NAKAHARA-LAB.net

2012.10.23 05:54/ Jun

イノベーションを実現に導く「まっとうな理由づけ」!? : 武石彰・青島矢一・軽部大(著)「イノベーションの理由 — 資源動員の創造的正当化」書評

 ちょっと前のことになりますが、武石彰・青島矢一・軽部大(著)(2012)「イノベーションの理由 — 資源動員の創造的正当化」(有斐閣)という本を読みました。「イノベーションの実現プロセス」に関する定性的な探究をつづった研究書です。

 本書において、イノベーションとは「経済成果をもたらす技術革新」であるとします。注目するべき要素は2つ。イノベーションを構成する要素は「技術革新」であるだけでなく、「経済効果をもたらす」ということですね。
 特に、後者の「経済効果をもたらす」という部分が大切なところです。「経済効果をもたらす」ということは、「技術革新」が単なる「新たなアイデア」であるだけではなく、それが「生産プロセス」に結びつけられることを意味します。
 具体的にいえば、「工場をつくる」とか、「販路をつくる」とか、そういうことでしょう。
 そして、そうしたものをつくりだすためには、誰かひとりが頑張るわけにはいきません。組織内部において「ヒト・モノ・カネ」の「資源動員」が革新に対して行われる必要があります。
 そして、その「資源動員」のためには、組織内部において、みんなを説き伏せるだけの「まっとうな理由」をつくりだすことが必要です。著者らは、これを「創造的正当化」とよび、「創造的正当化による資源動員」に着目した、イノベィティブな「イノベーション論」を、本書において展開します。まことに面白い部分に着眼なさるな、と思いました。
  ▼
 
 しかし、少し考えてみればわかることですが、この「経済効果をもたらす資源動員」「それを可能にする創造的正当化」というのがまことに難しい。
 それは、イノベーションの特質 - 革新性と不確実性 – という2つの特色からみちびかれる論理的帰結です。
 すなわち、イノベーションとは、誰もみたこともない新しいものであり(革新性)であり、かつ客観的な経済合理性が予測できない(不確実性)であるゆえに、組織内部において「抵抗」や「反対」にあいやすいのですね。人は、見たこともないものには、不信感を持ちやすい。そして、客観的に利得を予測し、主張できないものを – ともすれば、自分のオペレーションや事業への資源配分をおびやかすものを – 許すことはできないでしょう・・・一般には。
innovation_seitouka1.jpg
 本書では、「革新」に対して、組織内部においていかに資源動員を行い – すなわち「いかに具体的な製品やサービスとして、生産ラインを動かす資源動員を、どのような創造的正当化によって可能にしたのか」を、大河内賞(生産工学、生産技術の研究開発のイノベーションにおくられる賞)を受賞したイノベーションのケースから事例研究しています。
 もっとも興味深いのは、大河内賞を受賞した数十のイノベーションのうち、イノベーションの芽がではじめた当初、「組織からの支援があったもの」は少なかった、という事実。場合によっては「組織からの抵抗・反対」を受けたものの少なくなかったということ。
 そして、それを説き伏せるために、「組織外部の支援者」などを巻き込んだり、連合をくんだり、助言・情報提供してもらいながら、創造的正当化を行った事例も存在した、という事実です。
innovation_seitouka2.jpg
 
 俗にいえば、
 組織内部の人には、内部から声をあげても、なかなか響かない。
 組織外部の諸力を利用することで、内部を動かす
 ということでしょうね。
 個人的には、イノベーションとは「技術革新」が「創造的」であるだけではだめで、「正当化 – 組織内部を動かすまっとうな理由付け」も「創造的」でなければならない、という指摘が、非常に印象的でした。
 従来のイノベーション論は、イノベーションを促す要因を、「個人の資質」ないしは「個人に与えられた資源」に帰結するか(個人レベル)、あるいは職場や組織のルール、風土、リーダーの振るまいなどに帰結するか(職場・組織レベル)、経営者のコミットメントや理解に求めるか(経営者レベル)、ないしは国家の法整備・経済政策に求めるかであった思います。
「創造的正当化」という視点とは、非常に興味深い視点だな、と思いましたし、また、そのプロセスを明らかにするとは、定性的な事例研究の手法が活きるな、とも感じました。
 あなたの組織で生まれた「イノベーションの芽」・・・
 実現に向かっていますか?
 躓いている事例もありますか?
 それは、
 技術革新のつまづき?
 それとも
 創造的正当化?
 —
■2012/10/22 Twitter

  • 18:27  対話型鑑賞で、渋谷の街を考える RT @tatthiy: ブログ更新!先日参加したイベントの感想です。→ 渋谷ってどんな街?:まれ美@co-ba libraryに参加してきた!http://t.co/ZthyWJU8
  • 18:26  楽しそう!RT @tomokihirano: [開催報告] まれ美 in co-ba library 「ハチ公はアート?渋谷にまつわるアート作品をみんなで鑑賞!」: http://t.co/B2zl796m
  • 17:18  やべー、今日は、お迎えだ。気合いで乗り切る。たぶん、ギリギリ、間に合うであろう。TAKUZO待ってろよ。
  • 11:08  自己メモ:アジア展開へ積極人材採用 13年度日経調査:イオン、海外勤務を前提とする採用者数2.5倍増。ニトリ、海外からの留学生31人採用。三菱東京UFJ銀行は、若手を国際部門などの成長分野に重点配置(日経)
  • 07:11  【ブログ更新】”考えるということを本気でさせた人”が一番えらい!?:「優劣のかなたに – 遺された60のことば」(苅谷夏子さん著)を読んだ! 戦後を代表する国語教員のひとりである大村はまさんの珠玉の言葉を集め、解釈した書籍です: http://t.co/pjcybStK


Powered by twtr2src.

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.10.14 19:54/ Jun

本当の自分の姿は「静止画」ではなく「動画」じゃなきゃわからない!?

2024.9.28 17:02/ Jun

サーベイを用いた組織開発が「対話」につながらない理由とは何か?:忘れ去られた「今、ここ」の共有!?