2012.2.10 12:41/ Jun
昨夜は、【fʌ’n】の第二回目「学びの場・教材のデザインと著作権に関する研究会」が開催されました。
今回は、著作権処理の分野でご活躍の弁護士・福井健策先生をお招きして、研修開発・人材育成・ワークショップ開発の領域で起こりえる著作権関係の問題に関して、ケースディスカッションをしました。
会場は、赤坂パークビル WOWOW本社です。WOWOW人事部の方々のご厚意により、21Fにある素晴らしい会場を使わせて頂きました(心より感謝です!)。
会場には、企業の人事部の方、民間の教育ベンダーの方々、マスメディアの方々、大学関係者など、55名弱の方々が集まり、ディスカッションをしました。
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まずは中原からイントロダクション。【fʌ’n】の趣旨が話されます。
【fʌ’n】は、ラーニングデザインを愉しむ一般の人々がさらに増えて、この社会がLearningful(ラーニングフル:学びに満ちた)をするための小さなムーヴメントです。
僕は、このムーヴメントの中で、「ラーニングプロデュース」「ラーニングデザイン」をやってみたいと思う人々のコミュニティをつくること、また、そうした方々が必要になる知識を共有できる場をつくることをめざします、そんなお話しをいたしました。
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続いて、福井先生の30min.レクチャーです。先生には、著作権処理の基本的概念をショートレクチャーしていただきました。福井先生のプレゼンテーションは、非常にわかりやすく、素晴らしいものでした。
福井先生によれば、著作権の実務とは、どんな場合にでも、「今、問題になっているものは本当に著作物かどうか」ということを確認するところからはじまる、といいます。
つまり、それは「著作物」と呼べるのか?
という素朴な問いが、スタートだということです。
言うまでもなく、著作物とは「創作的な表現」です。ならば、今、問題にしようと思っているものは「創作的な表現」を含むものか?ということが問題になるということですね。
福井先生に寄れば、一般には、
1.ありふれた表現、定石的な表現
2.事実・データ
3.アイデア(企画案、着想、コンセプト、技法)
4.題名・名称
5.実用品のデザイン
は著作物ではない可能性が高くなります。ラーニングデザイナーにとって、特に関連部会のは、「3のアイデア」です。
なぜなら、ラーニングデザインの多くは、ここに該当する可能性が高くなるからです。たとえば、ワークショップの技法とか、研修のコンセプトとかね。
しかし、それらは残念ながら、著作物として認められる可能性は低いです。つまり、どんな人でも使うことができるということです。
(ちなみに、ワークショップの技法やフレームワークなどが、どんなものでも著作物でないか、というと、そうではありません。また、それらを守るための方法がないか、というと、そうではありません。著作権法とは別途異なる「契約」という方法などによって防衛されている場合があります。このあたりは、昨日はディスカッションで多くの事例が紹介されましたが、微妙な判断が入るところなので、ブログでは省略します)
その背景には、「いいアイデアは、どんどん、みんなで使ってもらう。たとえ、それで利得を得られず不平不満をいう人がでてこようとも、それで、豊かな文化が生まれればよいという発想」があるのだそうです。著作権法は、そちらを選んだ、ということですね。
福井先生は、これ以外にもたくさんのお話しをしてくださったのですが、レクチャー部分のご紹介は、そのくらいにしておきます。
後半は、ケースディスカッションを行いました。ケースの作成には、参加者の皆さんにあらかじめ「実務の上で、何が問題になっていますか? 福井先生にお聞きになりたいことは何ですか?」という問いを投げかけました。そこから出てきたものをKJ法で分類し、7つのケースを僕が執筆いたしました。
ケースは、
自分が参加者として参加した「有料ワークショップ」で、ファシリテータのやっていたアイスブレークの手法を、自分のワークショップでも、許諾なくやっていいのか?
自分が開催したフォーラムで、講演者の言葉がTwitterで「つだ」られ、講演者から著作権侵害のクレームがきたが、主催者には、その責任があるか?
など多岐にわたりました。参加者の方々は、非常に熱心に議論に参加して下さいました。参加者の方からご発表いただいた内容をもとに、福井先生から解説をいただき、無事終了しました。
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今回のセッションにおいては、僕自身が、まずとても勉強になりました。印象に残ったことは3つ。
まず1つめ。
他人の著作物の利用というものは「適切な引用」にかかっているな、ということです。
引用は、元ネタが有料であろうが、無料であろうが、基本的には関係ありません。また引用は、テキストであろうが、スチルであろうが、動画であろうが、これも関係はありません。福井先生が示してくれた引用の6つの原則に従うモノであれば、基本的には「引用」することができます。
■引用の6つの原則
1.公表作品からの引用であること
2.明瞭区別されていること
自分の作品と他人の作品を混ぜないかたちで、明瞭に境界がもうけられ、引用されていること
3.主従関係:自分の作品が「主」で、引用されるものが「従」であること
質量ともに自分の作品が主であり、引用されるものが「従」であること。
4.必要性/必然性のある場面で引用がなされていること
必要性や必然性のある場面で引用がなされていること。
5.改変がなされていること
引用されているものが、改変されていないこと。
6.出典が明示なされていること
作家名・作品名は最低限書くこと。
この原則にのっとり、適切に引用を行うことで、ある程度のことはできるのだな、という印象を持ちました。
ふたつめ。
それは、著作権とは「文化の発展」を視野にいれつつ、議論されなければならないということです。別の言葉でいうのなら、著作権は、広く社会文化的観点から把握しなければならない、ということです。
既述したように、アイデア・着想・技法といったものは、原則として「著作物」として認定される可能性は少ないです。この背景には、私たちの文化を発展させるために、「不利益を生じるかもしれない個人が、もしかすると」、生まれるかもしれない。しかし、それでも社会全体の功利を考えれば、その方が利得なのだ、という認識が存在しています。
一見、無味乾燥に見える法律ですが、こうしてみると、文化をデザインする手段とも言えそうですね。面白いですね。
みっつめ。
もうひとつは – この観点は、実は、今回扱えなかったことなのですが- 著作権は「マネタイズ」の観点からも、議論されなければならないということです。
誰かの考えたアイデアや着想が、文化的発展のために多くの人々に使われることは、社会全体の観点からみると、よいことです。しかし、ここにはピットフォール(落とし穴)があります。それは「よいアイデア・着想を生み出してくれる誰かが、常に、存在しつづけなければならない」ということです。
そうした個人がいなくなってしまったら、文化的発展は望めません。しかし、一般的に、「食えないところ」に、喜んで参入してくる「アイデアあふれる個人」はいません。もしいたとしても、ごくごく少数か、短期的な滞在にとどまるはずです。ある領域においてアイデアや着想がつぎつぎ生まれるためには、そこで「食える仕組み」が必要です。
要するに、ここまでをまとめると、こういうことです。
著作権の問題は「よいアイデア・着想を生み出してくれる誰か」が食べていける仕組み - つまりは「マネタイズ」の仕組みとセットに、文化的な観点を視野にいれつつ、語られる必要があるということです。
みっつめのことに関しては、今回のセッションでは十分触れることができませんでした。これは、今後の課題にしたいと思いますし、もし参加者の方で志ある方がいらっしゃったら、「ラーニングデザイン・著作権・マネタイズ」というテーマで、研究会をなさったら面白いのにな、とも思いました。
最後になりますが、素晴らしいプレゼンテーションとQ&Aを行って頂いた福井健策先生、ご参加いただいたみなさま、株式会社WOWOW人事総務局の皆さま(特に企画段階から御相談にのっていただいた富澤律子さん、ありがとうございました)、NPOエデューステクノロジーズの吉川さんに、この場を借りて、感謝いたします。
どうもありがとうございました。
そして人生は続く。
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