2010.8.26 09:44/ Jun
キース・ソーヤー著「凡才の集団は孤高の天才に勝る」は、創造性を考える上で、ひとつのヒントを提供してくれる本だと思います(高尾隆君の授業の課題図書でした)。
少しくだけすぎたタイトルからは、よくある自己啓発本の類を想像してしまいますが、中身はいたって?真面目です。
専門的な内容に偏ることなく、一般の方にもわかりやすいように、各種の研究知見を紹介しているのではないでしょうか(専門家の方はソーヤーの論文を読むとよいでしょう)。
その主張をあえて3行で述べるとすると(暴論覚悟)
1.飛躍的な創造性は、個人というよりも、集団の、即興的なコラボレーションの中から生じる
2.創造性の発揮は、組織の壁にとらわれない人の出会いやつながり、葛藤や衝突、いわゆるコラボレーションウェブの中にある
3.創造性は、グループがフロー状況に入ったとき、すなわちグループフローの状況で生まれやすい
ということですね。
これらの内容を、時には、研究知見、時には事例を通して一般の方にわかりやすいように説明しています。
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著者のキース・ソーヤーは、学習研究者ならば、一度は聴いたことがある名前のはずです。
ソーヤーは、フロー理論で有名なチクセントミハイの元で、創造性に関する研究で博士号を取得。現在はワシントン大学で教鞭をとっています。The Cambridge Handbook of Learning Science(学習科学研究の有名なハンドブック)の編者であることから、学習研究者は、その名前を一度は目にした事があるのではないでしょうか。
また、自身がジャズピアニストでもあります。企業でも創造性やイノベーションに関するコンサルティングを提供しているようですね。
面白い人ですね。
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本書は「読んだ直後から、ドパーンとクリエィティビティを発揮したい!」と願う方には、全く向いていないとは思います。
が、ぜひ、これをきっかけに「自分がクリエィティブな瞬間とは、どういうときなのか?」「何がわたしのクリエィティビティを阻害しているのか?」を「振り返ってみる」とよいかもしれませんね。
そういう「見直し」をきっかけに、「自分が最もクリエィティブでいられる環境」を、自らデザインできる可能性があるかもしれません。
個人的には、学問が、実務家に対してできる役割のひとつは、そういうことではないか、と思います。
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追伸.
東京大学安田講堂でのマイケル・サンデル教授の講演会「ハーバード白熱教室 in Japan」が無事終わりました。議論に参加頂いた皆様、ありがとうございました。また関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。本日の新聞各社の朝刊、また「NHKおはよう日本」でもとりあげられました。誠にありがたいことです。
ちなみに昨日の講演会の模様は、10月31日と11月7日、NHK教育テレビで放送予定です。また、放映後には、東大テレビ、東京大学 on iTunesUにても配信予定です。どうぞお楽しみに!
東大テレビ
http://todai.tv/
東京大学 on iTunesU
http://ow.ly/2um8G
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ところで、今回のサンデル教授の講演会は、我々の身近な話題から政治哲学に関する深遠な対話を行うことの大切さを教えてくれました。
僕は、あそこまで、聴衆から手があがるとは思わなかったし、学生が英語を話せるとは思いませんでした。そして、より大切なことは、たとえうまく話せなくても挑戦する学生がいたことにも感銘を受けました。政治哲学、正義論の、深遠な、かつ知的にエキサィティングな議論も、愉しむ事ができました。
サンデル教授が批判しているのは、自律した個人が、個人にかかわるすべてを所有することができるとする考えであり、かつ、伝統的共同体に個人がすべて回収されるとする考えであると感じます。むしろ、個人は共同体や社会に強く規定されている存在であり、かつ、その共同体とは、多様に存在しているというコスモロジーを主張したいのかな、と感じました。
が、学問的議論もさることながら、個人的に関心をもっていることは、この講演会をきっかけに、我が国の高等教育、大学教育を考えることです。なぜなら、それがセンターにおける「僕の仕事」だからです。
下記は、ある先生に教えてもらったサイトなのですが、サンデル先生の講演会をきっかけに日本の高等教育が置かれている状況をとらえなおす上で、よいヒントを提供してくれているように感じました。ある科学技術社会論を研究なさっている伊藤憲二先生が、洞察にみちた分析をなさっており、首肯できる部分が多いと感じます。あなたは何を感じますか?
ハーバード白熱教室は日本で可能か?(前編)
http://ow.ly/2uPG8
ハーバード白熱教室は日本で可能か? (後編)
http://ow.ly/2uPGD
今、日本の高等教育をめぐる諸問題は、教員個人の問題というものもさることながら、社会的、かつ、経済的、かつ経営的な、つまりは「構造的問題」として立ち現れていることをお感じになられるのではないでしょうか
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東京大学 大学総合教育研究センターの僕のチーム(教育環境デザイン部門)は、あたりまえのことですが、今回の「講演会」を「講演会だけ」としてとらえておりません。
それは、私たちのミッションである「東京大学の教育環境デザイン」に資するあまたある企画のひとつでしかし、「多くの方々の協力によって実現する事ができた、とてつもなく貴重な機会」であったと考えています。それは他の施策と様々に結びつき、さらなる発展をとげるでしょう。
繰り返しになりますが、学内外の関係者のご尽力には心より感謝しております。本当にありがとうございました。
今後の計画は、また、しかるべきときにお知らせできると思います。月並みな言い方かもしれませんが、「物事は順序」であり、そして、「終わりははじまり」なのです。
そして人生は続く・・・
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■2010年8月25日 中原のTwitterタイムライン
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