NAKAHARA-LAB.net

2015.10.15 07:04/ Jun

この世には「やりっぱなしの組織調査」があふれている!?:現場に1ミリの変革も生み出さない「残念な組織開発」

 冬学期の大学院・中原ゼミでは、組織開発の文献を読んでいます。「Dialogic Organization Development(対話型組織開発)」という本で、Busheさん(ブッシュさん)と Marshak(マーシャクさん)らが編集してます。冒頭には、Edgar H. Schein(エドガーシャインさん)が序文を寄せています。
  
 組織開発については、このブログでも何度か書いておりますが(下の参考記事をご覧下さい)、専門家に「便所スリッパ」で「カンチョー」されることを覚悟してワンセンテンスで申し上げますと、
  
 人を集めてもテンデバラバラで、まとまりがもてず、成果がだせない場合に、
 あの手この手をつかって、組織やチームを何とか「Work」させようとする働きかけ
 のこと

 をいいます。
  
 「人が集まっだけのテンデンバラバラ状態」から
   1.目標をちゃんとにぎり
   2.忌憚のないやりとりができるようにして
   3.お互いに配慮しながら動き出せること
  
 すなわち「組織として体をなしている状態」への移行こそが、組織開発の眼目です。そのために、実践者は「あの手、この手」を使います。
  
 その手法、含意はめちゃくちゃ広く、また人材開発とも重なり合っていますので、ここでは専門的な議論をしません。下記に、中原のプチ小論がございますので、HRDとODの違いについては、下記をご覧下さいませ。プチだかんね、プチ。
日本労働研究雑誌
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2015/04/index.html
 
 この本では、組織開発を「診断型の組織開発」と「対話型の組織開発」にわけて、両者のその哲学的前提、理論、実践を述べています。診断型の組織開発と、対話型の組織開発の違いに関しては、ダブルカンチョーを覚悟して下記に申し上げますと、

「診断型組織開発」とは、

「質問紙調査やヒアリングなどの手法によって、外部の専門家が、現場を見える化して、そこで出てきた現実を、現場の 人々に解釈・吟味してもらい、同じテーブルに全員つかせて、これからの組織のあり方を対話し、自ら決めてもらうこと」
 
 です。
  
 一方、「対話型組織開発」とは
  
「テンデバラバラの組織の当事者たちに、まず同じテーブルに集まって、組織のことをテーマにした対話を繰り返し行っていくことで、今までの組織のあり方をリフレクションしつつ、未来を議論し、決めてもらうこと」
  
 です。

 このあたり、かなりわかりにくいかもしれません。診断型組織開発と対話型組織開発では「組織をどう見立てるのか?」「現実とはどのようなものなのか?」ということに関する哲学的前提がまったく異なるのですが、それがわからないと、ふたつは同じものに見えるかもしれません。「結局、組織メンバーで対話して、決めるのかな」と。
  
  ▼
   
 ところで、先日の大学院ゼミでは、いわゆる診断型の組織開発についての議論になりました。何が議論になったかと申しますと、
  
 この世には、「やりっぱなしの組織調査」があふれている
 
 いいかえれば
 
 「現場に1ミリの変革も生み出さない残念な組織開発」にあふれている
 
 ということですね。
   
 たとえば、この世では、少なくない組織で、従業員調査(ES調査)や、職場診断調査などが多大なるコストをかけて、実施されています。これらは、その後の使われ方によっては、診断型の組織開発の手段として用いることができます。
  
 しかし、実際は、調査は為されるだけで、かえらない場合もある。
 また、結果は返しているものの、きちんと改善計画にまで落とし込めない場合もある。
 本来変わらなければならない現場を率いるリーダーやマネジャーにも、結果が示されるだけで、そのまま無視されることも少なくないようです。
  
 その背景には、
 
 大の大人なんだから、スパイシーな結果を示せば、気づくだろうよ
 気づけば、反省するだろう
 反省すれば、変わるだろう
  
 という悪魔の三段論法が存在しているような気が致します。
  
 しかし、実際の現実はそうなりません。
  
 大の大人だからこそ、スパイシーな結果を示しても、他人のせいにしたり
 たとえ気づいても、気づかなかったふりをする
 一瞬反省したとしても、すぐに忘れる
 
 のです。 
  
 せっかく多大なるコストを支払って、さまざまな調査をしているのに、残念なことです。せっかくやるのであれば、ぜひ、現場の改善やアクションにつなげていきたいものですね。
  
 そう考えますと、
 現場での調査は「いかに調査自体をなすか」よりも
 「いかにフィードバックするか」を考えることの方が重要なのかもしれません
  
 大学院ゼミで大学院生達と議論をしつつ、僕はそんなことを考えていました。「Dialogic Organization Development」は、まだまだこれから章がつづきます。なかなか楽しみであります。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
 
■参考文献
4つの異なる「組織開発」:人を集めても、なかなか”組織”としてまとまらない社会に生まれたもの
http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/06/post_1786.html
組織開発(Organizational Development)を下支えする理論と価値観
http://www.nakahara-lab.net/2013/10/organizational_development.html
組織開発・人材開発の専門知識をどこで学ぶのか?
http://www.nakahara-lab.net/2014/02/post_2179.html
対話型組織開発「アプリシエイシブ・インクワイアリー」とは「逆N字型」の実践である!? : 過去から未来、そして「エグイゾーン」へ!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2014/12/_case_western_reserve_universi.html
「組織を変える」とは「ねちょねちょ小宇宙」の中でもがき続けること!?:「流れる水」と「燃え続ける火」を見つめながら!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/02/

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