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2015.6.15 05:46/ Jun

人材開発の仕事は「課題発見8割」である!?

 人材開発の仕事は「課題発見8割」である
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 今期の大学院の授業では「Foundations of Human Resource Development」という、人材開発(HRD)の教科書のような本を輪読しています。

 購読文献の選定にあたっては「Handbook of Human Resource Development」という論文集とどちらにしようか少し悩みましたが、こちらの論文集の方は、OBの関根さんが自主勉強会で取り上げて下さったので、敢えて、前者の教科書の方にさせていただきました(感謝です!)。

 前者の方、理論部の記述にもう少し丁寧さと整理が必要かとは個人的には思いますが(扱われている対象領域が3つと限られていることとシステム論の記述は少し粗いと思います)、まぁ、理論部分から実践まで幅広くカバーされているので、「大学院レベルの初学者」が数多く受講してくる授業としては、適していたのかなと思っています。
 
 そして、この本を読んでいて、いつも思うのが、上記の命題、
 人材開発の仕事は「課題発見8割」である
 です。
 もちろん、本の中に、この命題がそのまま登場してくるわけではありません。が、本の中で繰り返し述べられるのは、人材開発の「解決策」ではなく、人材開発上、何を「課題」とするのか、という点から、授業をしながら、ついつい、このことを考えてしまいます。
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 ワンセンテンスで述べますと、他の仕事同様、人材開発の仕事もやはり「課題解決」そのものである、ということです。
 
 要するに、その仕事の骨格は、
 問題1.解決して意味のある「課題」を自ら設定せよ
 問題2.問題1を「解決」せよ
 で表象されるということですね。
 もう少し詳細に記述するのだとするならば、
問題1.解決して(組織にとって)意味があり(成果を残すことのできる)(人材開発上の)「課題」を、自ら設定して(組織内の合意をとりりつけよ)
問題2.問題1(で設定した人材開発上の課題)を(社内外のリソース・打ち手を活用しながら)「解決」して、(評価せよ)
 ということになります。ここで重要なのは、言うまでもなく前者の「問題1」です。なぜなら、ここで「課題の設定」が適切に行われていなければ、「問題2」において、いかにソフィスティケートされたリソースや打ち手を活用できたとしても、組織に成果を残すことはできないからです。
 まして、学校教育ではございませんので、「問題1」が、「学習指導要領という枠」の中から、「誰か」が与えてくれることはまずないですよ。あくまで課題は自ら設定しなければならないことの方がほとんどです。そして、そのとき、
 世の中では、
「解決してもさして重要ではない課題」を「どんなに魅力的な打ち手」で解決しても、評価されることはありません。
 世の中で「よくやったね」と言われるのは、
「解決してみなが重要だと思う課題」を「シンプルな打ち手」で解決して、その仕事の成果を「アカウント」できたとき
 です。
 しかし、人材開発の世界で「最も危険」なのは、この部分です。ともすれば、その仕事が「課題解決」であることを忘れ、「魅力的な打ち手の選定・展開・実施」こそに「仕事の本質が宿る」と思ってしまうことです。
 とくに危険なのは「打ち手の魅力」にはまってしまい、
 とにかく流行している「ちょめちょめ」を実施してしまう
 他社で実施されている「ほげほげ」を選んでしまう
 本で読んだ「ちょめちょめ」を自分でもやってみたくて仕方がなくなる
 ということです。要するに「課題の分析」をついついそっちのけにしてしまい、「打ち手」の考察に耽溺してしまいがちであるということです。
 ちなみに、大学院で読んでいる基本書では、これとは「逆の構造」になっています。ページ数の大部分のうち多くは「人材開発の仕事とは何か?」「人材開発の仕事は何を解決するのか?」「人材開発の仕事は何を課題とみなしうるのか?」に咲かれており、「打ち手」の紹介の部分は「サラリ」としています。章にしても数章。
 人材開発の仕事は「課題発見8割」
 とは、そういう意味です。
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 今日は、週のしょっぱなから、人材開発の仕事の本質について考えてみました。なんか、このように書いてしまうと、たいそうなことのように思えてしまいますけど、そんなことは一切ありません。
 人材開発とは「課題発見8割」である
 とは、要するに、
 人材開発で大切なことは「他の仕事の勘所」とさして変わらないよ
 と言っているのですから(笑)。
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 来期のゼミでは、少し趣をかえて、組織開発の基本書を読んでみようと思っています。「Dialogic Organization Development」というよさげな本を見つけてしまいました。今度は、いつか「組織開発の仕事の要諦」についても、このブログで書いてみたいと思います。

 そして人生は続く
 

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