2011.12.19 10:43/ Jun
「自分は忙しくて、今までの政策決定に関して、一度も総括したことがない。あの担当が終わってから、すぐに次のポジション、また次のポジションと、2年ごとにうつっていき、あの時期の仕事のよしあしなどについて考えている余裕はなかった。
引き継ぎは、後任に全部伝えるものでもない。特に、自分の場合は、後任が海外勤務だったこともあり、ほとんど電話ですませている。
(中略)
実は終わってからも、気になっていた。あれはあれでよかったのか、と。けれども、それを問われる仕組みは通産省の中にはなかった。すぐに次のポジションをこなさなければならない。
棘のように刺さっていたことに関して、ある日突然外から話をしろと言われて狼狽した。もう記憶も薄れている。今日か明日の問題で忙しいときに、どうして、そんなことを思い出さなければならないのか。いやだ、と思った。
けれども、あなたに向かって話してみたら、意外に素直に話せた。そして自分がやってきたことは、必ずしも十全100点のやり方ではなかったことを認識したが、それが認識できてよかった」
(御厨貴著「オーラルヒストリー」p34より一部引用)
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これは、御厨貴著「オーラルヒストリー」(中公新書)の中に引用されている、ある官僚の方の言葉の引用です。
御厨先生は、口頭で語られる歴史をこれまで探求し、「オーラルヒストリー研究」を立ち上げた方として、非常に著名な方です。
かつて、御厨先生は、これまでミニオーラルヒストリーと称して、1時間で、現職の官僚に特定の政策課題の意志決定プロセスについてヒアリングを行ったことがあるそうです。
その際、ミニオーラルヒストリーに最も抵抗していた官僚で、しかし、終わってみると感謝の言葉を伝えてきた方がいらっしゃった。その官僚の方の言葉が、冒頭に紹介したものです。
僕は、これを読んで、共感を覚えました。
「現代人を支配する多忙さ」がよく表現されている言葉だと思いますし、同時に、やはり「折に触れて内省を行うことの重要性」、そして、「よい聞き手を相手に自分の仕事を語ることで、それを成し遂げることの可能性」を、今さらながらに感じてしまったのです。
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僕はよく「夢」を見ることがあります。
バッターボックスには、僕ひとり。僕の目の前には、ピッチャーが5人くらいます。全く同時に球を投げられることはないのだけれど、ほんの少しのディレイで矢継ぎ早に、球が投げられている。僕は、投げられた球を、ただ、ひたすらに打ち返す。
そんな夢です。
こんな夢も見ます。
受話器を右手でとっている。そうしたら、また電話がかかってくる。今度は左手で受話器をとる。また電話がかかってくる。今度は右肩に受話器を乗せる。また電話がかかってくる。今度は左肩に受話器を乗せる。
なんか、こうして、我が夢を公衆の面前で「言葉」にすると、かなり切なくなってきますね(笑)。
でも、誤解されると困るので述べておきますが、少なくとも僕の場合は、こうした現状に、ネガティブな感情だけを感じているわけではありません。
疲労感を感じることも多々あります。そりゃ、あるよね、人間だもの(笑)。
でも、打ち返すとき、受話器をとるとき、多くの場合、僕は、フローの中にいます。でも、終わると、どっと疲れる。ネガともポジともいえない。ポジが多いんだけど、ネガもないわけじゃない? これまた、何とも表現できないニュアンスなのです。テレビ向きじゃないね(笑)。
ともかく、多かれ少なかれ、また程度の差こそはあれ、現代人を支配しているのは、この種の「多忙さ」ではないでしょうか。僕の今日も、みなさまの今日も。
ともかく、矢継ぎ早に投げられる球、次々とかかってくる電話に対処している中では、「仕事のよしあし」について、あれこれ時間はない。
打ち返したら、身体中の筋肉のバネを使って、次のフォームをつくらなくてはならない。電話を切ったら、次の電話に備えて頭の中をゼロクリアにしなければならない。
そう、そんな時間は「全くない」。だけれども、それでも、本人としては「実は終わってからも、気になっている」「棘のように刺さっている」ものです。
海外勤務の後任に電話で仕事の引き継ぎをした瞬間。。。
打ち返した球が天空に弧を描く瞬間。。。
受話器を所定の場所に置いた瞬間。。。
「あー、あれはあれでよかったのかな」
そして、次の瞬間には、新しいポジション、新たに投げかけられる球、新たにかかってくる電話にとりかかっています。
それでも・・・
「あー、あれはあれでよかったのかなぁ・・・」
僕は共感しちゃうなぁ、この感覚。
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この官僚の方は、御厨先生という希代の聞き手に恵まれました。当初は「今日か明日の問題で忙しいときに、どうして、そんなことを思い出さなければならないのか。いやだ」と感じたそうですが、話してみると、「素直に話せた」といいます。
そして、最後には「自分がやってきたことは、必ずしも十全100点のやり方ではなかったことを認識したが、それが認識できてよかった」と感謝を述べるようになられます。
私たちも「よい聞き手」を持ちたいものだな、と思います。
仕事における内省とは、「よい聞き手に、自分の仕事のヒストリー語ること」なのですから。
今日、今、私たちはバッターボックスに立っています。
そして人生は続く。
追伸.
「職場学習の探求」は本日深夜、脱稿の予定です。生産性出版の深谷さん、ご迷惑をおかけしました。大学院生諸氏、お疲れ様でした。次は「インプロする組織」(三省堂)です。書くぞ。
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