2012.3.10 07:40/ Jun
エドワード・リードの「経験のための戦い―情報の生態学から社会哲学へ」を再読しました。たしか去年読んで、ほほー、「アフォーダンスの話」と「プラグマティズム」を接合するんだ、と思ったことを、おぼろげながら憶えていますが、先日、合宿で、福山君(早稲田大学)が、引用していたのがきっかけで、読み直す機会を得ました(再会に感謝!そうでなければ、書架の奥深くに埋もれていたかも)。
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この本は、生態心理学の観点からプラグマティズムの「経験」概念を再考察した本です。
リードは、現代社会の、いわば「病理」を「間接経験が直接経験を凌駕する事態」・・・・「直接経験の減衰」と「間接経験の増加」に求めます。
コンピュータテクノロジー・仮想環境が発達した現代社会では、「間接経験」が増え、私たちが「生態学的」に環境に働きかけ、そこと相互作用し、生み出される「直接経験」が少なくなっている、ということです。
これは誰しも、心当たりのあることなのではないでしょうか。
「虫を見たいという子どもが、外にでて虫取りするよりも、Youtubeに虫の名前を入れて、誰かのとったビデオ動画を見る」
ちなみに、最近、5歳児のTAKUZOは、「Youtube」のことを「ようつべ」といいます。
「スターウォーズ、ようつべで、見たいよー」
「あのさ、ポケモン、ようつべで、見ようよ」
たぶん、僕が、Youtubeを見せるときに、英字変換するのが面倒なので、「ようつべ」って入力していたせいでしょう。
あのね、アンタね、5歳の分際で、「ようつべ」って言うな(笑)
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閑話休題
あるいは、会社であるならば、
「現場に出かけ生の情報を仕入れるよりは、データベースの中の、誰かがつくった過去のデータを参照してしまう」
こんなことは、よくあることなのではないでしょうか。現場にでない実務担当者というのは、確実に増えているような気がします。
私たちは、いまや、生態学的に「リアルな世界」を生きることよりは、「仮想世界に生きている時間」の方が長くなっている傾向があります。
例えば、後半、リードは、人が働く現場 – 職場においても、同様の傾向があることを喝破します。そこにおいても事物や他者と直接にかかわり「直接に業務経験を得ること」が難しくなっている。
そんな中で、ひとつ「直接経験」を得るためには、どうするべきなのだろうか。リードの提案は「Working together(ともに働くこと)」です。
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本書を読んだ感想としては、ちょっと書籍の趣旨とはズレるのですが、最近、僕は、とみに思うことがあります。私たちは、今まさに、「経験をめぐる戦い」に否が応でも巻き込まれているような気がします。
「経済価値の高い直接経験をめぐって、人々が、静かな戦いをしている」かのように、たまに感じることがある、ということです。
「増え続ける間接経験=価値が極限までフリーに近づく間接経験」を背景に、いかに他者とかかわり、コピペできない(簡単には他人が得られないもので)直接経験を、戦略的、かつ、意図的に得るのか。
とりわけ、「他者との社会的交流」を含み、その経験をへたのちも、その経験を「ともに得たこと自体」が社会的結合の中核要素になってしまう直接経験はさらに注目されます。
そうした「直接経験」が、ますます大きな経済的価値、社会的上昇へのきっかけになってきているように感じるのです。
「直接経験の価値が増す」というのは、一見、素晴らしいことのように感じますが、この事態は手放しで称揚できぬ特質をもっています。
なぜならば、現代の「高い付加価値への直接経験」は誰にでもオープンにひらかれているわけではないからです。つまり、機会も均等でなければ、結果も平等ではない。そして、その少なくない部分は、近年は、Web上に広がるプラットフォーム、SNS等でのやりとりを媒介して生起している。
かつて、Webやインターネットといったようなテクノロジーは、その誕生当時は、「開放性」「オープン性」を有するメディアとして利用され、注目されてきました。それは、誰もが利用でき、誰もが情報を発信できるメディアであったからです。
しかし、近年では、その発展が、皮肉なことに「プラットフォームの独占」「閉鎖性ネットワークの強化」に働いているように感じます。Webというオープンな空間の中にありながら、「誰かに許可を得なければ入ることのできない空間」「誰かが、他の追随を許さぬように、囲い込んだ空間」が、日ごとに増えているのです。
だって、みなさん、最近、以前よりも、誰もがアクセス可能な「素のHTML」のサイトにアクセスしてますか? 皆さんが、最近になって、アクセスしているのは「誰かに許可を得なければ入ることのできない空間」「誰かが、他の追随を許さぬように、囲い込んだ空間」ではないでしょうか。
そして、たいていの場合、そうした空間へのアクセシビリティ(接近可能性)は、個人の有する様々な社会背景・社会属性・社会関係資本に規定されていることが多い。
そのような中では、いったん強い個は、さらに「人には得られぬ直接経験」を得ることができ、さらに「強くなる」という好循環に入る可能性が高いのではないでしょうか。
そうでない個は、なかなか、よいサイクルには入れないのかもしれません。
そのあたりが、誠に気になるところです。
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目をあけて、街を見渡せば、
僕の網膜には、静かに進行する「経験をめぐる戦い」が映ります。
皆さんは、いかがでしょうか。
そして人生は続く
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追伸.
3月13日(火曜日)午後7時から「インプロ × 組織 × クリエィティビティ」というUST番組をやることになりました。企業や地域でインプロを実践なさっている高尾隆さん(東京学芸大)、デザイン教育の分野でインプロを応用なさっている上平崇仁さん(専大)、中原淳で、ゆるゆると語りたいと思います。
番組には、プロの役者さんもご登場いただける予定です。組織開発とデザイン教育にインプロ(即興演劇)がいかに活きるのか?という話題について、語ります。もしかすると、突然インプロもあるかもしれません。
どなたでも、下記でご覧いただけます。
どうぞお楽しみに!
NAKAHARA-LAB on UST
http://www.ustream.tv/channel/nakaharalab
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