NAKAHARA-LAB.net

2015.4.15 05:43/ Jun

【シェア・いいね・RT拡散御願いします!】「ベテラン一斉退職」と「若手大量採用」時代をどのように乗り切るか?: 「教師の学びを科学する:データから見える若手の育成と熟達のモデル」(北大路書房)の予約販売が始まりました!

 これまで5年以上にわたって一緒に共同研究を進めてきた脇本健弘さん(中原研OB)と町支大祐さん(勝野研究室OB)が、彼らの処女作ともいうべき書籍「教師の学びを科学する:データから見える若手の育成と熟達のモデル」(北大路書房)を編みました。
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 こちら刊行は4月末(4月28日を予定)発売ですが、すでにAMAZONでの先行予約販売がはじまりましたので、お知らせさせて頂きます!もしご興味がおありな方がいらっしゃったら、ぜひ手にとっていただけるとうれしいことです。

  ▼
 本書のきっかけになったのは、横浜市教育委員会と東京大学・中原淳研究室が2011年から2013年の3年間にわたって行った「教職員の育成に関する共同研究」です。
 この共同研究では、
(1)経験の浅い教員、初任教員の育成実態等を量的調査・ヒアリング等によって把握すること、さらには様々な調査を重ねながらデータを蓄積し、これらのデータを踏まえたうえで教育委員会のご担当者の方々と大学関係者が議論をつくし、
 実際に
(2)各種の教員研修、フォーラムなどを実施することなどを目的としてきました。
 単に調査をするだけではない。現場の先生方向けに、「調査をもとにしたフォーラム(ワークショップ)」、いわゆる「サーベイフィードバック型の教員研修」を企画・実施してきたことは、これまでにもブログでもご紹介させていただいたことがございます。
サーベイフィードバックと対話による「教員研修」!? : 地方に広がる「若手教員の大量採用」にどうそなえるか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/01/post_2346.html

数字を「お返し」し、物語を「紡ぐ」10年経験者研修

http://www.nakahara-lab.net/blog/2014/07/1011410_123510n500100010_10_10.html
「他人の育成」を手がけることで「自分の能力」を伸ばすこと
http://www.nakahara-lab.net/2014/01/post_2165.html
 本試みは、実態調査をはじめとする「研究」と、研修やフォーラムの開発・デリバーという「実践」、その両者をあわせもち、循環を成すことを企図したアクションリサーチ的なプロジェクトでした。
 現在、中原研究室のプロジェクトは、ほぼ99%、企業を対象にしたアクションリサーチで、かつ、今後もそれが継続すると思いますが、こちらは、僕が、この10年で唯一かかわらせてもらった教育現場のプロジェクトになりました。
 その理由は、横浜市教育委員会が、メンタリングという施策を通じて若手教員育成を行うことにかなり前から取り組んでおり、それが僕の従来からの主張である「職場の”面”(人的ネットワーク)による育成」という内容と合致していたからです。
 今から5年ほど前、僕の「職場学習論」(東京大学出版会)をお読みになった、ある心ある首席指導主事の先生が、研究室をおとずれ、一緒によきことをなしましょう、とお声がけいただきました。
 これをきっかけにして、志ある事務官の方や教育委員会の先生方が、ひとつひとつハードルを乗り越え、数年にわたる共同研究をなせたことが、本書誕生のきっかけになります。この場を借りて心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
   ▼
 本書では、メンタリング、経験学習、リーダーシップ経験、大学からのトランジションまで、最新の人材開発の概念で、教師の育成を、お二人が論じています。
 本書は、いわゆる「教師教育」を論じている本ではありませんが、人的資源開発論、経営学習論の観点から見れば、教員の育成は、このように語り得るのだと思います。
第1章 教師をめぐる今日の状況――社会背景
第2章 これまでの教師研究――本書の理論的位置づけ
第3章 調査概要――本書で用いるデータ
第4章 教師は経験からどのように学ぶのか――教師の経験学習
第5章 教師の成長を促す大学時代の経験――大学からのトランジション
第6章 学校への新規参入と適応――組織社会化
第7章 若手教師が抱える困難――参入時の困難経験
第8章 初めての異動――初任校から2校目への環境変化
第9章 若手教師としてリーダーを務めること――リーダー経験
第10章 学校内における組織的なメンタリング――メンターチーム
第11章 若手教師への効果的な支援――メンターチームの手法
第12章 管理職のメンターチームへの関わり――メンターチームと管理職
第13章 メンティからメンターへの移行――メンタリング行為の連続性
第14章 総 括――若手教師の成長と育成
第15章 教員研修の変革――サーベイフィードバックの応用
第16章 これからの教師教育研究――学校現場・教育委員会・大学の三者間連携
 本書の帯には、無藤隆先生より、ご推薦のお言葉もいただいております。
◆白梅学園大学 教授 無藤 隆 氏 推薦!
若手教師の育成をメンターチームにより進める。
著者たちの実証調査と研修の組織化が横浜の学校を変える。
 本当にありがとうございます。

   ▼
 書籍内部では、経験の浅い教師が、学校で仕事をはじめた場合、どのような問題を抱え、それがどのような人々の支援によって克服されているのかを分析する章があったり、教師の経験学習をめぐる考察をすすめている章があります。基本的には、量的・質的ふくめて、すべての論拠になっているのは、横浜市の学校教育現場の実証データです。
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 メンタリングをどのように運営していけばいいのかについては、横浜市は、伝統的に、メンターチーム(経験の浅い教員を、10年未満の教員がチームとして支える仕組み)をとってきました。このたびの共同研究では、これの運営方法についても、ゴリゴリと実証的に明らかにしています。
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とくに、「かつてメンター役をつとめた人」が、数年後、いかに「メンターになってもらうか」ーすなわち、メンタリングの世代継承性は、この種の育成にとって重要なことです。それに関しても考察をすすめています。この得体の知れない図をみてもわかんないとは思いますが、詳細は本書にて(笑)
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 僕は、横浜市の10年次教員研修の研修講師を担当させていただいておりましたので、そちらの研修について書かせてもらっています。
 横浜市全市の小学校、中学校、高校の500名の先生方に対して、いかに3時間で、対話型かつワークショップ型の研修をなすか。しかも、横浜市の現状をいかに理解してもらい、ミドルリーダーとしてよきことを為してもらうのか。その様子を書かせていただきました。
 今だから語れますが、一番最初に登壇したときは、これまで最もハードルの高い挑戦でした。これまで、いろんな組織の、いろんな考えをお持ちの!ビジネスパーソンや管理職の方々に研修をしたり、一緒に共同研究をしてきましたが、それにも引けをとらない、否、それにも勝る「味わい深い現場」でした(笑)。10年次研修、副校長研修、校長研修など、いろいろさせていただきましたが、いずれも今となってはよい思い出です。
 数年をかけて、こちらの研修はカスタマイズし、現在は、ほぼ脇本さん、町支さんらがメイン部分を担当して下さっています。
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   ▼
 既述いたしましたように、このプロジェクトには、僕のほか、僕の元指導大学院学生である脇本さん、指導教員の勝野正章先生のご理解と御協力によって本プロジェクトに参加した教育学研究科の町支さんらの大学院学生(当時)にも、当初より、参加して頂きました。
 勝野先生には、日本教育経営学会の大会企画委員でもお世話になっておりますが、本プロジェクトへの町支さんのご参加をお認め下さったことを心より感謝いたします。ありがとうございました。
 脇本健弘さんのブログ
 http://www.wakimoto-lab.net/blogs/
 町支大祐さんのWebページ
 https://cdai80.wordpress.com/
 役割分担としては、研究の総括と調査等の指導、さらには研修講師の役割を僕が行い、調査設計、分析、ヒアリングなどは、本書の著者である脇本、町支が行うことになりました。
 途中、同じ教育学研究科の讃井康智さんが加わることもありましたが、基本的には脇本さん、町支さんが研究の実を担当したということになります。
 このたび、両名が本書を著者として執筆するにあたり、このような経緯から僕は監修者の役割をお引き受けすることにいたしました。二人の執筆原稿を時折拝読させてもらいながら(矢のような強烈な催促)、よりよい原稿となるよう助言(激烈指導?)をしてきました。僕個人としては15章、さきほどの研修章を執筆しています。
  ▼
 最後になりますが、諸事情によりお名前を全員ここであげさせていただくことはできないものの、過去5年間ほどにわたって伴走してくださった横浜市教育委員会の皆様に、この場を借りて、厚く御礼を申し上げます。
 本来ならば、この間によくしてくださった指導主事の先生、現在は校長先生になられておられる先生方、そして事務手続きに奔走してくれた心ある事務官の皆様に、おひとりおひとりに御礼を申し上げたいのですが、まずは略儀ながら、この場にて感謝をいたします。本当にありがとうございました。
 また、若い二人に執筆の機会を与えて下さった北大路書房の奥野浩之さん、安井理紗さんにも心より御礼を申し上げます。丁寧な編集と、プロモーション企画をありがとうございました。
 本書は、両名の若く志ある研究者がはじめて舵をとり、いわば「処女航海」を為す一冊です。本書が、横浜市を含むすべての教育現場の活性化に少しでも役立つとしたら、監修者、またプロジェクトの統括責任者として、非常に嬉しく思います。
  ▼
 横浜市は、日本有数での大都市であり、また「課題先進地」です。
 誰もが通ったことのある「身近な組織」で、かつ、日本の社会を下支えしている組織ー学校は、いま、大量退職と若手の大量採用で、「教員育成のバランス」がとりにくくなっています。
 たとえば横浜市の小学校の場合は、「経験10年未満のメンバーが56%を超える状況」になっておりますが、これは、課題先進地である横浜市だからこそ、「今」、まさに「問題が顕在化」しているのです。
 これが、これから10年立たないうちに、全国の諸地方に広がっていきます。
 そうです、人口動態に関することは、おおよそ、予想がつくのです。これから全国の地方都市からはじまり、さらには地方の諸地域まで、ベテランの一斉退職と若手の大量採用というかたちで「教員の入れ替わり」がはじまっていきます。
 もちろん、教育のノウハウの世代伝承の危機でもありますが、我が国の教育が生まれ変わるチャンスと考えることもできます。
 これから10年、「これまで横浜が直面してきた課題」は、「みんなの課題」になります。本書がメインターゲットにした課題は、この「みんなの課題」です。
 本書の記述や分析は、荒削りなところが多々あるので、いろいろ、専門家の方々から、やいのやいの、言われるんでしょう。至らぬところもたくさんあると思います。なにせ、監修者が「学校現場」の研究をしてないんだから(笑)。
 でも、ときおり、学校の現場を「外」から垣間見させてもらって、「これって外から見ると、こんな強みがあるんだけどな」と思うことも多々あります。人材開発研究という観点からみた場合、教師の育成の問題はどのように見えるのか。ぜひ、そのあたりを感じて頂ければなと思います。
 でも、なんらかのアウトプットに対して、何の議論も生まれないよりは、議論が生まれた方がよっぽどよいですね。本書が、この問題に関する多くの教育関係者の議論のきっかけになることを願います。そして、どうぞ、本書を「上書き保存」していただける知見が生まれることを願っています。
 
 そして人生は続く

  
  ーーー
追伸.
 ここ1年くらいにかけて、自分が指導した大学院生が、就職し、本を編んだりしはじめる時期を迎えています。これまでにも研究室で取り組む研究はまとめてきましたが、なんか不思議な気分です(笑)。いや、ほんとに(笑)。
 お次は、舘野さん(中原研OB)が中心になって編んでいる「トランジション本」でしょうか。こちらは「活躍する組織人の探究」(東京大学出版会)の続編になるプロジェクトを、研究室有志で実施しており、今年度中に心ある出版社から出版される予定です。こちらも、サーベイ+ワークショップ開発の合わせ技バーンですね(笑)。
 人的資源開発、経営学習論のよいところを抜き出し(悪いところは乗り越え)、そのエッセンスを、それぞれの研究領域で、発揮してくれたとしたら、これ以上、うれしいことはないですね。Keep on great work!

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