先日、人事専門誌「人材教育」の僕の連載「学びは現場にあり!」の取材で、銀座・日本料理店「六雁」を取材させていただきました。ここは、かつて、組織開発コンサルタントの渋谷聡子さんからご紹介いただき、野村総研イデリアの永井さんとご一緒したことのあるレストランで、大変おいしい和食がいただけます。
六雁
http://www.mutsukari.com/
「単に美味しい」のなら「人事専門誌」の取材対象になりません。実は、このレストランは、「人を育てること」をコンセプトのひとつにしているレストランなのです。
キッチンは、全開放型フルオープンキッチンで、お客様から、料理人のすべての所作は見られます。そこは「舞台」として見たて、サービスのスタッフ、料理人、「皆が主人公である」というコンセプトで、料理をいただくことができます。
料理のサーブは、料理人自らが行います(サービスの方が行う場合もある)。料理人はお客様と対面で接して、料理の説明を行い、また、フィードバックを得るのです。
榎園さんはいいます。
「舞台の中で演じなさい。まだ準備ができていない、と思うのかもしれないけど、だからこそ、舞台の上演じなさい。演じなきゃはじまらないだろ。演じる先にあるものにしか、人はなれないのだから」
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フルオープンキッチンにより準備された「舞台」。それに加えて、毎日お昼時には、13時から1時間以上かけて、前の日のお客様がどのような人で、どのように料理をめしあがったか、など前日のストーリーを共有します。そのうえで、反省点はないのかなどを、全従業員でリフレクションします。
そのデータは、すべてデータベースに蓄積され、次回お客様がいらっしゃったときに、活かされます。事例共有会の後半は、今日、どのようなお客様がいらっしゃるのか、を共有し、各自、作業に入ります。
このほか、新しいメニューを考案する「料理会義」、月1回、売り上げと利益目標を確認する会議、など、通常のレストランと比べて、全員で話し合ったりする場面が多いことが特徴です。仕事をしていて、わからないことができたときには、相互に教えます。六雁には、このように「言葉」があふれています。
このように、六雁の人材育成の特徴とは「見えること」そして「言葉があること≒ことば化」です。
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これとは対極に、一般に日本料理の人材育成システムというのは、昔ながらの徒弟制で、「言葉」はありません。また、料理人とお客様は、多くの場合隔絶されていて、料理をしている現場は「見えません」。料理人がお客様と対峙することは、限定されています。
人材育成の初期状況、いわゆる周辺的参加は、「坊主」「追い回し」「アヒル」と呼ばれる時期からはじまります。
師匠の服の着替えを手伝ったり、雑用をひたすら投げられるのがこの時期です。なぜ「アヒル」と呼ばれるかというと、昔は、見習い下っ端は、冷たい調理場を裸足で駆けさせられたからです。うーん、ちょっとアヒルはいやかも。
その時期が終わると、「材料の処理」を行わせてもらえるようになります。まずは野菜、そのあとに魚の下処理を憶えます。なぜ魚が後か、というと、単価が高く、すぐに傷むからです。
その後は「調理」に進みます。焼き物、揚げ物、焚き物と進みます。「味を決めること」が最後の工程になるように、仕事を覚える順番が、組織化されています。
こうしたプロセスを進み、何年も、四季・旬を繰り返すことで、次第に熟達します。少し熟達すると、師匠に呼ばれ、「ちょっとあの店に3年いってこい」と言われ、そこでまた修行をつみます。
店内の垂直方向移動だけでなく、店を越境し、水平方向に移動を積み重ねがら、熟達をするのです。これは非常に興味深いですね。
最後は花板、料理長へとなっていきます。
この昔ながらの人材育成システムの特徴は、先ほどの六雁の人材育成とあえて対象づけるのならば、「言葉がないこと」です。今でこそ、そういうお店は少なくなったそうですが、「なぜですか?」「理由は?」と聞いたら、殴られることも少なくなかったそうです。
そして、たとえ殴られても「ありがとうございます」と応える。「理由を聞いても、誰もこたえてくれない」「理由を聞いても、黙ってやれ」、が特徴だったそうです。
六雁では、これとは異なるコンセプトで料理人を育てています。
面白いですね。
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榎園さんからは、六雁の歴史、大切にしているコンセプトなどのお話しを伺ったほか、現在抱えている課題などもお聞きしました。大変インサイトにとむお話しでしたが、得に僕が印象に残っているのは、これです。これは榎園さんが、ある女性パティシエの方におっしゃった言葉です。
「(一人前のプロになりたいのなら)24時間、お菓子の仕事をしなさい。テレビ見ていても、お菓子のことを考えなさい。テレビで綺麗な女優さんをみたら、この人の肌はなんで、こんなに白いんだろう。これをお菓子で表現するとしたら、どうなるんだろう? と考えなさい」
この言葉は、僕は大変共感できました。といいますのは、研究者の仕事も、これに似ているところがある、と僕は思うからです。
僕が理想とする「研究者」は、何を見ても、自分の研究領域のことに引きつけて、24時間、考えている人です。テレビを見ていても、友達とだべっていても、何をしていても、常に自分の研究領域のことが浮かんでくるのです。常に、自分の研究にひきつけて、日々を生きている。
もちろん、他人の理想は知りません。でも、僕自身は、そういうことなんだ、と思っています。
僕は「学習」を考えることが好きです。他人から「学び狂」だの「学び病」だの「学び宗教」だの揶揄されていることは知っています。でもね、僕には、それしかないんだよ。24時間、それしかないんです。
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最後になりますが、取材でお世話になりました六雁の榎園さん、人材教育の吉峰さん、井上さん、ありがとうございました。
そして人生は続く。
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■2011/11/09 Twitter
- 22:51 よく見つけましたね。そんなこと昔に書いてたね、懐かしい!>@sanu22 マーシャ・リンさんの知識統合とベライター&スカーダマリアの知識構築についての中原先生の過去エントリ。 知識統合、知識構築、そして知識創造・・・何が違うの? http://t.co/gYoBgyVq [in reply to sanu22]
- 22:28 今、NHK ED.放送中です>「学ぶことがリスクを下げる」大久保恒夫(セブン&アイ・フードシステムズ社長): http://t.co/DgkMqXkc
- 22:24 (2)今、見ている光景は、すべて、自分の研究につながっていると思えてしまう。よいことかどうかはわかりません。固定概念に囚われてます。近いうちに、Unlearnが必要なのは僕であると思います。でも、なんとなく、料理人の世界の、そんな感覚は理解できました。
- 22:23 (1)金井先生、僕は、今日、志ある元料理長へのヒアリングを通して、自分の仕事のあり方を考えていました。マッサージを受けているときでも、マッサージ師の熟達が気になり、髪を切っていても、美容師の人材育成が気になる。何をしていても、研究の言葉・概念・理論が浮かんで、頭から離れない。
- 22:10 RT @tkanai1954 中原さん、金井ゼミOBの村上さんというひとは、音楽が好きで、いつも音楽のことを考えているというから、ゼミの場で「今も考えているか」という私のQに、「もちろん!」でした。この一途さにふれたのは、経営学のゼミの場でも、神聖なものを感じた瞬間でした。 [in reply to tkanai1954]
- 22:08 「やりたくない仕事しか来ない。でも運はそこにしかないんだよ」(萩本欽一)
- 22:08 「自分の中で “これくらいの力がついたらこの仕事をしよう”と思っても、その仕事は、絶対に来ない。必ず実力よりも高めの仕事が来る。それはチャンスだ。ひるんじゃだめなんだ」(タモリ)
- 22:00 僕が理想とする「研究者」は、何を見ても、自分の研究領域のことに引きつけて、24時間、考えている人です。テレビを見ていても、友達とだべっていても、何をしていても、常に自分の研究領域のことが浮かんでくるのです。「学び狂」だの「学び病」だの揶揄されても、それしかないんだよ。
- 21:54 「六雁」榎園さんの言葉が、ある女性パティシエの方におっしゃった言葉で、印象深かったもの。「もし、君がお菓子をやりたいのなら、24時間仕事をしなさい。テレビ見ようが、お菓子を考えなさい。テレビで女優さんみたら、この人の美しさをお菓子にするなら、どう表現するかを考えなさい」深い。。。
- 21:50 パフォーマンスが主体をつくるということです。高尾君(東京学芸大学)や人材育成に志をもつ方々を、ぜひ「六雁」にお連れしたくなりました。機会あれば、榎園さんとお話しできると最高です。実に、興味深いです。 http://t.co/XMO5DNpf
- 21:47 舞台に上がるには勇気がいります。まだ、自分には演技力が不足しているから・・・言い訳ならいくらでも見つかります。でも「六雁」の榎園さんは、こう言います。「準備ができていなくても、演じなさい。演じなきゃはじまらないんです。演じる先にあるものにしか、人はなれないのだから」深い。。。
- 21:11 現代美の「ゼロ年代のベルリン」展、ちょっと前ですが、僕もフラっと見に行きました。みんなで対話して鑑賞したら面白いだろうね>RT @tomokihirano 11/27(日)ミューぽん対話型鑑賞 in 東京都現代美術館!: http://t.co/HB6eYKml
- 18:10 直ちに言葉に、プロポーザル化を!RT @masahiro_sekine: 昨日ゼミでもらったコメントを基に、研究計画案を練り直す。 散歩しながら考えてたら、いい案が浮かんできた!これならできるかも。
- 17:19 研修評価法では「数字による評価」と「ストーリーによる評価」というのもありますね。
- 17:18 定量評価が難しい場合にどうするか>定性的評価のひとつの手法「セリフメソッド」:上司や顧客に発言してほしい「褒めセリフ」を目標にする。サイバーエージェント・曽山さんのブログ: http://t.co/Y7Hd0snM
- 17:04 人事専門誌「人材教育」の取材で、銀座の日本料理「六雁」をお邪魔させていただきました。「舞台」としてのフルオープンキッチン、お客様のストーリーの共有会など、若い料理人を育てる学びの仕掛けに満ちた場所。数年前、SさんとNさんでお邪魔したお店です。懐かしい、その節は感謝!
- 16:56 尖りまくってリスキーで、それでいてセクシーでもある「新たな学びの場」を期待!ポスト・サイエンスカフェをめざせ!愉しんでね@kimurayuuri 新しいコンセプトを打ち出せるよう、がんばります! RT @makimuramaho @tatthiy サイエンスイベント企画中! [in reply to kimurayuuri]
- 16:52 学術雑誌論文投稿。試読いただいた脇本君、木村君、ありがとう。さすがに疲れた、もうダメポ。
- 09:29 朝っぱらから文献検索。個人レベルのUnlearn概念の起源をたどる。「プチ掘り出し物」の予感が漂う文献を発見して、なんか、幸せ。取り寄せ中で、まだ読んでないけど。
- 00:54 ほほー、興味深いですね。@mitsuru_3261 今日引用したRaelinも、アクションに関する研究はLewinを祖とする点で共通していると述べています!RT Lewinの有名な一節に通じますねRT @tkanai1954 アクションラーニングのRevansですね!? [in reply to mitsuru_3261]
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■2011/11/08 Twitter
- 23:51 おっしゃるとおりです!Lewinの有名な一節に通じるところありますね。RT @tkanai1954 アクションラーニングのRevansですね!?RT no learning without action and no action without learning
- 23:51 おっしゃるとおりです!Lewinの有名な一節に通じるところありますね。RT @tkanai1954 Action learning開祖のRevansですね!?RT no learning without action and no action without learning [in reply to tkanai1954]
- 21:01 素晴らしい!期待しています。誰も見たことがないスペクタコーな場を!RT @makimuramaho: 今 @tatthiy と @kimurayuuri と企画しているサイエンスイベント、ゲストが決まるかドキドキしていたけど、さっき無事決まりました!ふぅ、一安心。
- 20:32 素晴らしい!よく書けてましたよ。最後までやり抜いてください。Hard fun! RT @fumituki85: 土曜日に実験をし、日曜日にデータを打ち込んで分析をし、月曜日に執筆を終えるというスケジューリングはムチャだった。でも、とりあえず最後までやりきろう…。
- 19:05 内容理論と過程理論>RT @sanu22 キャリアについての理論が整理されている論文「キャリア・カウンセリングの概念と理論」(PDF) http://t.co/oosAz3Xz
- 19:02 大学院・中原ゼミ(@nakaharalab)今日の英語文献は、Hall and Heras(2010) Personal growth through career work.
- 18:01 行動なくして学習なし。学習なくして行動なし。: There can be no learning without action and no action without learning.(Revans, R.)
- 17:56 大学院中原ゼミ(@nakaharalab)。木村君研究発表。サービスラーニングにおける活動・リフレクションが学習成果に及ぼす効果に関する研究。職場における経験学習尺度の開発の試み #nakaharalab
- 17:11 大学院中原ゼミ(@nakaharalab)。関根さん研究発表。OJT指導員がどのような行動をとると、新入社員が伸びるのか研究。OJT指導員によるステークホルダーの巻き込みと翻訳活動。#nakaharalab
- 09:54 最高検察庁。お縄になったのではありません。検察官の人材育成システムのあり方について、検事さんたちと議論。
- 09:09 再放送。見逃した方へ。情報感謝!RT @clione: 10日(木)深夜0:15から再放送だそうですRT @tkanai1954: あーあ、見逃した。RT NHK「プロフェッショナル」三谷幸喜さんhttp://t.co/IzHjEltV
- 08:30 生後2日目。元気に泳いでおるわ。 めでたい、めでたい。ダハハ。http://t.co/Z0SF1VCV
- 06:37 突出する最富裕層>米で所得格差拡大、過去30年弱で、上位1%の最富裕層の所得は275%増加。上位2割の富裕層も65%増加。下位2割の低所得層は18%増。全体の平均伸び率は62%増加。(日経)
- 06:33 今からでも、日本の出版業界が協力して、プラットフォームをつくれないものなのか>電子書籍の価格決定権、アマゾンが出版社側に要求(asahi) : http://t.co/Bdz4uRHS
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■2011/11/06 Twitter
- 17:58 ルソーの言葉もよいですね「広場に杭を立てよう 花を飾ろう それが祭になる」 RT @syasuak アラン・ケイとルソーに並んでる>コミュニケーションのあるところに「学び」は生じる。コミュニケーションのないところに「問題」は生じる:http://t.co/lXu0ikd6
- 17:53 まさにおっしゃるとおりですね>コミュニケーションのあるところに「学び」は生じる。コミュニケーションのないところに「問題」は生じる。(美馬のゆり):http://t.co/lXu0ikd6
- 14:37 アーヴィングペンと三宅一生展。三宅の服作りから、パリコレをへて、写真が撮影され、ポスターがでるまでのプロセスを展示。バックヤードとかメイキングが好きな人にオススメ。 (@ 21_21 DESIGN SIGHT) [pic]: http://t.co/nKknE0nV
- 13:18 昨日はDischargeの日。今日はChargeの日。
- 06:14 ほほー>人工知能に受験の試練・・・10年後の東大合格目標(yomiuri): http://t.co/xJiOeZJA
- 06:12 日経の書評で最相葉月さんが紹介なさっていました。医者の診療時の思考プロセスとは?「誤診は、医師の思考が見える窓」と考え、失敗談に耳を傾けたルポ。面白そう>「医者は現場でどう考えるか」http://t.co/JFqSzK9j
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