していきたいのは2です。
 要するに、
 
 いかに立て直すか?
 いかに学び直してもらうか?
 それに対して
 いかに伴走するのか?
 に焦点をあてるということです。
 そう考えるのならば、
 フィードバックとは「立て直すための対話」と考えられるのではないでしょうか。
 冒頭、
 フィードバックとは、「ほらよ、と結果を通知すること」とか「傷口に塩を塗り込むこと」だと思っている方がいらっしゃるんですよね・・・
 と書きましたが、これは、昨日の研究会で、ある方がもらした一言であり、同様の物言いを、僕もこれまで多くの方々からうかがってきました。
 おそらく、今後必要なことは、この支配的なこの見方をかえていくことでしょう。
 場合によってはフィードバックという言葉を再定義するか、ないしは、フィードバックという概念にかわる「何か」を自らつくりだすことが求められるのかもしれません。そう考えると、なんだか楽しくなってきました。
 最後になりますが、主催者のみなさま、ご参加いただいたみなさまに、この場を借りて感謝をいたします。ありがとうございました。
 そして人生はつづく

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