NAKAHARA-LAB.net

2015.9.14 06:19/ Jun

最近、あなたの仕事は「コタツ化」していませんか?:効率追求の果てに失われる「現場情報」とは?

「コタツ記事」という言葉があるそうですね。「話題が話題」なのでお名前をだすことは差し控えさせていただきますが、あるメディア関係の方から伺いました。いつも示唆に富むお話をありがとうございます。
 コタツ記事とは、「記事であるのにもかかわらず、まったく一次情報の取材を含まない記事」のことをいうそうです。とりわけ、ウェブの世界では、そうした記事の流通量が、年々、増えているのだとか。メディアは専門外なので、僕は詳細な情報をもちあわせていませんが、先日うかがったお話は、そのような話でした。
 曰く、ウェブの世界は、情報の消費スピードがとにかく速い。サイトを運営していくためには、PV(ページビュー:要するにアクセス数)があがるものを、ただちに大量に仕入れて、ただちに配信していく必要がある。とにかく量が必要であり、それを揃える必要がある。そこで犠牲になるのが「一次情報の収集」や「現場で話をうかがうこと」です。
 といいますのは「一次情報の収集」や「現場でのヒアリング」は時間的にも金銭的にも「コストが高い」のです。だから「しない」。むしろ、書斎で、コタツに足をつっこみながら、国内サイト、海外サイトの関連する記事をいくつか読んで、それらを「まとめて」記事をつくる。そうして合成されつくられる記事が、増えているのだそうです。
 しろうと目には、著作権法的にはどうなのかな、とも思うのですが、文章そのものを拝借しない方法をとり、たくみに切り抜けるのでしょう。専門外なので詳しいことは知りません。
 中には、アクセス数を獲得できる、エロ・グロ系のいくつかの文言を組み合わせ、「タイトルリストをつくること」から取り組むということも行われるそうです。記事は「まだない」のにもかかわらず、耳目を集める「タイトルリスト」は存在している。
 そのうえで、各タイトルに対して、それにヒットしそうな既存の記事をいくつか組み合わせて、記事をつくるというのだそうです。もし、こうした記事産出プロセスが、本当だとしたならば、その「徹底ぶり」はすごいなと思います。さしずめ「記事の工場」ですね。
 興味深いのは、そうしたプロセスをへてつくられる記事のアクセス数は、結論から申し上げますと、やっかいなことに「成績がよい」のだそうです。
 ウェブの世界では、丁寧な取材やヒアリングをへてつくられる記事と、いわゆるコタツ記事は、タイトルリストにおいては「フラット」です。ですので、どうしても、アクセス数を獲得できる記事のタイトルが、注目され、クリック数を伸ばすということになりがちなのだそうです。
 しかし、一方、コタツ記事にも「リスクはあるんだろうな」という気がします。
 これは専門外の僕の私見ですが、こうしたやり方は、短期的には奏功するのかもしれませんが、中長期的にはサスティナブルなモデルなのかと疑問をもちます。なぜなら、人はそうした記事、ないしは記事が羅列されるプラットフォームに「飽きる」のではないかという仮説が成立するからです。
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 のようなどこにでもある、しかも、新規の取材をいっさい含まない記事を、複数回読んで、書いてあることがほぼ同じである場合、人は、そうしたサイトを中長期に利用しようとするのでしょうか。
 短期的には、興味本位でそれらをクリックするのかもしれませんが、中長期的にはどうなのかな、という思いをもちます。
 起こりえるのは、
 コタツ記事が氾濫する言説空間そのものへの「飽き」
 ではないかと懸念したりもします。
 加えて、コタツ記事を簡単に集めて配信するだけで、アクセス数が確保できるサイトを、てっとり早くつくることができるのならば、その「模倣可能性」は、高いことも容易に想像できます。
 そうであるとすると、起こりえるのは、
 コタツ記事を羅列するプラットフォームそのものの「増殖」と「プラットフォーム間の競争激化」
 であるような気もします。
 かくして「コタツ記事」のプラットフォームは、次第に苦境にたたされることもでてきます。ということは、コタツ記事を産出する担い手にとっても、あまりよいニュースは浮かびません。ペイの切り詰め、〆切の短期化など、労働条件の悪化を招かないとよいなと懸念します。そうならないとよいのですが。
  ▼
 今日は月曜日。
 週の頭から、なかなかヘビーな話題でした。専門外なので、詳細を間違っているところもあるかもしれませんが、どうかお許しください。
 
 速度と効率が求められる世界で、もっとも一番最初に失われるのは「現場」であり、「一次情報」です。かくして「コタツ化」が進行します。
 今日の話題はメディアに関することですが、「コタツ化」は、さまざまな仕事に起こりえることなのかな、と思います。自戒をこめて申し上げます。
 たとえば「人材開発」だって「コタツ化」しうると思いますし、もちろん、「研究」だってそうです。「コタツ人材開発」とか「コタツ研究」というものがあったとしたら、なかなかシリアスだなという思いを持ちました。自戒をふたたびこめて申し上げます。
 ところで、あなたの仕事、コタツ化してませんか?
 そして人生はつづく

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