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2015.3.9 06:43/ Jun

プレゼンは「コンテンツが7割、デリバー3割」!?:「薄っ、これ水じゃねーの的ワイン」を「白紙コップ」で飲む経験!?

 週明け早々、まことに恐縮ですが、
 プレゼンは「コンテンツが7割、デリバー3割」
 だと僕は思います。
 ここで「コンテンツ」とは「伝えたい中身(contents)がどの程度、練られているか」ということ。
 そして「デリバー」とは、「中身をどのように伝え、聴衆にお届け(deliver)するのか」ということです。
 
 具体的には、前者「コンテンツ」とは
 ・伝えたい概念を、どの程度、焦点化しているか?
 ・伝えたい概念間の関係が、どの程度、明瞭か?
 ・伝えたい内容が、ストーリーになっているか?
 
 ということでしょう。
 留意したいことは、ワンセンテンスでいうと、
 コンテンツが、いかに明瞭に絞られているか、
 いかにつながっているか?
 
 です。
 一方、後者「デリバー」とは、具体的には、
 ・提示資料自体がよくデザインされているか?
 ・ジェスチャーなどを効果的に用いられているか?
 ・声やアイコンタクトなどを行っているか?
 といったことがありうるでしょう。
 こちらもワンセンテンスで述べるならば、
 デリバーとは、いかに魅せるか?
 
 ということになるのでしょう。
  ▼
 「コンテンツ」と「デリバー」。
 誤解を避けるために申し上げますが、それらは「両者どちらも大切」です。どっちが必要で、どっちが要らないというわけではありません。割合の差はあれど、それらはどちらも必要なのです。
 コンテンツとデリバーの関係は、よく「食べ物」と「器」の関係に喩えられますね。先だって読んだ田口力さんの著書「世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本 」には「ワインの喩え」がございましたので、ここで引用・紹介させていただきます。
 たとえば、今、ここに、とても「濃厚で美味しいワイン」があるとします。
 何でもいいですが、僕は、よくワインは詳しくないので、オーパスワン(カリフォルニアの美味しいワインですね)とかを思い浮かべましょうか? 数年前、米国・カリフォルニアに留学していたS先生がお土産に購入してきてくれたものです。
 
 いうてみれば「コンテンツ」とは「ワイン」そのものです。オーパスワンのように、1本で数万円の価値があるワインがある一方で、一本300円くらいの、「薄っ!、これ水じゃねーの的なワイン」も、スーパーマーケットには売っています。
 一方、デリバーとは「ワインを飲むグラス」です。
 グラスには、リーデル社のつくるような精巧なガラス細工のワイングラスがあります。これが「よいデリバー」です。一方、とんでもないデリバとしては、「白い紙コップ」があるとします。
 今、この関係を図にしてみますと、「ワインを飲む=プレゼンを聞く」という関係は、下記のような図になります。この4つの場合、皆さんだったら、どんなコンテンツ(ワイン)を、どのようなデリバー(器)で試してみたいですか?
2015-03-09_0643wine.png
 僕なら、1>3>2>4ですね。コンテンツが7割、デリバー3割に表されるとおり、やっぱり中身が大切に思います。たとえ紙コップでも、オーパスワンは飲んでみたい(笑)逆に、「薄っ!、これ水じゃねーの的なワイン」を「白紙コップ」で飲むのは、どうにも簡便してほしいですね。
 さて、皆さんの順番はいかがですか?
  ▼
 
 しかし、ともすれば、世間では、プレゼンと申しますと、「コンテンツ」は「所与」にして、後者の「デリバー」ばかりに注目が集まります。
 たとえば、先だって、ソーシャルメディア上で話題になった下記の映像は、それを暗に揶揄するものでしょう。この映像は、伝えたい中身は何にもなくても、話者がTED風のしゃべり方をすることによって、それらしく魅力的なものがつくられる、ということです。


 しかし、あたりまえなのですが、大切なのは、中身をいかに精選し、いかに構造化することです。特に特に、最も注意したいことは、「捨てること=焦点をしぼること」です。
 私たちは、ともすれば、「相手に伝えるためには、多くを語らなければならない」という「幻想」に支配されがちです。しかし、事実は、逆であることの方が多いものです。
 むしろ、
 「相手に伝えるためには、最も大切なことを残して、多くを捨てなければならない」
 のです。そのためには、自分の伝えるコンテンツに対して、100%、120%以上の理解をしておかなくてはなりません。十分に十分にコンテンツを理解したうえで、涙をのんで、枝葉を「捨てること」が求められます。
「プレゼン作りとは、盛り込むことではありません」
 むしろ
「プレゼンづくりとは、減らすこと」です。
 
 プレゼン経験の出来不出来を左右するコンテンツの7割を支配する、もっとも重要な要素は「減らすこと」です。
  ▼
 さて今日は、プレゼンについて、「コンテンツ」と「デリバー」という2軸から書いてみました。
 実は、これは、先だって、東大MOOC講座「インタラクティブティーチング」の反転授業が3日間東大で開催され、そちらに僕も登壇していたのですが、その際、お話ししたことでもあります。講義では「デリバー」の必要性を十分承知していつつも、敢えて「コンテンツ」について、僕の観点からフィードバックをさせていただきました。
 最後になりますが、おかげさまで、反転授業には、素晴らしい学習者の皆様20名が集まり、メイン講師をつとめられた栗田さんのもと、小原さん、山辺さん、吉野さん、石原さん、大谷さん、松尾さんらスタッフの働きもあり、無事、盛会にて終えることができました。ランチタイムには、音楽座ミュージカルの藤田さん、渡辺さんをはじめとして、吉見先生、本田先生、渋谷先生、入江先生などもゲストに登壇いただきました。ありがとうございました。
 この場を借りて、お集まりいただいた受講生の皆様、ここまで伴走いただいた日本教育研究イノベーションセンター様、そして同組織の谷口さま、高井さん、成田さん、堀上さん、竹内さん、坂上さんらには、心より感謝を致します。
 ありがとうございました。

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