2011.12.13 14:09/ Jun
先日、都内某所にて「企業人材育成の”内製化”に関する研究会」の準備会?である【INHOUSE】のワークショップを実施しました(ややこしくてすみません)。
直接のきっかけは1ヶ月くらい前になりますでしょうか。実務家の方々が、いろいろ「企業人材育成の内製化」で悩んでおられる、と僕がお聞きして、「実務家と研究者の方々が参加する【INHOUSE】という公開研究会をやります!」とブログで宣言したのです。その後、実務家のKさんという強力な助っ人を得て、実現に至ったものです。
経営学習研究会【INHOUSE】 : 人材育成内製化のアート(技術) サイエンス(科学)、そしてポリティクス(政治)を立ち上げよう
http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/11/i_n_h_o_u_s_e.html
人材育成の「内製化」について思う : ウチかソトかの二分法を超えて
http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/12/post_1811.html
当初、研究会の実行委員会として5名くらいきてくれたら嬉しいな、と思っていたのですが・・・そうしたら・・・あれよあれよと(嬉しい悲鳴)、ラーニングイノベータの皆さんからご協力のお申し出をいただき、結果として数十名の近くの方々と、実行委員会ならぬ「企画準備ワークショップ」を開催することになりました。
このような「緩い企画」にもかからず、【INHOUSE企画準備ワークショップ】の開催初日は、30名近くの方々にお集まりいただいたことは奇跡ですね(感謝!お疲れ様です!)。また、この問題の関心の高さが浮かび上がってきました。
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先日は、Kさんと相談し、当日は、こんなワークショップを開催しました。
1.まず各社ごとに事例をワークシートにまとめることを宿題とさせていただきました。
2.4~5名のグループに分かれて、細かく各社の事例を共有した上で、多種多様・異種混交の【INHOUSE】事例を「○○系」とネーミングしていきます。
3.それぞれの「○○系」にまつわる問題と可能性をポスターにまとめて、ポスターセッションです。そこを全員で「回遊」して理解を深めました。
4.最後に実務家のKMさんに【INHOUSE】に関するラップアップのプレゼンテーションをいただきました。
要するに、まずは「実態」を把握しよう、ということです。そのために、まずは、INHOUSEを「自分の組織のメンバーを対象にして、組織につとめる実務家の方のファシリテーション・インストラクションによって創設される学習・知識創造機会」と仮定義しました。
その上で、1から3のアクティビティに、各社事例をお持ち頂き、共有することで、「秘められている?INHOUSE」の実態を探るところからはじめようとしています。
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ワークショップでは、様々な内容が生々しく語られ、かつ、皆さん、思い思いにポスターセッションを愉しんでおられましたが、まず、「○○系」に関しては、いくつもの種類があることがわかりました。下記は、皆さんの分け方を参考に、少し僕が整理したものです。ゆるくね、わけたの、ゆるくね。(他にもあるわい、どこに目つけてんねん、このクソガキャー、、、とかって、青筋立てて怒んないでね。。。)
1.企業特殊技能系
組織の中にしか、プロフェッショナルはいないので、それを伝達するための学習機会が必要。あるいは、シニアが若手に技能伝承する機会も含まれる。組織の中のメンバーが教え手にならないと、そもそも無理。社外に伝えたい知識はない。
2.ヤング系?(ヤングって死語?)
社内のしがらみがない新人・若手層に対する研修は、社内メンバーによって行われることが多い。特に新人研修は、組織内部の知識や人脈をつくる上でも、組織メンバーによって交代で担われることがある。組織の中のメンバーでもできるし、効果がある場合もある。
3.ビジョン・理念系
組織理念の共有や再確認のために、組織内部で定期的に開催される会。「ふだん話さないことを膝をつめて話す」「青臭いことを語る」が頻出するキーワード。組織の中のメンバーがファシリテータになった方が自然。
グローバル化・多国籍化・雇用形態の多様化が進展し、”人を集めても、組織としてなかなか機能しないようになってきた”ことが背景にある。
4.社内勉強会系
社内で開催される勉強会。特に人事が主催するわけでもないが、増えていることは確か。背景には「組織の現状に不満足な若者が増えている」「企業特殊知識・スキルを獲得するだけでは不安な若者が増えている」ことがある。ミドル層以上にとっては、「教えることで学べる」「若手との人脈が増える」などという好意的な意見も多い。そもそも自発的なコミュニティなので、組織内のメンバーが実施する。
5.組織開発系
組織が専門化・機能分化しつづけたことに対応して、組織を超えた問題解決を行うときに、異なる組織間のメンバーが集められて実施される。目的を共有し、現状を分析、新たなコラボレーション機会を議論のうえで討議する。業務に極めてよった話なので、組織内部のメンバーがやっていることが多い。
6.社内コミュニティ系
社内のつながりが希薄になってきたこと、女性の離職率を下げるなどの背景があり、公式組織を超えて、組織メンバーの「関心」に基づいた社内コミュニティがつくられている。「働くママたちが集まる会」など。
このほかにも、多々あるのですけれども、だいたい、このような感じかな、と。反面、外部のベンダーに依頼することが多いのは、「プロジェクトマネジメント」「リーダーシップ開発」「チェンジマネジメント」などでした。
こうしてみますと興味深いことは、必ずしもINHOUSEが「コスト削減」だけから生まれているのではない、ということです。むしろ、「組織の中に生まれた新しいニーズや課題」に対応するがゆえに、起こっているとも言えるのもしれません。
「6.社内コミュニティ系」「5.組織開発系」「4.ビジョン・理念系」「3.社内勉強会系」なんていうのは、昔ならニーズはあまりなかったことではないでしょうか。つまり、新しい課題に対処するために、これらの【INHOUSE】が実行されています。
まとめますと【INHOUSE】の動向は、組織が直面する現代的テーマに密接に関連し、そこに人事・経営企画がデリバラブルな価値を提供したいとするとき、顕在化してくるのかな、とも思います。
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さて、このような【INHOUSE】なのですけれども、急激な展開を見せつつある一方で、現場では、様々な課題が生まれてきているようです。
■【INHOUSE】の課題
・参加者メンバーの固定化
・続けることがなかなか難しい
・時間的な調整を行うことが非常に難しい
・これで本当にいいのか、もっとうまいやり方があるんじゃないだろうか、自信が持てない
・講師のクオリティを保つことが難しい。もしダメでも、INHOUSEの場合は、なかなかNOと言えない
・社内の政治・しがらみにまみれた層には提供しにくい
・来て欲しい人が来てくれない場合がある
・何をやってもNOという層(ネガティブ層)の対処がややこしい
・ビジョン・理念系の場合、「日常の業務」と「非日常のINHOUSE」のバランスをうまくとれない。
・ワークショップなどが属人化してしまい、担当者の交代と同時に自然消滅してしまう
こうした問題を、どのように解決していくのか、今後議論ができるといいですね。
特に個人的に興味深かったのは、今回のワークショップにご参加いただいたJ-Centerさんこと、Tさんがご指摘なさっているように、【INHOUSE】を実践なさっている方自身が、「これで本当にいいのか、もっとうまいやり方があるんじゃないだろうか、自信が持てない」という不安に苛まれることがある、というお話しでした。
確かに一人で社内に研修・ワークショップをデリバリーしていれば、そのクオリティに対するフィードバックは、なかなかかかりませんね。
不安か・・・なるほどな、と思いました。こんなところにも、もしかすると【INHOUSE】を実践なさる方のコミュニティへのニーズがあるのかもしれないな、と感じていました。
マネジメント・キャリア・人事 ~ブログJ-center~
http://jqut.blog98.fc2.com/blog-entry-1463.html
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最後に、このワークショップ企画を通して、とても印象に残ったことを3つだけ。
ひとつめは、某社の方がおっしゃっていたことです。【INHOUSE】が推進されるようになったのは、メディアの影響もあるんじゃないか、というご指摘でした。
その方曰く、
【INHOUSE】で自分でもやろうと思えるきっかけになったのは、ソーシャルメディアの力が大きい。かつてなら、人材開発手法、ワークショップのやり方などは、専門家に閉ざされていて、一般の人事部の社員がアクセスはできなかった。
でも、今は直接、インターネットで、そういう知識が氾濫している。勉強しようと思えばできる。やろうと思えば、ワークショップや研修を開発している、世界中の人や団体にアクセスできる。人材開発の動向に、メディアの果たした役割は大きいと思うし、今後、ますます加速すると思う。
なるほど。【INHOUSE】は、コスト削減だけから生まれている状況ではないことがよくわかる言葉ですね。
ふたつめ。
ある方がご報告なさっていた【INHOUSE】の事例です。その会社では、「新人研修を4年目社員が企画・実施している」のですね。J-CENTERさんのブログにもありますように「研修を企画するという経験を人事のものだけにせず、新卒4年目に任せ、体験させる、それを人事がオブザーブする、これを繰り返す」ということだそうです。こうした企画は、今後、広まっていきそうですね。「教える経験」は、よい棚卸しの機会にもなるのではないでしょうか。
みっつめ。
企業内人材育成は、よくOFF-JTとOJTに大別されます。OFF-JTとは「仕事現場を離れて実施される教育訓練のこと」をさしますが、この概念、「おおざっぱ」すぎないでしょうか。このような6つの事例のうち、「OFF-JT」の中に含められるものは何でしょうか? また含められないものはどれでしょうか?
しかし、いずれも、現在の経営企画・人事の現場では、こういうことが実践されています。それに、学問上のカテゴリーがついていっていない気がするのは、僕だけでしょうか。
もうOFF-JTって言うな!
(数年前、僕は、もうOJTって言うな!と暴言をはいていましたが、今度は、OFF-JTにも吠えたくなりました・・笑)
最後よっつめ。
それは、この会をもってあらためて僕自身が実感したことです。それは「実務家の集合知」とはすごいものなのだな、ということです。安心できる場で、皆が協力し、何かを生み出そう、としたときに生まれてくるものはスゴイということです。このたびご参加頂いた方々には、心より感謝しています。ありがとうございました。
皆さんの奮闘ぶりをみて、「心ある実務の方々が集まり、集合知を生み出す、その集合知の中から次世代の実務家を育成する」という学習機会が、さらに社会にビルトインされると、もっとよりより社会になるんじゃないか、と思いました。
そして、そのとき、僕のような非実務家は、何をしていけばいいのか。何が自分の提供価値なのか。また、僕の学問である経営学習研究(Research of Management learning)は – そもそも「実務に資すること」が想定されている学問ですが – 何をしていけばいいのか。何が、学問の提供価値なのか。
非常に盛り上がる【INHOUSE】ワークショップの様子を見ながら、僕は、ぼんやりとそんなことを考えていました。
今後【INHOUSE】は、今年、もう一回、ワークショップが予定されています。次回ワークショップでは何を行うか、まだ決めていないのですが、前回KMさんにプレゼンテーションの内容を「おさらい」などして、前に議論を進めたいな、なんて考えています。
そして人生は続く
#【INHOUSE】はFacebookページにて、活動を記録しています。もし、皆様からご意見・アイデアがあれば、ぜひこちらにお願いいたします。
【INHOUSE】 Facebook ページ
http://www.facebook.com/pages/INHOUSE/255545127832314
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追伸.
話は変わりますが、こんなアカデミックイベント? アカデミックツアーをやります。中原研(東大)・岡部研(東京都市大学)主催で2/20開催。ウメサオタダオ展を見て、みんなで、ゆるく、真面目に、熱い議論をしよう!
フィールドノーツ研究会 俗称「勝手に『ウメサオタダオ研』」を開催します!
http://katte2umesao.blog.fc2.com/
フィールドノーツ研究会 俗称「勝手に『ウメサオタダオ研』のTwitter
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