NAKAHARA-LAB.net

2013.7.5 08:41/ Jun

学校人と企業人の「幸せな!?出会い」

 学校教育関係の研究を離れて、もう10年弱です。最近の学校教育の問題、また、現場の動向については残念ながら把握していませんが、そんな僕でも、時折、学校関係の方々から「人材育成・人材マネジメント」という観点で、お声がけいただくこともあります。
 さすがに、メインは企業研究ですので、すべてにお答えすることはできません。ただし、最初にお声がけいただいた横浜市のお仕事と、生まれ故郷の北海道のお仕事だけは、できる範囲内で、お引き受けしています。
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 昨日は、企業の人事担当者 / 人材開発担当者の方々を対象にした僕の授業に、横浜市と北海道の学校教育関係者の方々がオブザーバ参加し、企業の方々とともに議論に参加して頂きました。それぞれ、どんな感想をお持ちになったかは、わかりませんが、ポスターセッションでは、熱心にお話をなさっていたのが印象的でした。
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 こういう授業を組織化したからといっても、もちろん、学校関係者の方々に「企業から一方向的に学べ」と思っているわけでは、断じてありません。「学校が、企業みたいなやり方を取り入れるべきだ」とも1ミリも思いません。
 僕自身、学校教育を離れてみますと、学校と企業は全く異なる職場環境 / 人材マネジメントシステムであることを、痛感します。
 おそらく、僕の場合、「学校のシステムの内側から企業を見る」のではなく、完全に「学校」の観点を離れ、「企業研究の外部の目から学校」を見ているので、なおさら、「学校と企業が違う組織体」であること思うのかもしれません。
 ふだんお話をすることが多いのは、企業の経営者、経営企画担当者、人事担当者、現場のマネジャーの方がた、そして経営学者の方々です。そういう方々の生きるシステムと、学校がいかに異なっているかを、痛感します。
 ですので、近年の学校教育のマネジメントに、「企業のマネジメントの用語」や「企業の人材マネジメントシステム」が、安易に導入されているのだとしたら、僕は「違和感」があります。「民間的経営」だか「民間のマネジメント」だか知りませんが、「民間」と冠がつけば「万能な処方箋」があるかのように語られるのは「明らかな誤解」ではないかと思います。だいいち、十把一絡げに「民間」といいますが、それは、いったい「何」を指し示しているのでしょうか。
 企業によって、事業によって、職場によって、マネジメントのシステムは相当に異なっています。企業のマネジメントシステムを、十把一絡げに「民間」と呼称することは、とても不思議に聞こえます。
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 ですが、とはいいつつも、「学校関係者」と「企業関係者」のあいだに「前向きな交流」はあったほうがいいようにも思います。それぞれの持ち味や状況の違いをしっかりと踏まえつつ、企業の人事の方々と、学校教育の関係者の方々が、建設的で前向きな刺激を与えあったり、お互いに学べるところを取捨選択しつつ、参考とすることには、よい効果があるような気がしています。
 ともすれば、企業と学校ともうしますと、「やれ、学校が悪い」「やれ、企業は黒い」と、お互いに責任をなすりつけあい、「批判の応酬」になる傾向があったような気がします。両者は、これまで「幸せに出会えて」いたのでしょうか。
 もちろん、両者のあいだで、批判はあってもよいのですが、願わくば、その前に「曇りのない目で、お互いの立ち位置」を見つめ合い、「対話する機会」が持った方がいいように思うのです。そういう機会をつくることが、今の僕にできるなのかもしれません。
 昨日の授業が、そのようなつながりのきっかけになったとしたら、幸いです。
 また土曜日(7月6日)には、企業の方々、学校教育の関係者の方々が参加する異種混交の研究会が開催されます。
 8月17日にも、こちらは大学ですけれども、大学関係者と企業関係者の出会う研究会が開催されます。お互いの違いを認識しつつも、違いを愉しみ、対話できる場所になることを願います。
 グローバルな競争にさらされている、この国には、人材の観点から、「やれ学校”が”悪い」「やれ企業”が”悪い」と「がの応酬」をしている暇は、残念ながら、ありません。また「がの応酬」をしていても、事態はいっこうに解決されません。僕は、そう思います。
8/17(土)【参加申し込み中】「就職、キャリア、大学教育のフロンティアを知る : 大学生研究フォーラム2013「大学生の今、変わる企業:学生のうちに経験させたいこと」
http://www.nakahara-lab.net/blog/2013/07/post_2042.html
7/6(土)「対話をうみだす”実践知”を、トップランナーから学ぶ」(参加申し込み〆切済)
http://www.nakahara-lab.net/blog/2013/05/_vs.html
 そして人生は続く

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