NAKAHARA-LAB.net

2014.7.24 08:23/ Jun

数字を「お返し」し、物語を「紡ぐ」10年経験者研修

「学校教育研究」から「経営学習研究」に衣替えしてはや10年以上が過ぎました。
もう前者の現場に関しては最近の動向は存じ上げませんが、1年に1回だけ縁あって4年間にわたり続けている仕事があります。横浜市教育委員会さんのやっておられる「10年経験者研修」の一部を担当させていただいているのです。
 こちらは単なる「研修」ではありません。
 横浜市教育委員会×東京大学中原研で行った1年次、2年次、3年次、5年次、10年次教員の方々に対する調査(Nはそれぞれ500から1000になりますね)をベースにして、その分析結果を、研修でお返しし、10年次教員の方々が、今後の「学校づくり・人づくり」に御協力していただくきっかけをつくることをめざしている研修です。
 学校の現場においても、いわゆる「あうん的世界」「背中を見て育て」では、だんだんと育成は難しくなっています。今の時代にフィットした育成システムが次第に必要になってきています。
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 言うまでも無く、10年経験者というと、学校では、もはや「中堅としての働き」「中核的存在」を期待されます。
 現在の学校、特に都市部は若返りが激しく、経験10年未満の先生が50%を超える地域も珍しくはありません。そんな中、圧倒的に若く経験の浅い教員を支えるには、学校が「人材育成システム」を意図的に整えていく必要があります。
 察しのよい方ならおわかりのとおり、この状況は、バブル時に採用抑制を行った企業の状況と、かなり近似しています。
 もちろん、学校は企業とは違うので、一概に比較することはできません。しかし、こと育成という観点からすれば、似ているところも少なくありません。
(ちなみに誤解を避けるために申し上げますが、学校に民間の経営手法を安易にあてはめていくやり方は、全く共感できません。企業とかかわり、かつ学校をかつて見ていた人間として、そのことを強く思います。学校と企業は、言うまでも無く組織の成り立ちやガバナンスのあり方、そして目標が全く異なる組織体です)
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 横浜市教育委員会では、そのような現状を鑑み、10年次研修の内容の一部を「初任教員の育成・学校づくり」にあて、実践されています。「上位の研修内容」を「下への関わり」にあてていくというこの手法は、「育成のラダー」をつくりあげていくことでもあります。医療の現場でいわれるところの、いわゆる「屋根瓦」方式を意図的に構築する試みとも言えるでしょう。
 横浜市と中原研のご縁は、今から4年前、当時首席指導主事であられた前田崇司さんが、「職場学習論」を手にとられ、僕の研究室をおとずれていただいたことから、このご縁が続いています。
「この本は企業に関する本です。でも、この内容は、学校に通じるところもあります」
 最初はもう学校研究はしていないから、とお断りさせていただきました。しかし前田さん、そして、続いてこられた冨士田さんの熱意とご尽力に、やってみようという気になりました。そのようなご縁から、研究室とのご縁がはじまりました。
 研修で僕らが担当するのは、最初の一歩「意識づけ」の部分です。
 中堅とは何か?
 どういう働き方が期待されているのか?
 学校の現状はどのようになっているのか?
 何を工夫していくか?
 などを「サーベイフィードバック」による「数字」と、エクササイズを通した「ストーリー」によって考えて頂く時間をつくります。エクササイズでは、「自分の10年間」や「学校の現状」などを、様々なかたちで「表現」してもらい、それをもとにグループで対話を深めます。
 察しのよい方ならおわかりいただけると思いますが、これは企業研修で行われるところの、いわゆる「組織開発」の手法を、一部適用したものです。昨日は、合計500名の方々に、サーベイフィードバックを用いたり、エクササイズを行ったりしながら、3時間、みっちりリフレクションをしていただきました。
「これからお話しする内容は、日本のどこかのデータではないのです。皆さんの学校にいる、皆さんの同僚が答えたデータを分析させて頂きました。その結果をお返しいたします」
「これまで皆さんはどのような10年間を歩まれましたか? 今の若手はどのような状況で働いておられますか? そのあたりを表現し、対話してみましょう」
 どこまで「Good time」が生み出せたかは、はなはだ疑問ですが、全力で走りきったつもりです。
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 今回は、特に、これまで3年間にわたって担当してきた研修の大部分を、本プロジェクトのメンバーである脇本健弘君(中原研OB)、町支大祐君(教育学研究科)に任せました。
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脇本健弘君
http://www.wakimoto-lab.net/
町支大祐君
http://cdai80.wordpress.com/
 反省点や乗り越えなければならない課題は多々残るものの、二人とも、精一杯の背伸びをし、乗り切りました。今回は、彼らのこれからを信じてかなり厳しくフィードバックしました。もう僕が伝えられるものは何もありません。お疲れさまでした。
 彼らは、これからこの三年間に蓄積したデータをさらに分析し、論文や書籍含めてパブリッシュしていく予定だそうです。ぜひ頑張って欲しいものです。ここからは、貴殿らの時代だよ。
 最後になりますが、このような場をいただいた横浜市教育委員会の皆様、特に今回ご担当いただいた田中磨理子指導主事、長島和広指導主事、そしてもともとのご縁をいただいた前田崇司さん(北部学校教育事務所指導主事室・室長)、冨士田美枝子さん(文化観光局 創造都市推進課 トリエンナーレ担当課長:横トリもうすぐで開催ですね!)に、心より感謝いたします。
 そして人生は続く

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