先日、いつものように(?)職場訪問をさせていただいていたときに、伺ったお話です。ある老舗料理店では、伝統の味を守るため、意図的かつ戦略的に、自社の料理人を「不自由に育てること」を実践しているという話が、とても興味深いことでした。
一般に「育てる」という言葉をわたしたちが聞くと、「独力で何でもできるようになること」というイメージが脳裏にうかびますね。それが、通常「育つ」という言葉から連想されるイメージでしょう。
しかし、その料理店では、それが全く逆なのです。「不自由になるように育てる」。僕は、思わず、一瞬、ギョっとしてしいまいました。
▼
どういうことか、というと、老舗料理店にとって一番大切なことは、「味」を数百年にもわたって守り、維持することだというのです。昔、天才料理人たちが創作した味を、外に流出させず、何とか伝承し、守らなくてはなくてはならない。
そのためにもっとも大切なことは、確実な技術をもった料理人を育てることと、そういう料理人を外に出さないことなのだそうです。一般的に料理人は、いくつかのお店で修行をつみ、料理長になり、独立していくことが多いように思います。しかし、それをいかに防止するか、そのための戦略とは何か。
それは、ある人に伝承する技術の領域を極めて限定的、かつ、狭い範囲にしておくおき、長期雇用し、ジョブローテーションさせないことです。
そうすれば、たとえば、「焼き物の、ある技術」にはものすごく長けている料理人が生まれ、彼は数十年にわたって、その技を極めることができる。あるいは「蒸し物のある工程」についてのみ高い技術をもつ料理人を育て、彼をジョブローテーションさせず、長期にわたって、その工程を極めさせる。
しかし、逆にいうと、このことは「極めて狭く限定的なことしかできない料理人」が生まれる。つまり、「ごくごく狭い領域の調理」はできても、ひとつの和食を「料理」することはできないのです。
もちろん、そういう料理人は外の店舗では使い物になりません。なぜなら、ごく狭い領域の「焼き物」しかできないからです。しかも、その老舗に特殊な技術しか、その料理人は持っていません。
もちろん、他店舗で、料理長になったりすることもできません。なぜなら、すべてを自分で組み立てることができないから。すなわち「料理」をつくることができないからです。
「不自由に育てる」とは、そういうことです。
「自由になること」をコントロールするために、「他者の学習」を意図的に「組織化」する。
もちろん、長期雇用が約束されており、雇用されている側がそれで了解さえしていれば、それでも全くかまわない、ということになります。老舗料理店の味を職人として守り抜くことにプライドをもっていれば、全く問題ありません。それを外部から云々いうことは、余計なお世話でしかないでしょう。
外部のまなざしから見れば「不自由」でも、本人にとっては「自由」と感じられれば、そこには共約不可能な世界が広がっています。
▼
それにしても、したたかな戦略に思わず、うなってしまいました。しかし、そうした「したたかさ」の果てに、伝統は継承され、経営は維持されるものかもしれません。
ひるがえって考えるに、「不自由に育てること」は「料理の世界」のみならず、いろいろな世界にあるような気がします。
あなたは「不自由に育ててられていませんか?」
学びとは、人を自由にもしますし、不自由にもします。
そして、「自由」「不自由」の意味づけとは、あなたがたつ視点によって変化します。
嗚呼、学びとは、かくも、すさまじきもの。
—
■2011/11/18 Twitter
- 23:45 私は、君たちに何も教えないだろう。哲学は「知識」ではない。哲学とは、すべてを問題とする「内省の方法」だ。(Foucault, M.)
- 23:42 あらゆるものは、ある瞬間に「アート」になりえる! 人々が学びあう、その瞬間も「アート」になりえる!>”アートとは何か?”という問いでは、もはやない。”いつアートになりえるか?”だ。(Goodman, N.)
- 22:26 僕の母校、旭川東高校の同窓会が、来年8月26日@旭川で開催されるとのこと。僕ら’44期卒業生(’94年卒業)が、一生に一度の「当番≒幹事」とのことで、同窓生から、広報に協力して欲しいとの連絡がきた。喜んで協力します。まだ案内を受け取っていない方がいらしたら、中原までご連絡を!
- 18:05 突然、創造的なことをひらめいちゃう人とは、毎日、地道にコツコツと「新しいこと」を考えようとしている人です。>@tatthiy 創造的な仕事と仮説立案の繰り返し
- 18:04 興味深い>RT @yuuhey ワークショップとオンライン勉強会を主催する高校生、Pasta-K - @it自分戦略研究所 http://t.co/WYzI7dXu [in reply to yuuhey]
- 15:27 「ラーニングイノベーション論」Class of 2012 世界の事務局・保谷さんとプログラム相談。どうぞお愉しみに!
- 10:54 さ、次は会議だ。今日の研究タイムはここまで。
- 10:53 (2)一般的にアクションラーニングとは、1)身近な実践課題に対し、アクションをなす中で学ぶ。2)知識の創造と利用は不可分とみなし、学習にチームで取り組む、3)メンバーは「学ぶことを学ぶ」姿勢を示し、実践の暗黙の前提に対して問いかけることで学ぶ。(Raelin 2000)。
- 10:51 (1)アクションラーニングの定義は、極めて「混沌」としている。それは30年以上も前から存在するが、研究されればされるほど、意味するところが変化していく。つまり、研究者すべてが合意する定式化された手法は存在しない。
- 05:38 とても興味深いですね。どんなことが起こったか、また教えてください!RT @zaki_koto 組織の問題解決促進とチームビルディングに対話型鑑賞が有効なのではと考えており、勤務先でまさに今日から対話型鑑賞を実践し始めました。RT 「働く大人の学び」への対話型鑑賞の導入 [in reply to zaki_koto]
Powered by twtr2src.
—
■2011/11/17 Twitter
Powered by twtr2src.
—
■2011/11/16 Twitter
Powered by twtr2src.
—
■2011/11/15 Twitter
- 19:20 アポリア2「あなたのメッセージが届く他者は、あなたがメッセージを届けなくても”気づく他者”である。
- 19:18 アポリア1「あなたが、何かを気づかせたい他者には、もれなく、そのメッセージは届かない」
- 18:27 これ、読もう>「歴史の中の科学コミュニケーション」、科学者・技術者間での知識の伝達・伝播・流通を支援してきた人々に焦点化: http://t.co/NiF8xaVH
- 18:26 大学院ゼミ。中原の共同研究者で、オブザーバとして参加なさっている、青山学院大学・大学院 M1 木村優里さん (@kimurayuuri) の研究発表。研究テーマは「大人の科学の学びについて」です。 #nakaharalab
- 17:15 大学院・中原ゼミ。伊勢坊さんの研究発表「秘書職の熟達化に関する研究」
- 15:24 これ見たい>「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」:料理界の革命児フェラン・アドリア率いるシェフ達の働く厨房に密着したドキュメンタリー: http://t.co/1oIEWhbr
- 10:46 Marshmallow_Challenge_com : http://t.co/tEesDPHV
- 10:28 興味深いアクティビティ>マシュマロチャレンジ:マシュマロとスパゲッテイで、18分で、なるべく高い構造物をつくる。リファインとプロトタイピングの重要性。プランとインセンティブの弊害など: http://t.co/4xLa1l7k
- 10:28 どこでもそうなんですね(笑)RT@aoyoriao 研究者のこういうつぶやき、うれしいです。ほのぼの @chimey うちの息子は年長ですが、全く同じです @ksmkw 親父と息子の意識をし合った関係は幼少時から RT 朝の保育園。ママなら号泣、僕なら「もう、行っていいよ」 [in reply to ksmkw]
- 09:29 朝の保育園。ママが保育園に連れて行くと、TAKUZOは淋しくて号泣するらしい。僕との場合は、TAKUZO、一度も泣いたことはない。むしろ「ごくろうさん、もう、行っていいよ」という感じ(笑)。差別だ(泣)。
- 08:49 なるほど。一方で、今、自分が学生だったとしたら、アメリカに行くかな、と思考実験。RT @shigejam: 米国が受け入れる留学生は例年増え続けている。主な出身国は中国とサウジアラビア。日本からは減少:http://t.co/UatQeTyy
Powered by twtr2src.
—
■2011/11/14 Twitter
Powered by twtr2src.