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2014.9.25 09:13/ Jun

ビジネスパーソンに「教える」ときの「2つの教え方」:「染みこみ型の学び」と「差し込み型の学び」

 研究領域の都合上、僕が教える学生は、9割以上が「社会人経験のある学生(=いったん会社・組織で働いた経験のある方)」、多くは企業で働くビジネスパーソンの方々です。
「人材開発に興味をもってくださる学部生の方」が、もう少し増えるといいのですが(!)、小生の努力足らずのせいもあり(泣)。人材開発というマニアックな世界に興味をもつのは一定の社会人経験が必要なようですね(泣)。
 ということで、一年のほぼ9割は、社会人経験のある学生の方々と一緒に過ごしています。
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 ところで、僕が社会人の方々を教える場合、
「どこで、どのくらいの期間教えることができて、その間にどの程度、何を伝え、問いかけるか」
 に関しては、かなり「センシティブ」になっているつもりです。
 もちろん、今の僕のやり方が「十分」だとは全く思っていませんが、下記は、このことについて「自戒」を、かなりこめて書きたいと思います。
 今日の問いは、具体的に申し上げますと、
「大学院などの、長期にわたって、教えることのできる場所で社会人を教えること」
 と
「社会教育施設などで、比較的短期間で社会人を教えること」
 は似ているようで「違う」ということです。
 以下は「あくまで僕の分野で、かつ、僕の経験では」という断りをいれた上で、このことについて書いてみましょう。
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 前者「大学院などの、長期にわたって、教えることのできる場所で社会人を教えること」というのは、誤解を恐れずにいうならば「染みこむ学び」に近いものがあります。
(かつて、東洋先生が、日米の親子比較研究をなさっていましたね。たしか、そこで用いられていたワードが染みこみだと記憶しています・・・が、記憶に自信がありません)
 その学びは、研究室という場所において長期間、「同じ釜のメシ」を食い、切磋琢磨する研究室メンバーとともにあります。
 よって、指導教員の立場からすると、若干、「キメの粗い問いかけ」を行って、指導教員側から読むべき本、読むべき論文を事細かに指示しなかったとしても、困惑した面持ちで研究室でウダウダし、研究仲間に相談している内に、問題が次第に解決し、長期間のあいだには、あたかも「水が一滴一滴染みこんでいく」ように、問題解決のパターンが、非構成的、かつ、非意図的に習得されていきます。
 もちろん、誤解を恐れずに申し上げますが、指導教員として「キメの粗い問いかけ」を毎日しているわけではありません(そこまでぶん投げ系ではありません)。また、こうした「長期間のしみこみ」が可能になるためには、研究室に一定の安定的な社会的関係が必要なことは言うまでもありません。
 ポイントは、そうした問いかけを消化するにあまりある時間と場所が、こちらには「ある」可能性が高いということです。
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 対して、「社会教育施設などで、比較的短期間で社会人を教えること」は、教える対象が「同じ社会人」でも、なかなかそうはいかないケースがほとんどです。
 たとえば3ヶ月間全6回で、ある領域の知識を教えなければならない場合、同じ「問いかけ」をするのでも、「問いかけの範囲」と「揺さぶる範囲」をぐっと狭め、さらには、こちらから「提供する情報の量」も増やさなくてはなりません。
 とにかく、こちらの学びは「時間」が限られているのです。それでも社会人の方々が、「なけなしの時間」を集めて来て下さった、貴重な時間なのです。この時間を制約として、最大限活かすことが求められます。
(クソ忙しい日常の中、数時間でも、自分の仕事外の学びに時間を費やせることは、本当に大変なことです。家庭がおありな方は、家庭の理解をとりつけることも必要でしょう。その気持ちはよくわかるのです)
 また、先ほどに対して、短期間の社会人教育施設における学びは、社会から多種多様な人々が集まっていることが多いものです。こちらは、多くの場合「入試」などの選抜機会がありません。
 経験上、これ以上は「過保護」だろうと思うくらいでも、案外、多様な人々には「刺さらない」ものです。それほど、伝えるメッセージは明確で、絞ったものにしなくてはなりません。
 ですので、先ほどの学び方が「染みこむ学び」だとすると、こちら側は「差し込む学び」に近いものがあります。どちらがいい悪いの問題では全くありません。
 ポイントは、学習できる時間量と場がこちらは圧倒的に少ないと言うことです。
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 このように「社会人経験のある方を教えるやり方」ということは、少なくとも僕の領域に関していえば、「教える場所」「教える期間」によって、少し異なります。くどいようですが、どちらがいいとか、悪いの話ではありません。しかし「違いがあること」は確かです。
 こう書いてしまうとアタリマエのことなのですが、意外にも、それを意識なさっている方は、そう多くない印象があります。
 大学院で教えている先生が、社会人教育施設で教えると失敗してしまう原因
 社会人教育施設でセミナーなどをやっている先生が、大学院の授業で失敗してしまう原因
 にも関連するような気がします。
 
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 今日のネタは「自爆ネタ」でした(泣)。「あんた、もう少しちゃんと教えてよ」というつっこみがいろいろなところから出てきそうですが、本当にすみません。努力いたしますので、今日のネタはスーパー自戒をこめて、ということでお願いします。
 でも、今日のお話しは、社会人経験のある方を教えるというとき、そのあり方を考えるためのヒントにはなるのかもしれません。加えていうと、これは文章表現も似たところがあります。
 どの程度、何を問いかけるのか、その学びは「しみこみ」をめざすのか「さしこむ」のか、考えてみるヒントになるのかな、とも思います。
 そして人生は続く

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