2010.12.16 17:30/ Jun
昨日の東京大学教育学部・授業「組織学習論」では、リーバイス、ナイキなどの、いわゆる「グローバル企業」において、HRD責任者を歴任なさった、日本を代表するグローバルリーダーの一人である、増田弥生(ますだやよい)さんを、ゲストにお招きしました。
授業「組織学習論」は、「高等教育から仕事現場への移行(School to Work Transition)」「組織社会化」「経験学習とリーダーシップ開発」そして「グローバルリーダーへの開花」という「これから学生たちがたどるであろうプロセス(たどって欲しいプロセス)」を一連の理論解説をしつつ、折に触れて、一流の実務家をお招きして、みんなでディスカッションすることをめざしています。
増田さんには、授業の最終モジュール「グローバルリーダーへの開花」を幕開けするにふさわしい、素晴らしい学びの機会をいただきました。この場を借りて心より感謝いたします。
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授業は、増田さんと僕との対談形式ですすめました。
増田さんが、どのようにして「グローバルリーダー」への道を歩まれたのか、を「旅(Journey)」の形式で、時折プレゼンを挟みながら、物語っていくとともに、ご自身がどのように「グローバルリーダーを育成しようとしていたのか」についても、実際の事例をまじえてお話し頂きました。とても興味深いお話でした。
増田さんのお話は、僕自身にとっても、深い学びがありました。
もっとも印象的だったのは、
「会議のセッティングから何から何まで、どんな仕事をしても、それが結果として、”リーダーの育成”につながるように、仕事をして、仕掛けていくのが、HRの仕事」
という言葉です。
たとえば、各国の事業部長が集まって、「企業戦略」について話し合う会議があるとします。会議のデザインをHRと社長がオーナーシップをもって行う、という例があるのだとしましょう(まずこうした会議のオーナーがHRだというところが決定的に異なりますね)。
その際、HRは何をするか。
その場の空間デザイン、会議の進め方、対話の場作り、ファシリテーション。さまざまな「仕掛け」を、意図的に行い、結果として「リーダーが発達できる」ような「環境」を整えていくのですね。様々な「仕掛け」によって、信頼感をつくり、チームとしての団結感をつくり、さらにはそれぞれのストレッチ目標を設定させる。自然とそういう「場」をつくるのです。
おそらく、参加するリーダーの側からみれば、それは気の利いた「戦略の会議」「ビジネスの会議」にしか見えないかもしれません。しかし、それでいいのです。彼らは「学びの言語や意図」「HRの言語や意図」について知っている必要はありません。
しかし、一方、それを仕掛けるHRの視点からみれば、その場こそが、「リーダー育成」の場としてデザインされているということでしょうか。その場が、「HRD」「リーダーシップ開発」「学び」という視点から、しっかりデザインされているのです。
つまり、一言でいれば、
リーダーの発達機会が、仕事の中にしっかり埋め込まれている
ということです。
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しかし、この考え方は、一般的なリーダー育成のプログラムとは考え方を異にします。
一般的なリーダー育成のプログラムは、「仕事」と「リーダーシップの開発」を別々の事象としてとらえ、リーダーシップ開発に資するとされている「お決まりのコンテンツ」を、デリバリーする。
しかし、増田さんがおっしゃるリーダーシップ開発は、「仕事」と「リーダーシップの開発」を別々の事象と捉えられていないということです。ここがものすごく面白いところですし、僕が共感するところです。
学習研究者に便所スリッパで後頭部をひっぱたかれるのを覚悟で断言しますと、1980年代以降の学習研究の趨勢(のひとつ)を一言で表現するならば、
「仕事」と「学び」を分けて考えない
ということです。
むしろ、
「仕事」の中に「学び」が埋め込まれている(Embeddedness)
と考えます。そこにあるのは、Learningful work(学びの機会が埋め込まれた仕事)であり、両者が分断された「Learning / Work」という状況ではありません。
これまで、僕は様々な著書を通して、このことを主張してきました。近著「職場学習論」の主張も、究極的には「仕事と学びを分けずに考え、職場の中で人を育成しましょう」ということにつきます。ですので、増田さんのおっしゃることに大変共感することができました。
とにもかくにも、日々の「仕事」のプロセスの中に、結果として「リーダーシップの開発につながるであろう要素」をいかに埋め込むことができるかが、決定的に重要なのかな、と思います。
最後になりますが、このような貴重な学びの機会をくださった増田弥生さんに、心より感謝いたします。ありがとうございました。
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■2010年12月14日 中原Twitter
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