NAKAHARA-LAB.net

2015.9.30 06:17/ Jun

「他人の経験談から学ぶとき」に気をつけておきたい3つのポイント:「自慢話にしか聞こえない経験談」を避けるためには!?

 もし、人が、「自分が経験した出来事」からしか学べないのだとしたら、これほど「非効率」なことはありません。「ひとりの人」が経験できる範囲や種類など、かなり「限界」がありますし、経験することにも「実時間」がかかります。
  また、先だってお話しましたように、経験とは「賭け」でもあります。未知数の事柄に、自己を投企せざるを得ないものが「経験」なのだとしたら、そこには一定のリスクが生じます。このように「自己に限定された経験学習」には「限界」があります。
「経験から学ぶ」とは「賭け」のようなものである!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/09/post_2477.html
 さて次に話をすすめて「自分が経験したこと」以上のことを学ぼうということになるのだとすると、次に有望なリソース(認知的資源)は、「他人の経験」ということになります。
 この場合、他人が経験している様子を直接知覚するというのが、もっともシンプルな方法ですが、事後的にでも、「他人の経験」から学ぶことができます。そのひとつの手法が「他者の経験談から学ぶ」ということでしょう。
 しかし、この「他人の経験談」というのが、なかなか厄介な「曲者」です。他人は必死で経験談を語ってくれているのだけれども、その経験談からは、なぜだか学べない、あるいは、全然、刺さってこない、ということが、日本全国各所で見受けられるような気がするのは気のせいでしょうか。
 朝は時間が無いのでエイヤッと括りますが、「他人の経験談」には、典型的には3つの問題が生じることが多いと思います。よって、「他人の経験談から学べない」という事態が生まれやすいのです。それは何か。下記に列挙してみると、この3つです。
 1.プロセスが見えない
 2.教訓が見えない
 3.自慢にしか聞こえない
「1.プロセスが見えない」とは、他人は熱心に経験を語ってくれるのだけれども、聞き手には、その光景が浮かび上がらない状況をいいます。ワンセンテンスで申し上げますと、「どんな経験をしたのか、ピンとこない」。それなのに「他人が自分の経験から抽出した教訓」だけを押しつけられる。そんなイメージでしょうか。
 要するに、「どのような出来事が起きて、なぜ、そのような判断をして、どうしてその教訓が得られたのか」がわからないということです。
 これを防止するためには、経験談を語る前に、自分が語るべき出来事をつまびらかに、5W1Hを明確にして、具体的に具体的に想起しておくことが必要です。その出来事について「何にも知らない人」が、あたかも、「その場にいあわせたか」のように「映画の脚本」をつくるイメージで、経験を整理し、順序だって語ることが重要です。
 人は以外に、意外に、自分が経験した出来事については覚えていないものです。そういうとき、人は「話をはしょってしまいがち」なのです。そうすると、経験談の中でもっとも重要な「プロセス」が不可視化します。
「2.教訓が見えない」というのは、「他人が自分の経験をしたことで得られた教訓が刺さっていない」ということですね。1とは逆に、プロセスや出来事については、よくわかったのだけれども、結局、何が言いたいかわからない。ワンセンテンスで申し上げますと、
「So What?(だから、で、何?)」
 ということになるのでしょう。自分が経験談を語る際には、1に加えて、2の「オチ」も整理しておくとよいのではないかと思います。「オチ」が見えないということは、経験を語る側についても、自分の経験について「整理」がついていない、ということです。だから、経験学習をしているかどうかは、経験談を語らせることで、ある程度はわかってしまうものです。
「3.自慢にしか聞こえない」というのは、認知的というよりも、精神的な問題ですね(笑)。高らかに経験談を語ってくれたのはいいんだけど、結局言いたいことがわからず、他者が
 オレ、すげーだろ
 オレの過去、いかしてるだろ?
 オレ、今も、イケてるだろ?
 を主張する場になってしまった、ということです。要するに「自慢話」にしか聞こえないということですね(笑)。なぜ、こうした「オレオレの押し売り」になってしまうかというと、ひとつは
「経験談が他者に開かれていない」
 からです。
 つまり、経験談を聴くだけきいて、それで終わり、というような場になってしまうということですね。これを避けるための方法は、むしろ経験談を「素材」として「議論」をしたり、「質疑」を活発にしたりするなどのインタラクションを、盛り込むことではないかと思います。
 たとえば、仮に今、30分があったとします。そうであるなら、経験談は5分でもいいくらいです。残りの25分はインタラクションにあてるくらいが重要かと思います。
 大切なことは、他者の経験談の中から「聞き手が知りたいこと」についてより深い理解につながる話しあいができるか、どうかということです。こうして考えてみると、30分のうちの5分ですから、経験談は「学びの呼び水」くらいに考えておくとよいのかもしれませんね。
  ▼
 今日は「他者の経験談から学ぶためには何が必要か」について3つ書きました。3つともによく陥りがちなことですが、特に3つめは重要だと個人的には思います。
 なぜなら、経験談はともすれば、「絶対化」しやすいものだからです。今、ここに経験を語ってくれる人がいて、それを聴いていたあなたは、その人の「経験そのもの」を批判したりすることは難しいでしょう。
 これを避けるために、経験そのものから「経験から得られた教訓」をいったん切り離し、後者に関して、「今、自分たちが何をなすべきか」について話し合う時間をもつことだと思っています。
 さ、もう6時を過ぎました。
 そろそろ時間です。
 あなたが、今日もたくさんの経験に開かれておりますように
 そして人生はつづく

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