NAKAHARA-LAB.net

2013.11.7 08:19/ Jun

研究方法論を学ぶとは「実践すること」である!?

 中原研究室は、今、まさに「代替わり期」にあります。
 経験ある大学院生が卒業・就職していく段を迎え、新たに入ってくる大学院生に、その技術やノウハウをいかに伝えるかが、非常に大きな課題になっています。
 特に、統計分析や調査法などの、いわゆる「研究方法論」は、その肝は、入門書に書いてないような「ディテール」に「神」や「ノウハウ」が宿っています。これらを直ちに伝える必要があります。
 先日、僕は「研究室の種火を消さない」という記事を書きましたが、まさにそのものズバリの大きな課題が、中原研を襲っています。
組織の中の「種火」を消さない!?:世代を超えてスキルを継承することの難しさ
http://www.nakahara-lab.net/blog/2013/10/post_2114.html
  ▼
 先日、大学院生の有志と、新たなプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは、「Research project:研究プロジェクト」でもあり、「Learning project:学びのためのプロジェクト」でもあります。
 経験ある大学院生とともに経験の浅い大学院生らが、ひとつの目的のもと、質問紙をつくり、実際に調査を行い、分析をして、学会発表を行い、論文化を行う。その一連のプロセスを通して、新たな大学院生に、技術を学んでもらおうということです。
 論文化まで行うということは、内容は「ガチ・リサーチ」です。査読も入るし、批判も受けます。しかし、そうしたプロセスの中で、こちら側は、なるべく学んでもらえる配慮をしていこうと思いますし、学ぶ側にも積極的なかかわりをしてもらいたいと考えています。
 ですので、「Research」と「Learning」は不即不離です。これらを切り離して考えることはできません。
 ▼
 これは、僕の私見なので真に受けないで欲しいのですが、わたしの研究領域に必要な、統計などの研究方法論(ユーザーとしての統計)を学ぶために必要なのは、「プロジェクト」「仲間」そして「時間」です。
 本を読んで統計を学ぶことも不可能ではありません。しかし、結局は、「リアルなプロジェクトのメンバーとして、ガチな課題にマジで取り組むこと」がもっとも早いと思います。
 なぜなら、プロジェクトには、〆切が迫ってきます。〆切がくれば、自分の分析知見をもって、他の研究者と議論をしなくてはなりません。そのときに、「わかんないとか、わかる」とか、低次のことを言っている暇はないのです。
 他の研究者に迷惑をかけないためにも、「わかるように」自分でするしかないですし、議論の俎上にのせるのは、より高次な分析結果でなくてはなりません。
 しかし、そうした厳しい「プロジェクト」だけがあれば、学べるか、というと、それは異なります。
 そこに必要なのは、困ったときに相談できる「仲間」、アドバイスをくれる「仲間」、一緒にひーひーいう仲間です。ですので、ラボには、なるべく時間をあわせて、皆で集まり分析を行うように、御願いしました。どうか、それを守って欲しい、と思います。
 そして本当に必要なものがあります。それは「時間」です。
 ちょっと考えたくらいで、分析が終わるのなら、こんなに楽なことはありません。
 実際は、仮説をつくっては崩し、崩してはつくり、ポチっとやって数時間の苦労が泡になり、泡から突然ヒントが生まれる。
 そういう何十時間もの試行錯誤があって、ようやくわかってくるものです。それには「長い時間」がかかります。
「考え続けたものだけが、思いつく」
 のです。
 ▼
 今日は、「研究方法論を学ぶこと」について書きました。大切なものは「プロジェクト」「仲間」「時間」です。要するにひと言でいえば、
 「研究方法論を学ぶことは実践すること」
 だということです。
 もちろん、これはあくまで僕の領域で、かつ、僕らに必要な技術の範囲で書いているので、他の領域や研究者がどう考えるかはわかりません。
 どうか「長旅」を愉しんで欲しいと思います。
 大丈夫、「終わりのない旅」はありません。
 Enjoy!
 ーーー
追伸.
 東京大学新聞の「研究室散歩」で、中原研が取材されました。ありがとうございました。このコーナー、いつも愉しみに見ていますが、本当に東大には多種多様な研究室があると思っています。どんな領域にも、専門の研究者がいる。おそらく探究していない領域は存在しないのではないか、という具合に。大学という場所は、不思議な場所です。
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