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2013.1.4 08:34/ Jun

「論文」と「ビジネス書」は何が違うのか?

「論文」と「ビジネス書」とは何が違うのか?
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 昨日は久しぶりに都心の大型書店にいって、数時間、「書棚遊泳」をしていました。
 僕はリアル書店に出かけるときには、医学からダイエット、園芸に至るまで、すべての種類の書棚を遊泳することにしていますが、いろんな種類の本をパラパラとチラ見していて、今日の日記のタイトルを思いつきました。
「論文」と「ビジネス書」とは何が違うのか?
「全く違う、別物じゃん」、と言われると「ハイ、それまでよ」ですな(笑)。
「研究者が書くのが論文に決まってるだろ」「専門用語があるのが論文」というならば「おっしゃるとおり、別物ジロー(意味不明)」なのですが、年末年始、少し「暇」なので、この「1ミリも経済価値をもたない素朴な問い」について考えてみることにしましょう。
 僕は、文章論やライティング研究の専門家ではないので、詳しいことは知りません。専門外の立場から無責任に言い放ちます。
 もちろん「論文」といっても分野によってもいろいろありますし、「ビジネス書」といってもさらに多種多様ですから、「一概に言えないこと」は、言うまでもないことです。
 今日のお話は、あくまで「僕の専門分野の論文」に関することであり、かつ、「ビジネス書」の方は、昨日、「たまたま本屋で立ち読みしたある本」を想定して書きます。全く一般性はありません。
 上記の制約はあることはあります。ただし、個人的には、昨日、「興味深い違い」をひとつ発見して、本屋で「そうだったのか、なるほど!」と喜んでいました。
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 僕が気づいた「論文」と「ビジネス書」の「主要な違い」は、その「書き方」なのです。
 ひと言でいえば、
 論文とは「ストラクチャー」にしたがって「リニア」に進行する書き物
 です。
 その進行は、「フォーカスを徐々にしぼりながら、最後の結論の1点に至ること」が求められます。
 具体的にいうならば、「背景のレビュー – リサーチクエスチョンの提示 – 仮説提案 – 解決 – 結論・考察」という風に、徐々に問題を絞りながら、最後の1点をめざす。
 別の言い方をするならば、論文とは
「One Paper, One Conclusion」
 です。3個も4個も「重要なポイント」があることはありえません。「One Conclusion」に至るまで、根拠(Evidence)を積み重ねながら、フォーカスしていく、そういうストラクチャーに厳密でリニアに進行するのが「論文」です。
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 これに対して「ビジネス書」は、「全く違った文章構造」をもっているように感じます。僕の感覚からすると、
 ビジネス書は「クラスター」を寄り道しながら「ノンリニア」に進行する文章
 のように感じるのです。
 まず、書籍全体を通じて、主張したい「重要なポイント」がいくつかある。人が憶えられるポイントなんて、限られていますので、だいたい、3か5か7がベストでしょう。
 この「いくつかの重要なポイント」に付随し、それを強化する「クラスタ(話題の集まり)」があるのです。あとは、その「クラスタ内」において「読者の方々が共感を憶えたり」、「読者の方々が腹におちる」ようなエピソードや数字をちりばめつつ、文章が進みます。
 その文章は「リニア」に進んでいくというよりは、「ノンリニア」に、たまに「寄り道」をしたり、「道草」したりしながら、いろんな道をとおり、話を膨らませて、書いていくことが求められているように感じます。そのプロセスの中で、人の共感や興味を喚起することが求められています。
 その証拠に「ビジネス書」では、「話を元に戻すが・・・」とか「話がそれたが」とか「ともかく・・・・」という風に「急激な話題転換」を行うような文章が用いられる傾向があります。
 これは文章構造が「ノンリニア」である証左のひとつでしょう。そして、おそらく「論文」ではなかなかないのだと思うのです。なぜなら論文は「リニア」に進行していくので、「急激な話題転換」を行う必要がないのです。「話を元に戻す必要」がそもそもないのです。「話」は予定通り、構造に従って、進んでいきますので。
 反対に「論文」にはあって「ビジネス書」にないものは、何でしょうか。
 それは「文章を構造化するセンテンス」の存在です。例えば「以下では、第一に・・・を述べる。第二に・・・を述べる。最後に・・・を述べる」といったように文章構造を章前に提示するような文章はあまり見られることがありません。
 ビジネス書では、構造が「ノンリニア」になっておりますので、こうした「章全体を構造化するような文章」はあまり見られないのかもしれません。
 ま、あくまで、昨日、感じたことだけどね。
 下記に、勝手なイメージ図を書いてみました。
bussiness_ronbun.png
 論文は、「すこしずつ範囲を狭めて、One Conclusionに達するイメージ」。対して、ビジネス書は「クラスターを巡りながら、本のテーマを論じているイメージ」ですね。
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 以上、今日のお話は、「論文」と「ビジネス書」の違いのお話でした。どちらがよいとか、よくないとか、どちらのクオリティが高いか、低いか、そういう次元の話をしているわけではありません。読者と目的が異なるので、文章構造が変わってくるのはあたりまえのことです。
 ただ、おそらく予想なのですが、「論文をたくさん書いている人が、ビジネス書を書くのは、かなりのハードシップ」のように感じますし、おそらく「逆もまた真なり」の可能性もあるな、と想像していました。
 はい、今日の話題は以上です。
 今日の話は、最初に言い訳したとおり、1ミリも経済的価値をもたない文章(!?)だと思いますが、個人的に興味深かったので、おすそわけでした。
 そして人生は続く。
 明日、東京に戻ります。
 —
追伸.
 今日の話は、「経営学の論文」と「ハーバードビジネスレビューに掲載されている論文」の違いにも言えることだと思います。後者はとても有用だと思いますが、どちらかというと、上記の分類でいくと「ビジネス書」の書き方をしているように感じます。研究者が読んだ場合、一瞬、面食らうのは、その文章構造の違いかもしれません。くどいようですが、どちらがよいとか、よくないとかいう次元の話ではありません。

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